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第2話:ジェノの過去と見知らぬ少女

 ジェノの父が処刑されたのは今から五年前、ジェノがまだ12歳の時の事だ。父は文明の衰退した世界においては貴重なエンジニアであり、かつ旧時代の文化や技術を研究する研究者でもあった。


「ジェノ、世界はもっと広い。黒岩城や他の鉱山都市は、その中のほんの一部でしか無いんだ」


 幼いジェノに語る父親の優しい笑顔を今でもジェノはハッキリと覚えている。語る父は失われたとされた旧時代の世界地図をジェノに見せて、外の世界には海や砂漠、或いは密林や旧時代の街があると語ってくれたものだ。

 それが暗い鉱山都市で暮らすジェノにとっては、まるで夢物語に思えたものだ。


 もっとも、旧時代の世界地図は黒岩城の中では禁制品となっていて、父親は家の中の床板をはずしてその裏へと隠していたし、ジェノもその存在を誰かに打ち明けることは無かった。


 しかし、やはりジェノはまだ子供だった。

 自分と父親だけが知っている黒岩城の外の世界。こっそりとここだけの秘密だと友人に打ち明けたことが無かった訳ではない。

 そして、彼のそんな言葉はやがて憲兵の耳にも届いたのだろう。


 ある凍えるような日の朝に父親は黒岩城の秩序を守る憲兵に連れて行かれ、そして帰ってくることは無かった。


 憲兵からは父親は反乱分子と見なされたのだろう。父がどうなったかは公にされること無く、秘密裏に彼は処刑されたのだとジェノが理解した時には、もう何もかも手遅れ。

 彼に残されたのは父親が保管していた旧世界の世界地図だけだった。


        ●


 ジェノが目を覚ました時、彼が目にしたのは真っ白な天井。


 起き上がって周囲を見れば、そこは今までの彼が見たことも無いような必要以上の物の無い部屋の中だった。天井に光源となるランプなどは無いのに部屋中はボンヤリと輝いているように見える。


 明らかに、彼が今まで暮らしていた炭鉱とは異なる場所につれてこられていた。気を失うまでに感じていたはずの突き刺されるような風の冷たさも、渦を巻くように舞っていた雪も無い。


 寧ろ過ごしやすい程に部屋の中の温度は管理されているようだった。


「ここは……。俺はどれくらい……」


 まだボンヤリとする頭で眠る前の事を思い出そうとする。


 断片的に思い出せたのは、自分が黒岩学園から脱走する為に鉱車にのって逃げ出したこと。そして停まってしまった鉱車の中で凍えそうになる中で、誰かによって担ぎ出されたことだった。


(まさか、俺は捕まったのか?)


 ハッと気付いてジェノは自分の来ていた制服の内ポケットを確認する。そこにはジェノが家から持ち出した旧世界の地図が入れられたままになっている。


 衣服はもちろん、ジェノが辛うじて制服に入れていた幾つかの物資はそのまま残っているようだった。


「目を覚まされましたか?」


 そんな中不意に声を掛けられてジェノが振り返る。すると、そこにはいつの間にか一人の少女が立っていた。


 見た目にはジェノよりも幼く10歳程度に見える少女。白衣を羽織った彼女が身に着けているのはくるぶしまで届く長いスカートに半袖のブラウス。その衣服はジェノが黒岩城で目にした衣服よりもずっと洗練されていて、まるで旧世界の衣服のように見えた。


 腰のあたりにまで届く栗色の家を揺らした彼女は、鳶色の瞳でジェノを見つめて、にこやかな微笑みを浮かべていた。


「お、お前……誰だ!」

「あぁ、暴れては駄目ですよ。もう少しで凍え死ぬところだったんです。その前にここに運ばれたことは運が良かったですね。これもあなたの日頃の行いが良いからでしょうね」


 ジェノに対して一切の警戒心も無く語り掛ける少女。ジェノは未だ警戒を続けていたが、彼女の相手をしているとどうしても毒気が抜かれてしまう。


 こちらの心を穏やかにするような、不思議な雰囲気を持つ少女だった。


「ここはどこなんだ? 凍え死にかけたって事は、アンタが助けてくれたのか?」

「あわわ……、一度に色々と聞かれるのは久しぶりです。とりあえず、順を追って説明させていただいてもいいですか?」

「ああ」


 ジェノが頷きを返すと、少女はニコリと微笑みを浮かべて自身の胸に手を当てて答えて見せた。


「まずは申し遅れました。私の登録コードは、CP―F:11100190。登録名・ビビ。ここアーカイブの管理を任されているガイノノイドです」


 もっとも、彼女の言葉の全てをジェノが理解できたかと言えば、それは別の話。分かったのはビビという名前と、彼女がガイノノイドだと言ったことだ。


「ガイノノイド……?」

「はい、平たく言うとロボットです。私はここアーカイブの管理をする為に作られた存在です」


 胸の前で手を合わせて明るく話をするビビ。しかし、ロボットなどと言われてもとても信じられる話では無い。


「冗談を言うのはこの口か……」


 気が付けばジェノはビビと名乗った彼女のほっぺたを引っ張り、ムニムニと弄っていた。


「いらぃ……、いらぃですぅ、やめれくらさぃいぃ」


 柔らかく形を変える彼女の頬。

 目尻に涙まで浮かべてみせる彼女の姿はどう見ても、ジェノの知っているロボットとはかけ離れていた。


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