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第17話:情報屋

 アミーナに夜這いを掛けられた翌日。


 ジェノは若干の気まずさを感じながら、アミーナに連れられて花街の情報屋へと連れられていた。と言うのも、黒岩城の中にある筈のゲートの位置がわからなかったからだ。


「まさか、この辺りのゲートの正確な位置すら、アーカイブの記録として残っていないとはな」


 ビビに対してジトッとした目を向けて呆れたように嘆息するジェノ。しかし、ビビはそんな彼の言葉に不満そうに頬を膨らませていた。


「そうは言いますけどね。世界中にどれだけのゲートがあったと思うんですか? この辺りの地域条件と80年前の情報を統合して、ゲートがあるのは確定的ですが、細部が全然違うんですよ! 詳細な位置まで把握できませんよ」

「相変わらず肝心なところで役に立たないな、このポンコツは」

「あ~っ! またそう言うこと言うんですね! ジェノさんはもう少し私の事を大切にするべきです」

「ゲートから信号的なものが出たりしてないのか?」

「動かなくなってからどれくらい経ったのかわかりませんけど、そういう機能が動いていたら、もっと前に気づいてます。ほったらかしにした方が悪いと思います」


 ビビとしてもアーカイブに通じるゲートを放置されていたことには思うところがあるらしい。少なくても、上層にゲートがあれば、上層の技術者が直していただろう。


 だがゲートやアーカイブの存在が明らかになっていない以上。おそらくはゲートは下層にあるのだろう。そう考えれば、長らく放置されている黒岩城の旧市街。今となっては使われていない遺跡などに放置されている可能性が高かった。


「喧嘩なんかするなって。とりあえずは、アタシの伝手で情報屋を紹介してやる。その、ゲートってのがどういうのかはわからないが、写真くらいはあるんだろ?」

「はい、写真は昨日のうちに用意しました」


 二人を仲裁するアミーナの言葉に、ひらひらと数枚の写真を取り出したビビ。その写真はどうやら80年以上前の稼働していたゲートの写真らしい。


 見た目には何の変哲もない鉄のアーチだが、そのアーチの中には青白い光が広がっていて、その光がアーカイブへの転送機能になっているそうだった。


 相変わらずジェノには構造も原理もわからないが、ビビには蓄積として大まかな構造が記録されている。


 原型が残っている、もしくは軽度な破損であれば、材料をホシマチを通して用意すれば直せるとのことだった。


 ゲートの発見を優先しなければいけない中、しかしジェノは今一つ集中できずにいた。その原因はアミーナの態度だ。


 昨夜のような出来事があったにもかかわらず、アミーナの態度はこれまでと特に変わった様子はない。さすがにアミーナも気恥ずかしさがあるのか、今朝顔を合わせた時には気まずそうな表情をしていたのだが、今現在は普段と変わらない様子。


 むしろどこか上機嫌に見えた程だ。


「……っと、ここだ。相手はここらじゃ名の知れた情報屋だからな。遺跡についても何か知ってるだろ」


 そんなアミーナに連れて行かれたのは一軒の酒屋。どうやら情報屋を営んでいる店主も猟犬組の構成員らしかった。


 アミーナの暮らしているあばら家よりは、数段階はマシな石造りの家の玄関を開けて中に入れば、店は酒場のようになっている。そしてバーカウンターには白髪の男性が立っていた。


「オジサン、今大丈夫か?」

「……アミーナか。最近上層に行っていたらしいな。何か儲け話でも掴んだのか?」

「さすがに耳が早いな。儲け話ってわけでもないが、今日は客を連れてきたんだ」


 言いながらアミーナが続いて入ってきたジェノとビビを紹介する。


 見た目には50代半ば程の店主がジロリと二人を見る。そして、彼はなるほどとうなずいた。


「お前が連れてきたってことは、そこの二人が最近スラムで薬を売っている医者か。随分と良心的な値段で、薬を売っているらしいな」

「俺たちの事も知っているのか?」

「酒場にはいろんな情報が集まるからな。特にここ最近の変化は、色々と噂話が集まるんだ。それで、酒を飲みに来たんじゃないんだろ? 俺に何が聞きたいんだ?」

「は、はい。これがどこにあるのか知っていますか?」


 彼に尋ねられてビビが写真を手渡す。そして彼は写真を見て、興味深そうにビビを見返していた。


「旧市街の遺跡か。どうしてこれを?」

「えっと……、ロストテクノロジーに関することなんだ。この遺跡がどこにあるか知っているか?」

「当然知っている。代金は払えるのか?」


 その言葉に彼に金額を訊くと、アミーナの表情が引きつる。


 明らかにその値段が高かったからだ。しかし、彼は値段を下げるつもりはないらしい。仕方なくジェノがここ数日、薬の販売で得た利益から代金を払うと、ようやく彼は重い口を開いた。


「この遺跡なら、旧市街の放置区域に残されている。黒岩城の地図はあるか? 場所を教えてやる」

「げっ……。マジか……」


 放置区域と訊いて、ジェノとアミーナの二人が表情を引きつらせる。しかし、ビビはその言葉の意味が理解できなかった。


「放置区域ってなんですか?」

「あぁ~……、黒岩城を管理している憲兵なんかが匙を投げた場所だよ。高濃度の土壌汚染が進んでいたり、いつ崩れてもおかしくないような建物が残っていたりする場所が、立ち入り禁止の上に関わるなって指定されているのがほとんどだ」

「まぁ、それくらいならまだマシだけどな。なぁ、ここって大型のが現われるって場所じゃなかったか?」


 アミーナの言葉に頷きを返す店主。


「随分と前に感染獣の出現が確認されてな。憲兵による討伐隊も組織されたが、凶暴過ぎて手が付けられないらしい。お前たちも可能なら、この件からは手を引くんだな」


 ほぼ絶望的な情報にジェノとアミーナは肩を落とす。しかし、ビビにはどうして二人が諦めようとしているのかが理解できなかった。


「感染獣ってなんですか?」

「あぁ……、えっと……。基本的には獣なんだけど、とにかく手がつけられない程凶暴でな。鉱山都市に現われては、人を襲ったりするんだよ」

「な、なんですか、それ! 感染獣が何か知りませんが、そんなのがいるなら、尚更放っておけません。人を襲うんですよね? その上、ゲートが大破したら、もう直せないかもしれないんですよ? 早く駆除しないと……」

「いや、ビビ。感染獣の駆除なんて素人にはとても……」


 そんな彼女を説得しようと感染獣について説明しようとするジェノ。しかしビビにとっては世界の再建が何よりも優先なのだろう。


「せめて、ゲートの状態だけでも調べましょう!」と言って、ジェノの説得にも耳を貸そうとしない。


 仕方なく、すぐに帰ることを条件に放置区域に向かうことを承諾するジェノ。そんな二人を見ながら、アミーナは無意識に目深にかぶっていた帽子のつばに触れていた。


 どこか悲壮感を帯びた彼女の表情を帽子は隠す。ジェノはそんなアミーナの変化にまだ気付いていなかった。

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