漆黒の深海で、冷たい水圧に包まれながら、ただ眠り続けていたかった。波も音すらも届かない、永遠の静寂の中で…………。
……深い闇の中、私を呼ぶ声がする。
……私を呼ぶのは誰?
その声は優しさと悲しみを孕み、私を引き戻そうとしているようだ。
胸を抉るほどに懐かしく、渇望していたあの人の声に似ている。
……でも……あの時、全てを壊した私は、このまま眠り続けた方がいい……起こしてはいけないよ。
私が眠るクレードルは、自己修復可能な複合素材でできた楕円形のカプセルだった。中にはシートと私を守る生命維持装置が設置されて、深海の水圧にも耐えられる構造だ。
私が機能停止状態にある間も、クレードルに内蔵されている原子ジャイロは正確に位置情報を記録し続けていた。眠っている間にこの惑星は公転を1万回繰り返していたらしい。
もし、クレードルがなければ私の身体は既に朽ち果てていただろう。それでもよかったのに。
原子ジャイロは少しずつ海面に向けて上昇している数値を示している。揺れが変化した――これは……海上の波?明らかに違う。私の周囲に変化が起きている。外の世界に近づいているのだ。
……私を呼ぶ声が大きくなっている。
……だめ。起こしてはだめ。
……起こしては……だ……め……。
眠っていた身体がひとつずつ目覚め始めた。暖かい感触が身体中を巡り、私の機能がセルフチェックを終える。やがて聴覚と視覚が戻り、クレードルのハッチがゆっくりと開いた。外気温と気圧の差で白煙が立ち込める。
私はゆっくりと身体を起こした――白煙の中、罪深い私を迎え入れる世界と、再び向き合う覚悟をしながら。