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第23話 信じてくれて、ありがとう

 大智side……


「あー、あの野郎……、思いっきり馬乗りになって殴って来やがった」

「大丈夫か? 早く氷で冷やさないと。その足で病院に行こう。証拠も残っているから暴行罪を上乗せで請求するよ。それにしても……木梨が直接会いたいって言うから同席したけど、まさか君が殴られる側になるとはね」


 会議室を出て早々、痛々しい頬を摩りながら、俺は佐久間の言葉に頷いた。


 実は佐久間が同席した理由は、万が一俺が暴走した時の歯止めだった。どんなに相手が悪くても、先に手を出してしまえば自分が悪役になってしまう。なのに、まさかの真逆な結末に笑うしかなかった。


「それに弁護士様の姿を見りゃー、向こうも慌ててボロを出すと思ったしな? あの慌て喚いた顔は見ものだったな! あー、あんな奴のせいで波留が胸を苦しめていたと思うと歯痒過ぎる」


 そしてメロ。あんな男に惚れていたのかと思うと、情けないというか、見る目がないと言うか。

 申し訳ないが、メロ自身も浅く見えて幻滅した。あんなのに騙されて、肉体も時間も費やしていたかと思うと苦笑しか零せない。


「佐久間、申し訳ないけれど同僚の件は、本人と直接やりとりしてもらっていいか? 俺は妻の傍にいてやりたいんだ」


 相談し始めた時とは変わってしまった状況。守るべきものを支えるために、俺は佐久間にバトンを渡した。


「頼まれたよ。うん、そこでそう言える木梨で安心したよ。奥さんにもよろしく伝えててくれ」


 こうして日当の件も無事に片付いた俺は、改めて波留に報告をして安心せてあげた。

 まだ精神的な面から回復しきれていない波留は、ベッドの上で報告を受ける形になった。


「日当は会社をクビになったし、慰謝料も佐久間が請求してくれるから安心していいよ」

「そうなんだね。ありがとう、大智さん……。私一人じゃ、きっと泣き寝入りして終わりだったと思う」


 泣き寝入りで済めばいい方なんだけどねぇ。

 波留は分かっているのだろうか? あの男は波留の弱みを握って、性的にも社会的にも追い詰めて自分好みの奴隷彼女にしようとしていたのだ。おそらく初犯じゃない。あの男は今まで何人もの女性を泣かせてきたタイプだ。


 ちなみに何百万という慰謝料を払ってもらった上にスーパーからも数ヶ月分の退職金を受け取った波留は、しばらくの間身体を休めるために自宅休養を選択していた。

 むしろ、これに懲りたのなら働きに出ずに専業主婦を選んでほしい。


「大智さん……私が悩んでいる時に、ちゃんと話を聞いて下さってありがとうございました。大智さんが聞いてくれなかったら、今頃どうなっていたか」

「そんなの当たり前だろ? 俺にとって波留は大事な妻なんだ。波留に元気がなければ心配するのは当たり前だし、いつだって笑顔で幸せでいてもらいたいと思っているからね」


 それは俺だけじゃない。心も同じように心配をしていたのだ。


「だから、俺には遠慮しないで何でも話してほしいな。約束しよう? これからは一人で抱え込まないで、何でも相談し合うって」

「何でも……?」


 まだ完全に戻っていない顔色。少し荒れた唇が小さく震えたのが見えたので、寄り添おうと顔を近付けて、吸い付くようにキスを重ね合った。


 久方ぶりのキスは優しくて、とても幼かった。

 ベッドの中で眠る我が子の額にキスを残すような、愛しさが溢れるキスを交わし合った。


「……大智さん、私のことを信じてくれてありがとう。私はそれが一番救われたの」

「大袈裟だな、波留は」


 俺の胸元をギュッと掴みながら、ポロポロと大粒の涙を流す彼女。そんなか弱い波留を抱き締めながら俺は、彼女を守れた余韻に浸っていた。



 ——まさか、この数ヶ月後に絶望に落とされることも知らないで。


 ————……★


「そして、あとの女性人達は……?」



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