ジェノが目の前でスカディを始めとした憲兵に連れて行かれたアミーナは酷く動揺していた。
もしもビビが気付いておらず、アミーナに単独行動を許していれば、まず間違いなく彼女は異形の力を使ってでもジェノを奪還する為に動いていただろう。
だが光学迷彩のマントを羽織ったビビは、そんなアミーナを引き留めていた。
「ジェノさんなら、最悪、ホシマチでアーカイブに連れ戻すことができます。ここは冷静になってください。複数人の憲兵を相手にするなんて、いくらアミーナさんでも危険です!」
その言葉にようやく落ち着きを取り戻したアミーナ。
だが状況は最悪だ。アミーナの心中としては既にゲート探しどころでは無い。ジェノの救出が何よりも最優先事項となっていた。
一方でスカディに連れ去られたジェノは戸惑っていた。
本来であれば、彼は黒岩城から脱走した市民として、憲兵にとっては捕縛対象になっていただろう。
事実、彼が黒岩城の学園からロストテクノロジーを使った鉱車で脱走する時には、大勢の憲兵に追い回され、貴重なロストテクノロジーの鉱車を破壊してでも引き留めようとしていたものだ。
しかし、今のジェノに対するスカディによって与えられた待遇は一般市民以上。下手をすれば緑園街に暮らしている平均的な富裕層よりも手厚い待遇を受けていた。
歩けば足が沈むかと思う程に柔らかな絨毯。豪奢な調度品が飾られた室内には、ジェノが黒岩城で腰かけたものと同等のソファーが用意されている。そして、その部屋がジェノの滞在の為にあてがわれたのだ。。
「君を咎めるつもりは無い。だからそう警戒をするな」
相変わらず表情一つ変えずに語り掛けるスカディの言葉を全面的に信用することはできない。スカディに底の知れない何かを感じていたのだ。
「それで……これから俺をどうするつもりだ?」
彼女を警戒しながらもジェノが気丈に訊ねる。しかし、スカディは彼の質問に対して、言っている意味がわからないとでも言うかのように首を傾げてみせた。
「どう、とは?」
「俺は黒岩城から抜け出したんだ。憲兵に言わせれば、俺は許されないことをした罪人だろう? 牢屋にぶち込まれても、犯罪鉱夫として鉱山に送られても文句は言えない立場だ」
「ああ、そうだな。だが私は君を害するつもりは本当に無い。今のところ、君がどうやってこの緑園街にやって来たのか興味はあるが、聞いたところで正直に答えるかは不明だ」
スカディの言葉に嘆息をするジェノ。
仕方なく、ビビのロストテクノロジーのマントの事をぼかしながら貨物車に忍び込んでいたことを白状すると、スカディはやれやれと肩を竦めて見せていた。
「貨物列車にも警備はついていたはずだが? ロストテクノロジーを使ったのでは無いのか?」
「どうやって? そんな物を用意する必要なんて無いよ。ちょうど憲兵が珍しい食いもんに食いついていたから、その隙を狙って忍び込んだだけだ。貨物車の中は凍えそうだったがな」
「……そうか」
スカディはジェノの言葉をまるで信用はしていないのだろう。それでも一つ頷きを返すと、彼を部屋に残したまま去って行こうとする。
「ちょっと待て! 俺をどうするつもりなのか言って行けよ!」
「決まっているだろう。君は黒岩城の人材だ。緑園街に置いておくことはできない。私の手で黒岩城へと強制送還させて貰う」
「……っ」
スカディの言葉に納得はしつつも動揺を隠せないジェノ。
処遇だけを伝えるとスカディは部屋を退出してしまい、部屋の外へと続く扉にはスカディの部下らしき男がジェノを軟禁する為に立たされていた。
(とりあえず……ホシマチが回収されなかったのは助かったが……。ゲートの捜索は絶望的か?)
そんな事を考えながらジェノがホシマチを起動させると、ほどなくしてホシマチから聞こえてきたのはビビの情けない声だった。
『ジェノさん! 良かったです。いえ、今の状況は良くないんですが、とりあえずは無事で良かったです!』
「落ち着いてくれ。今のところは俺は何もされてないし、むしろ客人レベルで厚遇されてる」
『どういうことです?』
「俺が知る訳無いだろ」
言いながらスカディの真意を探ろうと思案を巡らせるが、圧倒的に情報が少なすぎる。自由にさせる気は無さそうだが、実害が出ていない以上、ジェノとしても判断に困っていた。
「とりあえず、俺が連れてこられたのは第1ドームに間違いないはずだ。動ける範囲はかなり少ないと思うが、ゲート関連の物が無いかどうかは調べてみるつもりだ」
『わ、わかりました! でも無茶はしないで下さいね。必要ならいつでもアーカイブに避難できますから』
「ああ、頼りにしている。アミーナにもよろしく言っておいてくれ」
ホシマチでの連絡を終えるとジェノはホシマチを再びポケットにしまって、部屋の中から窓の外の様子を伺うが、やはりめぼしいものは何も見えそうに無かった。
だがジェノの連絡という行為は不用意だったかもしれない。
部屋の中にジェノの行動を見張る為の監視カメラが仕掛けられていたことを、そしてジェノの様子をスカディが見張っていたことを、彼はまだ気付いていない。
監視カメラなどと言う技術の存在を、ジェノは知らなかったからだ。