大智side……
「あー、あの野郎……、思いっきり馬乗りになって殴って来やがった」
「大丈夫か? 早く氷で冷やさないと。その足で病院に行こう。証拠も残っているから暴行罪を上乗せで請求するよ。それにしても……木梨が直接会いたいって言うから同席したけど、まさか君が殴られる側になるとはね」
会議室を出て早々、痛々しい頬を摩りながら、俺は佐久間の言葉に頷いた。
実は佐久間が同席した理由は、万が一俺が暴走した時の歯止めだった。どんなに相手が悪くても、先に手を出してしまえば自分が悪役になってしまう。なのに、まさかの真逆な結末に笑うしかなかった。
「それに弁護士様の姿を見りゃー、向こうも慌ててボロを出すと思ったしな? あの慌て喚いた顔は見ものだったな! あー、あんな奴のせいで波留が胸を苦しめていたと思うと歯痒過ぎる」
そしてメロ。あんな男に惚れていたのかと思うと、情けないというか、見る目がないと言うか。
申し訳ないが、メロ自身も浅く見えて幻滅した。あんなのに騙されて、肉体も時間も費やしていたかと思うと苦笑しか零せない。
「佐久間、申し訳ないけれど同僚の件は、本人と直接やりとりしてもらっていいか? 俺は妻の傍にいてやりたいんだ」
相談し始めた時とは変わってしまった状況。守るべきものを支えるために、俺は佐久間にバトンを渡した。
「頼まれたよ。うん、そこでそう言える木梨で安心したよ。奥さんにもよろしく伝えててくれ」
こうして日当の件も無事に片付いた俺は、改めて波留に報告をして安心せてあげた。
まだ精神的な面から回復しきれていない波留は、ベッドの上で報告を受ける形になった。
「日当は会社をクビになったし、慰謝料も佐久間が請求してくれるから安心していいよ」
「そうなんだね。ありがとう、大智さん……。私一人じゃ、きっと泣き寝入りして終わりだったと思う」
泣き寝入りで済めばいい方なんだけどねぇ。
波留は分かっているのだろうか? あの男は波留の弱みを握って、性的にも社会的にも追い詰めて自分好みの
ちなみに何百万という慰謝料を払ってもらった上にスーパーからも数ヶ月分の退職金を受け取った波留は、しばらくの間身体を休めるために自宅休養を選択していた。
むしろ、これに懲りたのなら働きに出ずに専業主婦を選んでほしい。
「大智さん……私が悩んでいる時に、ちゃんと話を聞いて下さってありがとうございました。大智さんが聞いてくれなかったら、今頃どうなっていたか」
「そんなの当たり前だろ? 俺にとって波留は大事な妻なんだ。波留に元気がなければ心配するのは当たり前だし、いつだって笑顔で幸せでいてもらいたいと思っているからね」
それは俺だけじゃない。心も同じように心配をしていたのだ。
「だから、俺には遠慮しないで何でも話してほしいな。約束しよう? これからは一人で抱え込まないで、何でも相談し合うって」
「何でも……?」
まだ完全に戻っていない顔色。少し荒れた唇が小さく震えたのが見えたので、寄り添おうと顔を近付けて、吸い付くようにキスを重ね合った。
久方ぶりのキスは優しくて、とても幼かった。
ベッドの中で眠る我が子の額にキスを残すような、愛しさが溢れるキスを交わし合った。
「……大智さん、私のことを信じてくれてありがとう。私はそれが一番救われたの」
「大袈裟だな、波留は」
俺の胸元をギュッと掴みながら、ポロポロと大粒の涙を流す彼女。そんなか弱い波留を抱き締めながら俺は、彼女を守れた余韻に浸っていた。
——まさか、この数ヶ月後に絶望に落とされることも知らないで。
————……★
「そして、あとの女性人達は……?」