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第29話:農業と畜産の街・緑園街

 黒岩城から都市間列車に乗ること約半日――、三人が辿り着いた街は緑園街と呼ばれているのは、ここ数日でジェノとアミーナ、そしてビビが調べた内容だった。


「おそらくは旧世界の時のシェルターの名残ですね。いやぁ……、こんなに大きな施設が残っているとは思いませんでした」というのがビビの言葉。


 聞けば、旧世界で外の世界が荒廃した後でも、農業や畜産が続けられるようなシェルターや大多数の人々が暮らす為のシェルターが建設されていたらしい。


 もっとも、それはビビがアーカイブに引きこもっていた80年という月日の前のことであり、詳細については相変わらず彼女は何も知らないらしい。


「人類の知識の宝庫じゃなかったのか? せめてシェルターの詳細くらいは知っておいてくれ……」

「むぅっ! そうは言いますけどね、全世界でどれくらい同じようなシェルター計画が進められていたと思っているんですか? 先進国が独自に開発したものから、大企業が資財を使って作っていた物まであるんですよ? 秘密裏に作られた物まであるんですから、全部網羅するのは不可能ですよ」

「そんなに幾つもシェルターが必要になるくらいに旧世界は殺伐としていたのかよ……」


 ビビの発言にアミーナが表情を引きつらせるが、何もわからない、という状態のままで行く訳にもいかない。


 花街で客引き経験のあるアミーナやジェノがそれぞれにスラムの人々から話を聞いて纏めた情報によって、ようやくこの街の状態が三人にも見えるようになっていた。


 緑園街はジェノやアミーナが最初に出た農園のシェルターの他にも3つのシェルター。合計で4つのシェルターによって構成されているらしい。


 一つは役人や富裕層の暮らしている第1ドーム。ここでは各種の司法組織や議会などが置かれているらしいが、他にも富裕層が庭付きの家を持っていて、それなりに満たされた生活を送っているらしい。


 ドームの中の気候は常に一定に保たれていて、空を見ることは叶わないものの、冬の寒さも横殴りの吹雪も知らずに生きていけるらしい。


 第2ドームは畜産の行われているドームであり、牛や豚、羊、鶏などの家畜の飼育が行われており、第3ドームでは農業が行われている。


 この2つのドームがこの街の根幹であり、黒岩城を始めとした幾つかの街に肉や卵、牛乳といった賞品を輸出しているらしい。


「アタシ達が最初に農園の街に出たのは、たぶん荷物にまぎれて出たからだろうな。たぶんアタシ達の隠れていたコンテナの荷物は、農業シェルターで使う資財か何かだったんだろう」


 四つのドームは東西南北に別れ、その中央には鉄道列車の停まる駅が作られている。そこから各シェルターに必要な資財が振り分けられているそうだ。


 最後に残った第4ドームはこの緑園街で市民権を得ている人々が暮らしている居住区になっているらしい。構造的には黒岩城での商業区や市民街、花街などを一箇所に留めたようなシェルターになっているらしく、狭いながらも多くの市民が暮らしていた。


「で、最後は……このスラムか」


 言いながらジェノが緑園街の地図を見ながら嘆息する。


 第4ドームに暮らしている市民には納税の義務が課せられているらしい。そして、その税を支払えなければシェルターの中での生活を許されなくなり、スラム落ちする。


 一度スラムに落ちてしまえば、市民に戻る事は殆どできなくなり、今までの快適な生活から切り離された人々は終わらない冬の寒さの中で細々と生きるしかない。


「スラムの街を少し見てわかっただろうが、スラムの状態は黒岩城のスラムと比べても劣悪だ。なんせ、外部から送られてくる資財の殆どは、到着と同時にシェルターの中に取り入れられて、スラムの連中に残るのは僅かな物資だけ」

「辛うじて家が建っているのが奇跡だな。アタシの家だって酷いもんだが、ここのスラムの連中程じゃなかったよ」


 ジェノとのアミーナの言葉に渋い顔をするビビ。そして彼女は地図を手にジェノに詰め寄る。


「ジェノさん――」

「ダメだ」


 しかし、それよりも早くにビビの言葉を遮るようにジェノは首を横に振った。


「どうせ、お前のことだ。スラムの人々に温かい家を提供しましょうとか言うつもりなんだろう?」

「そうです! そうですけど……、なんでそれが駄目なんですか!」

「その材料はどこから持ってくるつもりだ? 放置区域の瓦礫を全部集めたって、ここに暮らしている全員の家なんてとても用意できない。そもそも、そんなものを作ったら、大騒ぎになるのは目に見えている」

「でも……、でも……、私……人の為の存在なのに……」


 アーカイブの管理者として人の為になることがビビの存在意義だ。それなのに何も出来ない状況にビビは葛藤をしているらしい。


 だがジェノとしても無い袖は触れない。ジェノ達がスラムの人々に直接できることは何一つ無かった。だが――、


「まぁ、アタシらが何をする必要も無く、とりあえず飯なんかにはありつけているらしいけどな……」


 アミーナの言葉にビビが僅かに表情を明るくする。


「凄いです! もしかして、この寒さの中で何か作ってるとか?」

「いや……そう言う訳じゃ無い」


 しかし、アミーナはそんなビビの言葉に苦虫を噛みつぶしたかのような顔で答えた。


「アタシ達は第3ドームからスラムに出てきた訳だが、水まきや雑草の処理なんかは基本は手作業。黒岩城と殆ど変わりは無いらしい」

「はい、それはなんとなくわかります。完全に機械任せには出来ないと言うことですよね?」

「ああ、と言うことは、緑園街でも働き手は必要で、ドームに暮らしている人達だけでは人材不足は深刻って事だ。となると、富裕層の考えることなんて想像がつくだろう?」

「あぁ……なるほどな」


 アミーナの説明に納得するジェノと、未だ意味がわからずに小首を傾げているビビ。そして、アミーナの話の意味を、ジェノは間も無く痛感することになったのだった。

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