黒岩城の都市間列車の駅は、普段から数人の憲兵が武器を所持の上で警備を行っていた。
都市間列車の中には他の都市との貿易品となる石炭や、鉄鉱石などが積まれており、それ以外にも貴重品が積まれている。
その為、過去にはスラム街で暮らしている貧困層が盗難に忍び込むなどといった事件も起こった為、駅を出入りする人は勿論、駅の外から遠巻きに列車を見ている人に対しても警戒をしていた。
「あれが都市間列車ですか……」
駅にやって来たビビとカミナの二人。
ビビの視線の先には都市間列車が停まっている。
黒い車体の列車はどうやら蒸気機関車らしく、石炭が大量に積まれている。連結された車両は人が乗り込む為の客車もあるようだが、大半はコンテナを積んだ車両となっており、今まさに発車の為に荷物が積み込まれている最中だった。
「ビビさん、とりあえずは手はず通りにしないと」
「そうですね。それじゃあ営業準備を始めましょう」
二人は駅近くにジャガイモラーメンの屋台を止めると、営業の準備を始める。物珍しい光景に憲兵が二人を見ているが、ビビとカミナの二人が鍋の蓋を開くと、白い湯気が立ちのぼり、周囲に広がるスープの匂い。
そしてカミナが麺を茹で始めると、物珍しさに駅に来ていた人達が屋台に集まり始める。
「いらっしゃいませ! ジャガイモラーメンは如何ですか? できたての温かいラーメンをどうぞ!」
客引きを始めるビビの言葉にポツポツと集まり始める人々。
何人かが温かいラーメンを食べ始めれば、その客につられるように更に人が集まり始める。
「おい、そこの二人。こんな場所で何をしている」
駅近くで商売を始めた二人に対して、周辺の警備をしていた憲兵が声を掛ける。しかし、ビビはニッコリと彼に答えた。
「えっと……。そろそろお昼時ですから、ここで販売をしようと思いまして。良かったら憲兵さんも一杯如何ですか?」
「何を馬鹿なことを……。商売ならよそでやれ」
「まあまあ、そんなこと言わずに。お代はいりませんから」
言いながらビビが木の椀を渡せば、スープの匂いにつられて生唾を飲み込む憲兵。そして彼が仕方なくといった体裁をとりながら一口啜れば、今までラーメンなど食べたことがなかったのだろう。
彼は僅かに驚いた表情をしていた。
「これをお前らが作ったのか?」
「はい! どうです? よかったら憲兵の皆さんの昼食として販売させていただきますよ? お値段もお手頃です」
「……そ、そうか」
ビビの言葉に思案する憲兵。
程なくして彼が上司に相談すると、憲兵に振る舞うようにとビビとカミナの二人に連絡が来る。カミナがラーメンを作れば、ビビがそれを本に載せて運び、憲兵に配っていった。
「こんな物が市街で食えるとはな。このあたりで売っているのか?」
「いえ、普段は花街で夜に売ってるんですけど、お昼ご飯にもなるかなって思ったんです」
「そうか。いや、この寒さだ……、これを売ってくれるのは助かる」
憲兵と親しげに言葉を交わすビビ。そんな中、ビビが不意に自分の近くに居た二人が離れたのを感じると、彼女は屋台に戻っていく。
箸を手に、ラーメンを啜る憲兵達。
普段は火縄銃をもっている憲兵も、食事中は周囲に注意を払いながらも武器を下げている。そして彼等が音を建てて麺を啜り始めれば、だからこそ、光学迷彩のマントを羽織っている二人の足音にも気が付けない。
マントを着たジェノとアミーナの二人は無言のままに、今まさに荷物を積み込んでいる車両へとむかえば、憲兵達に気付かれることなく車両へと乗り込んだ。
「これで何とかなりそうだな」
マントを羽織ったまま言葉を交わす二人。後はこのまま息を殺していれば、黒岩城の外へと行くことが出来る。
そう思って安堵に胸を撫で下ろす中、不意に聞こえた声にジェノとアミーナの身体が強ばる。
「荷物はこれで全てだな」
聞こえてきた声は一人の女性の声。そしてジェノとアミーナが身体を強ばらせる中、扉の開いている荷物車の外に、一人の憲兵が現われる。
大柄でがっしりとした身体つきの女性憲兵は、ジェノが忘れるはずもない。上層で言葉を交わした憲兵のスカディだ。
(何で、こいつがここに……)
彼女には見えていないとわかりつつも、表情を引きつらせる二人。そんな二人を前にスカディが何かに気が付いたように鼻を鳴らす。
「この匂いはなんだ? 嗅いだことのない匂いだが……。これはイモか何かの匂いににているな……」
「ああ、それでしたら。おそらく、駅の外で食事を販売している匂いだと思います」
屋台からは離れているはずなのに匂いに気が付くスカディに、ジェノはやはり油断ができないと身構える。
そうしている内に「そろそろ時間だ」とスカディが離れていき、二人の乗り込んだ貨物車の扉が閉められる。そして足音が遠ざかっていって、ようやくジェノとアミーナは息を吐いた。
「ジェノ……。なんだってあの憲兵が……」
「俺が知ってる訳ないだろ。まさか、今回の列車に乗ってるなんて事はないよな?」
「そのまさかだろうな。でないと、ここにいた説明がつかない」
二人がマントのフードを外して、顔を見合わせる。
程なくして列車が走り出して黒岩城の外へと出て行くが、ジェノはスカディが近くに居ると感じれば、まったく気が休まらなかった。