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第11話 嫉妬 【♡有】

 その後、重っ苦しい空気の中、俺達は自室へ戻ってそのままベッドに寝かされた。

 すぐ隣にはマットレスに寝かされた心が静かに寝息を立てている。俺もこのまま寝たふりを貫いて、ダンマリを決め続けたい。


(うぅ……っ、頭がクラクラする……身体がダルい)


 波留は何か言いたそうに傍で座り込んでいたが、俺は口を紡いだまま横になっていた。


「大智さん、私……っ」


 ハラリと落ちた服が背中を掠めた。何だと薄目を開けると、そこにはタンクトップ姿で四つん這いになった波留の姿が迫っていた。

 耳から落ちた髪が俺の頬を撫でる。紅潮した顔と潤んだ瞳が責め立てるように射抜いてくる。


 毛布越しに伝わる波留の重さに、じんわりと興奮を覚えた。


 だが、悲しいことに飲み過ぎた日のムスコは、ポンコツでヘナチョコなんだ……っ! いくら波留がしたところで——……。


 上半身に纏っていた着衣を脱ぎ去ると、彼女は毛布の中に入り込んで、いい子いい子と撫でてきた。円を描くように頭を撫でて、チュッとキスを落とす。


 普段は受け身になりがちな波留が、積極的に迫ってくるなんて。


 馬に跨るように上に乗った彼女の身体が、ユサユサと揺れる。メロの時にもクンクンと匂いを嗅がれたけれど、同じ行為でもする相手が違うだけでこんなにも気持ちが違うものなのか?

 彼女の舌が猫のように舐めてくる。甘えてくる様が可愛くて、思わず抱き締めたくなる。


 しかしだ、そんなことをしてしまえば、狸寝入りをしていたことがバレてしまう。

 だが、そんな俺の心境なんてお構いなしに、スリスリと頬擦りをしてギューっと胸を押し付けてくる。俺の服の中に指を忍ばせて、クルクルクルっとコリコリを捏ねちゃって。


 ヤバい、コレはズギュュュュー……ンっとアッパーしてしまう。


「ん、やだ……なんであんな美人が大智さんの傍にいるの?」


 え、もしかして嫉妬しちゃってる?

 隣には心が寝ているにも関わらず、随分と積極的で嫌いじゃない。可愛すぎるぞ、俺の妻!


 大きなマシュマロ柔肌に挟まれて、まるで赤ん坊のように全てを委ねている気分に陥った。

 すっかり寝落ちしていると思っている俺の唇を貪るようにキスをして、舌を絡ませて欲情を発散さえようと必死だった。


 動きたい。このまま激しく舌を絡ませて気持ち良くさせてあげたいのに、起きていることをバラすわけにもいかずに歯痒い気持ちで一杯だった。

 あぁ、だが可愛い。可愛いというかエロい。普段、自分からアピールしてこない波留が一生懸命に俺を求めている。その行為だけで満たされる想いだった。


 その後、精一杯動く波留さんの誘惑に負けて、爆発してしまったのは言うまでもなかった。


 ————……★


 次の日、目を覚ますと何事もなかったかのように台所で朝食を作っている波留の姿が視界に入った。

 エプロン姿で味噌汁を作って、愛らしい姿に胸がズキュンと射抜かれる。


「は、波留……っ! 昨日は俺……!」

「大智さん、おはようございます。昨日はお楽しみだったようですが、ご気分はどうですか?」


 はぅ……!


 満面の笑みのはずなのに、目が笑っていない!


「違うんだ、メロとは偶然お店で会っただけで、何もやましいことはなかったんだ!」

「…………別に、そんなこと聞いていませんけど?」


 ぐはぁ! ち、違うんだ! 俺は、その!


「大智さん、昨日、途中から起きてましたよね?」

「え……?」

「だって、必死に喘ぎ声を抑えているのが分かったもん。あれで寝てると言う方がおかしいです」


 ば、バレていて俺を襲い続けていたんですか? 意外とサディストなんですね、波留さん。

 俺は気まずそうに黙り込んでいると、波留が俺に寄り添ってそのまま抱きついてきた。


 二丘の膨らみが押しつけられる。

 おっと、朝からムスコが「オハヨウゴザイマス!」と元気よく挨拶をしてきそうだ。


「……昨日の方は大智さんの職場の方なんですか? あの方とずっとご一緒だったんですか?」

「違……っ、元々は萩生と一緒だったんだけど、訳あって一人で他の店に行ったら偶然会ってな? でも昔馴染みの店だから、店長も一緒に飲んでて……! やましい事は何もないから! 俺は波留と出逢ってから他の女性と関係を持ったりしてないから!」


 なーんて言うと、出会う前は節操なしだったことがバレそうだが、昔はともかく今は波留一筋だということは分かってもらいたい。


 だが、それでも波留は納得してない様子で膨れっ面で不機嫌なままだった。


「……でも、大智さんはそのつもりでも、あの人は」

「え、野々原? いや、アイツには他に好きな男がいるから大丈夫だよ(もう振られてしまったけど)」

「そう……なの?」


 そう、俺のようなツマらない男には興味がないって豪語していたので問題ないはずだ。


「そうそう、アイツが俺のような一途で面白味のない男は願い下げだって話してたからな。大丈夫だよ」


 その言葉に安堵したのか、波留は綻ぶように笑って胸を撫で下ろしていた。


「そうなんだね。あの人には大智さんの良さが分からなかったんだ……。一人の女性に一途って、すごく大事なのことなのにね」


 目尻に涙を浮かべながら笑う波留の顔があまりにも美し過ぎて、俺はまたしても彼女のことを強く抱き締めていた。



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