黒岩城は鉱山を中心に作られた鉱山都市だ。
石炭や鉄鉱石などの採掘を中心になり立っている街であり、山を切り開き、上層に暮らす富裕層と、下層に暮らす一般市民・貧民によって鳴りたっている。
だがその食料の自給率はお世辞にお良いとは言えない。
黒岩城の土は痩せていて、温室などを利用しても生産できるジャガイモなどの生産は、黒岩獣に住んでいる人々の生活を満たす物ではない。
だからこそ利用されるのが黒岩城と他の都市を繋ぐ都市間列車の役割は重要だ。
一年中降り続ける雪と都市間の移動を阻む吹雪の中、都市間列車だけは各鉱山都市を交易の為に繋ぐことを可能にしていた。
「だからですね。黒岩城以外の都市にも行く必要があると思うんですよ」
今日も今日とて、ゲートを隠している工房の中、ジャガイモから作られるラーメンを啜りながらジェノに提案したのはビビだ。一方でジェノはカミナの作ったマッシュポテトを食べていた。
「まぁ、そうだな。この前のブルーチーズもそうだったけど、黒岩城だけで作れる物には限界がある。これ以上の発展をしよって言うなら、どうしたって他の街で生産されている物が必要になるだろうな」
「ですよね。このジャガイモも、いつまで持つかわかりませんし……」
「しばらくは続くと思うぞ。憲兵共は感染獣の確認もせずに、さっさと帰って行ったからな」
光学迷彩のマントで姿を隠しながら放置区域で生活をしているジェノ。
そんな中で、数日前に新しいコンテナが運ばれてきたことに気が付いたのは数日前のこと。
案の定、コンテナには大量のジャガイモなどの資料が詰め込まれており、これで上層が感染獣を放置区域で飼育していた事は確定的になった。
「これを利用しない手はありませんね」
もっとも、ビビやジェノにとっては彼等が感染獣の安否を確認していないのは好都合だ。
彼等は餌だけを残すと早々に放置区域を後にし、ジェノとビビは供給されるジャガイモをホシマチのストレージに回収すると、そのジャガイモを利用してラーメンの販売を成り立たせていた。
「商魂たくましいな」
などとアミーナは呆れていたが、ジェノとしては元々、黒岩城の市民に販売されるはずだった芋を回収しているだけに過ぎない。
上層から下層への仲介として、料理などにして彼は商売を成り立たせていた。
「でもどうやって移動するつもりだ? 都市間列車を使えば他の街に移動することはできるけど、一般市民の移動なんて殆どできない。移動できたとしても、列車に乗れるのは上層の富裕層だけだぜ」
「ですよねぇ……。でも、一回移動してしまえば、今後の移動については心配する必要が無いとも思っているんです」
「というと?」
「言ったじゃないですか。ゲート自体は世界中に幾つでもあったって。黒岩城ですらこうしてゲートが残っていたんです。もしかしたら、行った先の街にもゲートがあるかもしれません」
「あぁ……、なるほどな。つまり別の街のゲートを稼働させれば、アーカイブを通して他の街との移動手段が手に入れられる……と?」
「そう言うことです」
ビビの言葉に納得するジェノ。そうなると、一回目の移動をどうするかを考えるべきだった。
「よぉっ、また何か悪巧みか?」
そこに戻ってきたのは光学迷彩のマントを着たアミーナとカミナの二人だ。
どうやら昼食分のラーメンの販売が終わったようだった。
「あぁ、他の街に行こうと思ってな」
「他の街? せっかく工房ができたのに、何処に行くって言うんだよ。黒岩城を出て行くつもりか」
「ジェノさん、他のとこに行っちゃうんですか」
ジェノの言葉に血相を変える二人。しかし、ジェノが早とちりだと今までのビビとのやりとりを説明すると、二人は納得をしてくれた。
「なるほど。新しい資財を……か。まぁ、そうだよなぁ。黒岩城は鉄なんかは手に入りやすいが、木材なんかは外からの持ち込みに頼っているし、他にも欲しいものは色々とありそうだ」
「だろ? だから列車に乗りたいんだが、猟犬組の伝手を使って列車の切符を手に入れたりはできないか?」
「切符か……。いや、さすがにそれは出来ないと思う」
ジェノの言葉に申し訳なさそうに答えるアミーナ。
そもそも列車自体は憲兵と統率している上層が管理をしている為、猟犬組の構成員でも切符を手に入れることは難しいらしい。
「そもそも憲兵としては黒岩城から労働力を出したくないだろ? 炭鉱の採掘なんかで、一人でも多くの労働力が必要だって言ってるじゃないか。切符を手に入れたとしても、色々と難癖をつけられるのがオチだな」
「それもそうか……」
アミーナの言葉に納得するジェノ。一般市民だけでは足りないと、学生にまで炭鉱夫の真似事をさせている黒岩城。さすがにジェノが街から出ることを認めるとは思えなかった。
「だとしたら……、方法は一つしかないな」
「だな」
ジェノの言葉に頷きを返すアミーナ。そして二人は声を揃えて言った。
「「都市間列車に忍びこむか」」と――。
そんな二人の言葉を聞いたカミナは驚きで目を丸くして、ビビは「なるほど」と満面の笑みを浮かべていたのだった。