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第32話:緑園街の少女・ラプラス

 ジェノと連絡がついて、一先ずは安堵で胸を撫で下ろすアミーナとビビ。


 連れて行かれた時は最悪を想像したが、とりあえずは今のところ無事だと聞けば、いくらか落ち着いて状況を考えることができるようになった。


「でもどうする? 第3ドームには見たところゲートらしきものは無かった。今後の方針としてはジェノが調べる第1ドームを当たるのが普通だと思うが、正直アタシら2人じゃ手に負えないだろ?」

「そうですね……。あのスカディさんでしたっけ? あの人がいるドームに行くのは私も危険だと思います。まぁ……、そもそも第1ドームに入る方法も無いんですけど……」


 言いながら顔を見合わせて深いため息を吐く2人。


 別の街からの不法侵入があったことで、緑園街の警備レベルが引き上げられたのだろう。


 農業や畜産の労働力を必要としている第2ドームと第3ドームについては比較的出入りがし易くなっているが、居住区の第4ドームも富裕層のいる第1ドームも、ここ数日の中では最大の警備が敷かれているらしく光学迷彩のマントを羽織るだけでは見つかってしまいそうな状態になっている。


 結果として2人はスラムで身動きが取れなくなっていた。


「ねぇ、お姉さん。何か困ってるの?」


 そんな中だ一人の少女が声を掛けてくれたのは。


 見た目にはアミーナが黒岩城に残してきた妹のカミナと同年代くらいの幼い少女。栗色の髪を短く切り揃えた、どこか仔猫のような愛らしい顔立ちに、悪戯っぽい笑みが印象の女の子だ。


 ただその身体は痩せ細っていて、腕は握れば折れてしまいそうな程に細かった。


「アミーナさん、知り合いですか?」

「いや、ビビは?」

「いえ、私も初対面だと思うのですが……」


 声を掛けてきた彼女に対して訝しげな表情を浮かべる2人。だけど少女はそんな2人の反応を特に気にしたようも無かった。


「えっと……お手伝いできることはありませんか? 私はラプラスです。ご飯を少し分けてくれるなら、何でも頑張りますよ」

「え? あっ……、そうか……」


 彼女の言葉に納得したようなアミーナ。


 ラプラスと名乗る少女は所謂物乞いのような立場なのだろう。まだドームでの仕事ができないので、ドームで働いていたであろうアミーナに食事を分けて欲しいと声を掛けてきたらしい。


「ど、どうしましょう? えっと……、とりあえずラーメンでも……」

「お、おい……」


 ラプラスの言葉にビビが慌てて、どこからかラーメンを用意してみせると、ラプラスの瞳がキラキラと輝く。


 それからビビとラーメンを何度か見ると、彼女は美味しそうにラーメンを啜り始める。これまで温かい食事を食べたことも無かったのか、彼女は瞳を潤ませながら「美味しい」と一心不乱に食べていた。


「いいのか? ジェノがいたら、絶対にいい顔はしないだろ?」

「でも、こんな小さい子……放っておけませんよ。アミーナさんだってそうでしょう?」

「……まあな。でも、仕事もなしに食事なんて振る舞って、同じようなのが増えたらどうするつもりだよ」


 言葉を交わすアミーナとビビをそのままに、ラーメンを完食したラプラスは満面の笑みを浮かべると「ありがとうございます」と笑みを浮かべていた。


「こんなに美味しいのは初めて食べました。2人はもしかして富裕層の人だったりしますか? 昨日は何も食べれなかったけど、今日はお腹いっぱいです」


 屈託の無い笑顔で話すラプラス。だけど、そんな彼女の口にする言葉はビビには信じがたいことだった。


「こ、こんなものでよければ、いつでも声を掛けてください! アーカイブはそもそも人の為の機関ですから」

「安請け合いするなって。ったく……」


 お人好しなビビの行動に額に手を当てて、ため息を吐くアミーナ。しかし、彼女が驚くことになるのはその直後だった。


「そ、それじゃあ……ご奉仕させて貰いますね。女の人の相手は初めてですけど、頑張ります」


 言いながらラプラスがビビの股座に顔を近づけようとする。瞬間、ビビの顔が真っ赤になって、ラプラスを押し返そうとしていて。


「な、何をしてるんですか! ちょっ……、アミーナさん! 見てないで助けてください!」

「お、おう……!」


 咄嗟に2人でラプラスを引き剥がす。だけどラプラスは不思議そうな顔をして首を傾げていた?


「あれ……? ご奉仕じゃ無いんですか?」

「ご奉仕って……何をするつもりなんだ?」

「えっと……。ご飯をくれた男の人は……こういうことを求めるんですけど……。間違ってましたか?」

「……っ」


 ラプラスの言葉に今度はアミーナの表情が険しくなる。その言葉で、彼女が今までスラムでどうやって生活をしていたのか、想像することは難しくなかった。


「そんなことする必要はない! 子供は腹一杯食ってればそれで良いんだから、ご奉仕のことなんか忘れちまえ!」


 さっきまでビビのしていた行動に文句を言っていたアミーナ。だがやはり彼女もどこかお人好しだったのだろう。ラプラスにカミナの姿を重ねて、ついには自分の持っていた食事まで渡してしまっていた。


「あ、ありがとうございます♡」


 頬を染めながらお礼を言うラプラス。そんな彼女の笑顔に2人は胸の中に温かさを感じるものの、当初の問題は何も進展していない。


「やっぱり第1ドームに行くしかありませんかねぇ……」

「あの警備を掻い潜ってか? 無謀ってもんだろ」


 しかし、そんな2人を見てラプラスがポツリと口にした言葉は、2人を驚かせるには充分だった。


「第1ドームに行きたいなら、秘密の抜け道を案内できますよ?」

「「え?」」


 事も無げに言うラプラスを前に、2人は揃ってラプラスに詰め寄り、今度はラプラスが慌てるのだった。

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