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第5話 パパ活をする地下アイドル

『久々に飲まないか?』


 そう連絡を送ってきたのは、高校時代から付き合いのある悪友、萩生はぎおだった。


 三度の飯よりも女の子が大好きな萩生は、いまだに一人の女性に絞らずに合コン三昧をしていると聞いていたが、まさか今日の飲みも合コンじゃないよな?


 波留と結婚をしてからは、その類の誘いはことごとく断ってきた。それまで散々遊んできたから後悔がなかったと言えばそれまでだが、少しでも波留の不安を減らしたかったのだ。


(俺自身が元カノに浮気されたことがあるってのも大きな原因かもしれないが、不倫とか浮気とは軽蔑しちゃうんだよなー)


 なので唯一繋がっていた萩生とも自然と疎遠になっていたのだが、今日は何の用事だろう?


『合コンじゃないから安心しろ。たまには古い友人と語らいたい時だってあるだろう?』


「いや、萩生は野郎と飲むよりも女の子と飲んだ方が有意義って思う奴だからな」


 そんな奴に語らいたい時だってあると言われても、全く信じられないのだ。


 だが、たまには友人と食事をしたい気持ちもないわけではない。波留には申し訳ないが、今日だけは許可を貰おうと連絡をして、萩生と共に食事をすることにした。


 ——しかし、この選択を俺はすぐに後悔することとなる。


 ———……★


「木梨はパパ活とか興味ないか?」


 よくある大衆居酒屋の半個室のテーブルにて、生ビールを乾杯してすぐに、萩生は腹の中を晒し出した。


「……あのなぁ、萩生。俺はもう結婚して、娘だっているんだぞ? そんな俺にパパ活なんてしてる暇があると思うか?」

「いやいや、いいじゃねぇか! パパがするパパ活、まさに言葉のとおりで」

「そんな話をしに来たんだったら、俺は帰らせてもらうからな?」


 一歳になって落ち着いてきたとはいえ、一人で子供の世話をするのは大変なのだ。そんな波留に無理を言って飲みにきたと言うのに、この男は……!


 いや、この男を信じた俺が馬鹿だった。

 やっぱりコイツは、性根まで女の子好きに染まった糞女好きなんだ。


「いやいや、まずは話を聞けって。そもそもお前はパパ活って何だと思っているんだ? 援交とは違うんだぞ? お金を渡すだけで可愛い女の子と食事や模擬デートをができるんだぞ?」

「お前……金を払って虚しくないか?」

「虚しくなんてない! もうな、俺レベルになると、アイドル級の可愛い子のパパになれちゃうんだぜ? すごくないか? この子とかスゲー可愛くねぇ?」


 クソが! 時間が勿体ねぇ!


 ついでにこんなシチュエーションでビールを飲んでも、全然美味くねぇし!


「だがな、流石に俺一人で可愛い女の子達のパパを担うのは無理なんだよ。金も身体も一つしかねぇからな。そこでだ、俺のとっておきの子をお前に紹介してやろうと思ってな?」

「ノーセンキュー。要らぬお世話だ」

「ほら、マリンちゃんって言うんだけどなー? なんとGカップの極上天使! 舌足らずな喋る方がロリ心を刺激してなぁー♡」


 萩生のスマホには、髪をスカイブルーに染めたアニメキャラみたいな女の子の写真が表示されていた。カラコンの付けているのか、それとも編集済みの写真なのか。現実味のない写真に「はぁ……」としか言いようがなかった。


「萩生はこの子とエロいこともしてんの? それとも清いご関係?」

「ははーん! やっと興味を持ち始めたな! マリンちゃんはガードが固くて、未だにおっぱいをツンツンしかさせてもらってねぇんだ。でもそんな鉄壁なところも、いいんだよなー♡」


 食事の度に数万も払って、胸ツンツンだけだなんて、いい金づるじゃねーか、萩生よォ。


「悪いけど、俺はパパ活なんて興味ないんで、他の奴を当たってくれないか? せめてもの情けで今日の勘定は俺が払ってやるからさ」

「待てって! あのな、実は今日、マリンちゃんも来てるんだよ!」


 ——は?


 予想外の言葉に、俺は怪訝な顔しかできなかった。コイツ……っ、勝手なことを!


「マリンちゃんは地下アイドルの活動をしている夢見る女の子なんだよ! アイドルだけじゃ生活ができないからパパ活をしていてな? そんな健気な子、見捨てられないだろう?」


 全然? 本当に健気に頑張っている子はパパ活なんてしませんから!


「お前がそのつもりなら、俺は今すぐ帰らせてもらうよ。んじゃーな」


 個室のドアを開けて帰ろうとした、その時だった。すぐ傍に立っていた女の子にぶつかり、尻餅をつかせてしまった。


「いたたた……」

「ゴメン、まさか人が立っていると思わなくて」


 しゃがみ込んでお尻を摩る女の子に手を差し伸べた。深く被っていた帽子の影に見えるのは、コスプレのウィッグみたいなスカイブルーの髪。そして桜色のリップに陶器のような白い肌。


 まさか、コイツが——……⁉︎


「あぁー、もしかして木梨さんですか? どうもぉーマリンです★」

「マリンちゃーん! 待ってたよ、ホラホラ、俺の隣に座って?」


 目をハートにして浮かれた友人がマリンちゃんに手招きをしている。


(編集した写真じゃなかったのか……。確かにコイツは可愛いけど、可愛いけど⁉︎)


 地雷臭たーっぷりな病みを感じる女の子だ。

 俺の本能が危険信号を全力で出している。今すぐ逃げろ、コイツらに構っていたら大変なことになるぞ⁉︎


「ふふーん、木梨さん。マリンの新しいパパになってくれるって本当ですかぁ? マリン、嬉しい♡」

「いや、ならないから!」

「なるなるぅー! 木梨、あとは頼んだぞ! マリンちゃんのアイドル人生はお前に掛かっているんだからな⁉︎」


 いや、パパ活するアイドルなんて、ファンにバレて炎上しちまえ!


 ———……★


「3人目の女の子、マリンでーす♡ 自慢は可愛いお目々とーおっきぃGカップです♡」


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