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第8話 三百万は大金です……

「三百万って。メロお前、何をしたんだよ?」

「仕方ないじゃない! 向こうが弁護士に依頼して訴えてきたんだから‼︎」


 それにしても、確か三百万ってその類の慰謝料で最高金額ではなかったか?


 よっぽどのことをしたに違いない。

 きっとコイツのことだから、相手の奥さんを完膚なきまで打ちのめしたのではないだろうか?


「否定は出来ないわね。そう、向こうの奥さんが精神病んでしまって、自殺未遂をしたの。幸い一命は取り留めたみたいだけど、低酸素で脳にダメージが残って身体に麻痺が残ったの」

「うわっ、最低じゃん! 見損なったわ、メロ!」

「だって仕方ないじゃない! 奥さんとの関係は完全に冷め切っているから子供達が独立したら結婚しようって言われたんだもん!」

「不倫するような糞野郎の言葉を信じたのか? あー、ダメだお前。三百万じゃ足りねぇよ、もっと払えよ」


 とはいえ、どの程度の後遺症が残ったのかも分からないし、一概にメロだけが悪いとも言い切れない。

 そもそも家庭があるくせに不倫をした男が一番悪い。その次に奥さんがいると分かっていても関係を続けていたメロが悪い。

 そして屑を見抜けなかった奥さんも悪い。


 あー、不倫って何処にも救いがないな。

 そんな親のいざこざに巻き込まれた子供が一番可哀想だわー。


「サレ妻とは話をしたのか? ちゃんと診断書とか見せてもらったのか?」

「会ってないけど、お金さえ払って縁を切れば追加で訴えることはしないからって言われて」


 ——俺はね、常々思っているんだけれども、不倫の慰謝料は傷ついた奥さんに支払うものだから払う義務が生じるのは理解でいる。


 だが、旦那と別れない場合——……何故、シタ女だけが払わなければならないのだろう?


 最終的に不倫に便乗したメロが悪いのだが、いくらなんでも既婚者と名乗っていたとは考えにくい。

 分かっていて関係を持つような略奪女は、当然支払うべきだと思うし、然るべき制裁を受けるべきだ。


 だが、雨降って地固まる……つまり再構築した場合、向こうの男はメロに慰謝料払う義務は生じないのだろうか? どう見ても結婚詐欺だろ、これって。


「納得いかねぇよなー……! なぁ、その男の行く末を俺が見届けてやるから、教えろって」

「い、いい! そんなことしないで! 私ももう関わりたくないし、あんな男!」


 何とも言い難いモヤモヤが心に広がっていったが、仕方ない。その男のイチモツが木っ端微塵に弾け飛ぶことを切に願った。


「そんなことより、社長はどうなのよ? アンタの奥さんもかなり若いんでしょ? ご自慢の可愛いワイフが浮気してたらどうするのよ?」


 反撃のつもりか、メロは片方の口角を上げながら皮肉を言い放った。


 もし、波留が浮気をしていたら……?


「——鬱だ、死ぬ。そんなこと想像しただけで吐血して死にそうだ」

「アハハハハ、ザマァね! ってか、アンタもつまらない男になっちゃったから、奥さんも刺激を求めて浮気しちゃうかもよ?」

「はぁ? お前が不倫してたからって、波留まで同類にすんなって! 波留は絶対に俺を裏切ったりしねぇって!」

「この世に絶対なんてあり得ないのよ!」

「いんや、波留に限って俺を裏切るようなことは絶対にあり得ない! だって俺は困っていたアイツの為にお金を————……っ!」


 しまった、言い過ぎた!


 ハッとした俺は慌てて口元を押さえたが、すでに手遅れだった。不審な視線を送るメロと店長。ジリジリと近付く二人の圧に耐えきれず、俺は初めて妻との間の後ろめたさを白状した。


「波留と知り合って間も無く……お金がなくて困ってると言われて、貸したんです」

「貸したって、一体幾ら? アンタさぁー、親しき間柄でもお金の貸し借りはやめていた方がいいのよ?」


 だから知られたくなかったんだよ……!


 だが、メロになんと言われても、何度そのシーンをやり直すことになっても、きっと俺は波留にお金を援助するだろう。


「波留は俺の運命の相手だからな。金をやったことに後悔はない!」

「あーっそ。ちなみに幾ら貸したのよ?」


 メロの質問に俺は言葉を詰まらせた。

 そう、さっき三百万は大金だって説教したばかりなのに。


 さっきのメロのように唇を尖らせて、俺は渋々と三本指を立てた。


 まさかと顔を引き攣るメロ。


「え、三十万……?」


 フルフルと首を横に振る。大きなため息と共に観念したように俺は告白した。


「……奇遇だな、俺も三百万の金を波留に渡したんだよ」


 ——しばらくの間、沈黙が一帯を支配していた。本当に俺もメロも救われない。

 お金って奴は、本当に流れもので引き留めておくことができないものなのだなと痛感した。


 ————……★


「あぁ、もうダメだなーこのコンビ。アホすぎる」


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