「大智さん、今日は心を一緒に公園に連れて行きたいと思うんだけど、どうかな?」
タブレットを見ながらソファーに寛いでいると、ウサ耳の帽子を被せた心を抱っこした波留が尋ねてきた。
たまの休みで身体を休ませたいのも山々だが、愛する妻と子供の為に尽くすのも悪くない。俺は二つ返事で了承して、心をベビーカーに乗せて近くの公園へと向かった。
日曜ということもあり、外で遊ぶ子供や家族連れが多さに圧倒されていた。移動型のキッチンカーが何台か並んでいるのを見かけたのだが、もしかして催しが開かれているのだろうか?
「心ちゃん、いい匂いがしますねー♡」
最近、一人でも立てるようになった心の為に小さな靴を履かせていたが、小さなサイズの服を見るだけで「こんなミニマムな服があるなんて!」と感動してしまう。
(そう、たんに俺や波留に似ていないってだけで、世間的には可愛いんだよ。他の子供よりもウチの心は可愛いんだ)
そもそもお腹の中にいる時から愛でているのだ。可愛いは可愛いんだよ……。
でもなぁー。
「いない、いない……ばぁー♡」とあやす波留を見て、ニコニコと近付いてくるご年配の淑女がお一人。「あらあら、いいわねぇ。ママとパパと一緒にお出かけ?」と声を掛けてきた。
お婆様はベビーカーの中を覗いて笑いかけていたが、波留の顔を見た瞬間に分かりやすく気まずい表情を見せてきた。
「あらら……、あまりお母さんに似ていないのねぇ。お父さん似なのかしら?」
と、言った後に俺の顔を見て、更に顔を凍らせた。
「おほ、おほほほほー」
足早に立ち去るオバさんに嘲笑を浮かべながら、俺達は
まったく、失礼なオバ様だ。
似てないと言われるのは日常茶飯事。
親である俺ですら、そう思うのだから仕方ない。
だけどな、だけどなぁ……波留の哀しそうな表情を見ると胸が苦しくなるんだ。
物心がついた時に、心が「なんで私はお父さんにもお母さんにも似てないの?」と言ってきた時のことを考えると、何ともいけない感情が押し寄せてくる。
俺は波留の肩を抱き寄せて「大丈夫」と無責任に呟いた。
「いつも波留にばかり任せてゴメンな……」
「——ううん、大丈夫。もう慣れちゃったから」
そんな心にもない、ついでに言うと二度と関わることがない第三者の言葉なんかを気にする必要はない。
ずっと——波留を悲しませるくらいなら、子供なんて生まれなきゃ良かったと思っていたけれど、やはり
俺の一番大好きな横顔だ。
そしてそんな母の愛に応えるように笑う心も、憎みきれないんだ。
(顔さえ似てればいいのに……。たったそれだけの問題なのに)
波留が気にしていないことを、俺はずっとモヤモヤと抱え込んでいた。
「あら、可愛らしいお子さんだこと。おいくつですか?」
今度はまた違う腰を曲げた淑女が近付いて、心を抱っこした波留に話しかけていた。
また呪いの言葉を吐かれるのではと心配していたが、彼女は嫌な顔一つせずに「今は一才と八ヶ月くらいです」と答えていた。
「笑った顔がお母さんにそっくりねぇ。優しくて可愛いわぁ」
お世辞にも近い言葉だったが、想定外の言葉に波留の表情はパァァーっと晴れやかに変わった。似てないがお決まりの定型分だったのに、見ようによってはそう思う人もいるのか。
あまりの嬉しさに俺に視線を向けてニヤニヤと笑みを浮かべた彼女が、とてつもなく可愛かった。気持ちは分かる、分かるぞ、波留。
だが、その淑女は最後に爆弾を落としていった。
「元気なお坊ちゃん、元気に大きくなるのよー?」
「お、おぼ……?」
————いやいや、心は女の子だからぁ‼︎
性別を間違えてしまうご年配の淑女からの嬉しい言葉という、少々微妙な感じは残ってしまったが、俺と波留は顔を見合わせながら笑い合って歩き始めた。
「私、初めて似てるって言われたよ。笑ってる顔、私に似てるって」
「波留の笑顔も天使の笑顔だからなぁー。それは納得だな」
あと心の寝顔も悪くない。確かに鼻筋とか、整った顔立ちなどは似てないこともないかもしれない。
「きっと心は可愛くなると思うの。だって私と私の大好きな人の子供なんだから……。ね、大智さん」
「は、波留……!」
君って奴は、そんなふうに思ってくれていたのか!
俺は公衆の前だというのに、人目も気にせずに彼女を抱きしめた。
そう、この時の俺は、彼女の言葉一つ一つを疑うことなく信じ切っていた。
———……★
「子供に似てないって言われるの、何気にダメージ大きいんです……(泣)」