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第6話 なんでパパ活なんてしてんのさ?

 そもそも、地下アイドルをしているってことは、ファンも存在していると思われるのだが……?


 そんな人がパパ活なんてして許されるのだろうか?

 ある意味、彼氏がいるっていうよりもキツい気がするのは、俺だけだろうか?


 口角を引き攣らせながら萩生たちの様子を眺めていたが、付き合いたてのカップルみたいにイチャイチャして腹が立ってしまった。


 そんなに仲が良いのなら、お前が引き続き面倒見ろよ!


「なぁー、木梨! お前もマリンちゃんのパパになって応援してくれるよな?」

「するわけねぇだろ、このボケナスアンポンタン」


 こんなエッチも出来ない女の子に貢ぐくらいなら、波留と心に贅沢させてやるわ!


 いくら独身貴族とはいえ、なんでこんなに沢山の女の子に貢ぐことができるのだ?

 コイツのことだからパパ活だけでなく、もっと色んなジャンルの女性と関係を持っているはずなのに。


 そして、この子もこの子だ。

 一人しかパトロン《パパ》がいないとは考えられない。萩生一人くらい縁が切れても問題ないのでは?


「地下アイドルってお金が掛かるんですよ。衣装代も自分たちで負担している上に、レッスン代やボイトレでもお金が掛かるし。それにエステとか美容代とか、いくらお金があっても足りないくらいだしィ」

「そうだぞ! 美人を維持するにはとんでもない金が掛かるんだぞ! お前の奥さんだってエステに行ったり高い基礎化粧品をバシャバシャ水のように使っているだろう⁉︎」


 波留のことなんて何も知らないくせに偉そうなことを言うな、萩生のくせにィ!


 そもそも金の問題だけじゃない。

 パパ活なんてしていたら、波留と心との時間もなくなってしまう。


 萩生、男が全てお前のように下半身で考えていたり、湯水のように金を使えるわけじゃないってことを覚えていてくれ。


「申し訳ないけど、他を当たってくれ。マリンちゃんのことを応援したくないわけじゃないんだけど、家族を犠牲にしてまで尽くすことは出来ない。やっぱり俺は家族が一番大事なんだ」


 今日の食事代とは別に、もう一万机に置いてその場を後にした。


 さすがに納得したのか、萩生もそれ以上の追言をすることなく黙り込んでいた。


 だが、マリンちゃんは違った。彼女は「木梨さん」と俺を呼び止めると、意味深な笑みを浮かべて唇に人差し指を当てて告げた。


「それでもきっと、木梨さんは私に会いたくなると思いますよォ? マリン、いつでも待ってますからね♡」


 いや、今後一切会う気はないし、会う手段だってねぇから。


 俺は軽蔑の意を込めて踵を返し、そのままお店を後にした。


「…………疲れた。一気にHP使い果たした気がする」


 店を出るなり、俺はコンビニに入ってエナジードリンクを購入して一気に飲み干した。炭酸とカフェインが疲れた身体に染み渡る。なのに身体は項垂れる一方で、一向に立ち上がる気力が湧かなかった。


 世の中には色んな奴がいる。

 色んな生き方があると理解はしているし、否定する気も毛頭ない。


 俺だって男だ。可愛い女の子と遊びたいし、あわよくば肉体関係だって期待することもある。


 だが、天秤に掛けた時に、波留よりも大事な存在はなかった。彼女を失うくらいなら、陰茎を切り落としてしまった方がマシだ(——とはいえ、まだまだエッチはしたいので、切り落とされたくはないけれど)


「あぁぁぁぁー……、波留とエッチしてぇー! ズバコバしてェ!」


 隠す気がない本心の叫びに、回りの人が不審な視線を向けてきた。

 うぅ、痛い痛い。視線が痛い。


 すっかり落ちてしまった前髪を掻き上げて、俺は重たい腰を上げてグッと背伸びをした。

 あぁ、せっかく飲みに来たんだから、たまにはゆっくりと美味しいお酒を飲むか。そして帰りに波留に美味しいケーキかチョコでも買って、労りの気持ちを伝えよう。


「忙しいにも関わらず、せっかく波留が出かけていいって許可をくれたんだからな……。楽しまないと申し訳ないよな」


 昔、よく飲んでいたバーに連絡をして空き状況を確認した。一人ならカウンター飲みが出来ると予約が取れたので、その足でお店に向かうことにした。

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