コンテナを見つけた数日後。ジェノは光学迷彩のマントを羽織って、アーカイブから放置区域に出ていた。
放置区域にはジェノ達が排除した感染獣の他はおらず、当面の危険性はない。とは言え、ジェノ達が今後の世界の再建を進める為にもゲートを利用しないという事は考えられない。
その為、ジェノは放置区域を中心に生活を始め、最近ではアーカイブの方が快適だという理由で、アミーナがカミナと一緒に引っ越してきていた。
「アミーナさんも素直じゃないですねぇ」
「私の事を呼ばなければ、二人きりになれたと思うんですけどねぇ」
などとビビとカミナは最近では意気投合しているらしいが、ジェノはもう二人に説明したり説得をしたりもしていない。更に最近になってアミーナは化粧や身だしなみにも気を使い始めている。
このあたりは上級娼館の遊女であるノエルが入れ知恵をしているのでは無いかと思っているが、アミーナも上手く乗せられて仕舞っている様子で、ジェノが何か言っても「うるさい」や「お前には関係無い」などと真っ赤になって言う始末。
とりあえずは状況を整理したいのだが、どうにもなりそうもないので、ジェノは当面の生活の基盤を整えることに注力していた。
「ジェノさん、お疲れ様です。瓦礫は集まりましたか?」
「ああ、けっこう溜まったと思うけど……」
ゲートの建物までジェノが戻ると、出迎えてくれたのはビビ。
ジェノがビビに対してホシマチを見せると、ビビがニコリと微笑みを向ける。
「うん、これだけあれば充分ですよ。それじゃあちゃっちゃと修理を始めちゃいましょうか。こんな野ざらしだと、またいつ壊されるかわかったものじゃありませんから」
ビビに操作を教えて貰いながら、ジェノは外に出るとホシマチをゲートの建物へと向ける。すると、ジェノの目の前で壊されていたゲートの建てものが、まるで時間を巻き戻すかの票にゆっくりと修復されていく。
ひび割れていた壁は真っ白なひび一つ無い壁へと戻っていき、更に欠損していた壁も新しく作られていく。
「相変わらず凄いな……。どうなっているんだ?」
「これが本来のホシマチの使い方なんですよ? 通信機や転送なんていうのは、できた方が便利だから追加された機能で、本来はこうやって物を作ったり直したりがホシマチの機能なんですから」
得意げに無い胸を張るビビをそのままにホシマチを更に建物へと向けていくと、とうとう壁が完全に修復されて四角い箱状の建物が完成する。
「さぁ、次は屋根ですね。ここからは中から直しましょうか」
促されてジェノが建物の中に入れば、まだ照明も無い為に中は薄暗い。それでもビビがパチッと壁に向けて指を鳴らすと、幾つもの照明が現われて中を照らし始める。
そしてジェノが天井にホシマチを向けると、今まで崩れかけていたボロボロの天井に屋根ができはじめる。完全に屋根が塞がるまでには、そう時間は掛からなかった。
「一先ずこれで雨ざらしの心配は無くなりましたね」
「まぁ、そうなんだが……、大丈夫か? こんなに綺麗に直しちゃって……」
「あぁ、それも心配ないですよ。ちゃーんと対策は練っていますから」
言いながらビビがゲートを操作すると、淡い光りが建物全体に広がっていく。見た目にはあまり変わりが無いように見えるが、ビビに促されて外に出てみれば、建物はそこにあるのに見えなくなっていた。
「これってこのマントと同じ……」
「はい、光学迷彩です。何かがこの場所に感染獣を留めていたのは間違いないとわかった以上、当面は建物自体を見せなくした方が良いです」
「アーカイブがあればこんな事までできるんだな」
「ええ、この程度は基本機能ですよ。これもアーカイブのエネルギーとなる資源なんかが手に入ったおかげですね」
ご満悦のビビに対して、改めてホシマチを手に驚きを隠せないジェノ。
今回、ジェノに任された役目は、ホシマチに搭載されているストレージという機能を使って、この放置地区のあちこちに放り出されている瓦礫の山を、ホシマチの中に回収する役目だった。
一度ストレージに入れば、ホシマチを介して、現在アーカイブで作れる加工品や、道具などをストレージの部材を材料居に作れるようになるらしい。
(こんな物をあっさりと俺なんかに渡したあたり、よっぽど切羽詰まっていたんだろうが、不用心な……)
もしも火薬や大量の金属資源なんかが手に入れば、確実に火縄銃よりも協力武器が作れてしまうであろうホシマチ。
ジェノとしてはそう言ったものを必要とはしていないが、改めてホシマチを富裕層や猟犬組などに渡す訳にはいかないと思ってしまう。とは言え、自分に親しい相手ならばどうだろう?
「なぁ、ビビ……」
「はい、なんでしょう?」
「ホシマチなんだが、もう一個出して貰う事ってできるか?」
「もう一個? どうしてですか?」
「いや、ほら……。アミーナも持っていれば……な?」
「あ~……、なるほど」
ジェノ言葉にニマニマと口元を緩めるビビ。
「いや、勘違いするなよ。いざという時にはアーカイブに移動できたり、機能を使えた方が色々と便利だろ?」
「そうですねぇ。通信機にもなりますからねぇ♪ わかります。ジェノさんの気持ちはわかってますとも。でもすみません、アーカイブに在庫が無いので、すぐには難しいんですよ。エネルギーが溜まったら、また用意しておきますね」
言いながらニマニマと笑みを浮かべるビビ。
顔から火が出る程の恥ずかしさを覚えて、ジェノがビビの脳天にゲンコツを振り下ろし、ビビの悲鳴が響き渡ったのはその直後の事だった。