ダンジョン内を進むうちに、例のゴーレムが待ち構えていると思われる場所へと向かう。しかし、道中には予想通りいくつかの障害が立ちはだかる。音もなく現れた小さな魔物たちが、我々の足音に気づき、こちらに向かって突進してきた。
「またか…!」ナツメが短く息を吐き、戦闘態勢に入る。俺はすぐにスマートフォンを取り出し、状況を確認した。
「サーチで確認してみよう。」俺は画面をタップし、サーチ術式を発動させる。周囲の魔物たちの位置が表示され、その中で最も近いものがどれかが一目で分かる。今は数匹のゴブリンや小型の魔物たちが目の前にいる。
「よし、敵の位置は把握した。ナツメ、俺が先に行くぞ。」俺は短く言い、すぐに武器を取り出す。
「了解。」ナツメも素早く自分の武器を構え、俺の後に続いた。
敵が近づいてくる中、俺は足元を確認し、ウォールの術式を素早く発動させた。地面に力を込めると、目の前に透明な障壁が現れ、突進してきたゴブリンたちの攻撃を弾き返す。
「おお、これは…!」ナツメが驚きの声を上げる。その間にも俺は反撃を開始する。
「マジックミサイル!」俺は詠唱を短くつぶやき、空中に向かって小さな魔法の矢を放つ。魔法弾は一瞬でゴブリンの一匹に命中し、爆発するように消える。
「よし、これで一匹。次だ!」俺は次々と現れる魔物に目を向け、アナライズを使いながらその特徴を素早く把握する。弱点を見抜いた後、次々と魔法を使って攻撃を仕掛ける。
「ウィンドアロー!」ナツメの声とともに、強力な風の矢が飛んでいき、別のゴブリンを貫いた。ナツメも魔法を駆使して、戦闘のペースを速めていく。
しばらくの間、敵の攻撃をしっかりと防ぎ、反撃を繰り返していった。ウォールの術式で防御を固めながら、俺とナツメは互いにカバーし合いながら戦っていった。
やがて、残った魔物たちはすべて倒され、周囲は静けさを取り戻す。俺は改めてダンジョン内を見渡し、深く息をついた。
「戦闘は問題ないな。次のステージに進むか。」俺はナツメを見て、軽く頷く。
「うん、でも次に進む前に、少し休んでおいたほうがいいかも。」ナツメは少し疲れた様子で言う。
「そうだな、ちょっとだけ休憩しよう。」俺は周囲の状況を確認し、安心できる場所を見つけると、しばらくその場で立ち止まる。
休息を取ると、再び前進を決意し、俺たちはゴーレムが待つ場所へと向けて歩を進めた。
休息を終え、再び歩き出すと、ダンジョンの雰囲気は徐々に変わり始めた。前進するにつれて、壁の素材が変わり、空気がひんやりと冷たく感じるようになった。それは、この先に何か強大なものが待ち構えている予感を与えた。
「気をつけて、もう少しでゴーレムがいる場所だ。」俺はナツメに向かって低い声で言う。心なしか、足音も軽くなる。
「わかってる。準備は整った。」ナツメも気を引き締めて、俺の後ろを歩く。彼女の目にも明確な決意が見て取れた。
進んでいくと、突然、視界が開け、巨大な空間が広がる。その中央に、ゆっくりと動く影が見える。少しずつ、その影がはっきりと浮かび上がると、目の前に現れたのは、想像以上に大きなゴーレムだった。
高さはおそらく三メートルを超え、金属のような質感を持つ硬い外殻で覆われている。目の部分は赤く光り、まるで生きているかのような威圧感を放っていた。
「これが…ゴーレム。」ナツメの声がわずかに震えていたが、その目は挑戦的に光っていた。
俺は深呼吸し、冷静に状況を見極める。ゴーレムの動きは遅いが、その攻撃力は尋常ではないだろう。どうにかしてその攻撃をかわしつつ、少しずつ削っていかなければならない。
「サーチで周囲の状況を確認する。」俺は再度スマートフォンを取り出し、術式を発動させる。周囲に隠れている魔物はおらず、このゴーレムだけがターゲットだと確認できる。
「まずは、攻撃を避けるべきだ。ナツメ、君は遠距離攻撃を頼む。」俺は冷静に指示を出す。
「わかった。」ナツメは武器を構え、魔法の準備を始める。俺はゴーレムとの距離を取るべく、数歩下がり、マジックミサイルを詠唱して準備をする。
「マジックミサイル!」俺の一声と共に、魔法の矢が空中を飛び、ゴーレムの肩に命中する。金属音が響き、ゴーレムの動きが一瞬止まるが、すぐにその巨大な腕を振り上げ、反撃を開始した。
「注意!」俺は叫び、すぐにウォールを発動させる。ゴーレムの手が障壁に衝突し、大きな振動を与えながらも、障壁がしっかりと守ってくれる。
「ナツメ、今だ!」俺は声をかけ、ナツメが即座にウィンドアローを放つ。矢はゴーレムの胸部に直撃し、少しだけその動きが遅くなる。
「効いてる!でも、まだ倒せそうにないな。」ナツメは冷静に分析し、次の攻撃の準備を始める。
「少しずつ削っていこう。焦らずに。」俺は再度マジックミサイルを発動し、ゴーレムの足元を狙っていく。
ゴーレムはその巨体を揺らしながら、さらに強力な反撃を繰り出してきたが、俺たちはその動きを冷静に避ける。戦闘は長引きそうだが、少しずつゴーレムの動きが鈍くなり、倒す兆しが見えてきた。
「もう少しだ!」俺は力強く言い、ナツメと共に最後の一撃を準備した。
突然、耳をつんざくような声が響いた。
「まてまてまて!」
その叫び声に、ゴーレムがぴたりと動きを止める。俺とナツメは一瞬、何が起こったのか理解できなかった。攻撃の手を緩めた俺たちが周囲を見渡すと、その声の主が現れた。
そこには、犬の耳をつけた青年が立っていた。彼の耳は、まるで本物の犬のように鋭く立っていて、なぜかその姿はどこか不思議な感じがした。
「ちょっと待ってくれ!そいつは悪意のある存在じゃない!」青年は慌てた様子で、ゴーレムに向かって叫ぶ。ゴーレムはまるで命令に従うかのように、じっとその場に止まっている。
「え?」ナツメが驚きの声を上げる。
「ゴーレムが…止まった?」俺はその青年に目を向け、警戒しつつも問いかけた。「お前は誰だ?」
青年は少し照れくさそうに笑いながら、「俺はイヅナ。こいつの…あ、いや、ゴーレムの管理者だ。」と手を振った。「ゴーレムって、動かすだけでなく、きちんと調整しないとダメなんだ。君たちが攻撃してるのを見て、ちょっと急いで止めたわけだ。」
その言葉に、俺たちは少し間を置いてから理解する。つまり、このゴーレムは敵ではなく、イヅナという青年が制御しているものだったのだ。
「なるほど…じゃあ、今のは誤解だったんだな。」俺は息をつき、状況を整理する。「でも、どうしてこんなところに?」
イヅナは肩をすくめて、少しだけ笑顔を見せた。「俺はちょっとした調整士なんだ。ゴーレムを修理したり、プログラムを調整したりしているんだ。君たちの戦闘を見て、急いで止めに来たってわけ。」
ナツメは少し納得した様子で、「じゃあ、ゴーレムを傷つけないで済んだってことだな。よかった。」とつぶやく。
イヅナは軽く頷き、「その通り。ゴーレムも少しクセが強いから、調整しないとすぐ暴れちゃうんだ。」と苦笑いしながら言う。「あ、それより、君たちもかなりの実力者だな。ゴーレム相手に戦って、あんなに冷静に対応できるなんて。」
俺はその言葉に軽く頭を下げ、「まだまだだ。でも、ありがたいよ。あのままだったら、かなりの手間になったかもしれない。」と言った。
イヅナは嬉しそうに笑って、「それならよかった。それじゃ、せっかくだし、俺も少しだけ手伝おうか?」と提案してきた。
「手伝ってくれるのか?」ナツメが疑問を抱きつつも、少し期待を込めて尋ねる。
「うん、ゴーレムの調整は得意だから。まあ、君たちがここに来た目的にもよるけど。」イヅナは意味ありげに言った。
「目的か…」俺は少し考えたが、イヅナが言うことにも興味が湧いてきた。「実は、このゴーレムがいる場所について調べに来たんだ。何か、特別な理由があるのか?」
イヅナは少しだけ表情を引き締め、低い声で答える。「それについては…うん、実はちょっとした秘密がある。ゴーレムの調整をしているだけじゃなく、このダンジョンにはちょっとした隠された遺物があるんだ。」
その言葉に、俺とナツメは互いに顔を見合わせる。やはり、このダンジョンには普通ではない何かが潜んでいるのか。
「隠された遺物?」俺が質問すると、イヅナはさらに声を低くして続けた。「そう。これから行く先には、それを守るために作られたゴーレムがいる。それを見つけることができれば、君たちにとっても大きな意味があるかもしれない。」
「それは興味深いな。」ナツメが目を輝かせながら言う。
俺はイヅナの言葉に少し慎重になりつつも、提案を受け入れることに決めた。「じゃあ、協力してもらうことにしよう。ただし、無理はしないように。」
「了解だよ。」イヅナは笑顔で答え、再びゴーレムに近づいていった。
これから先、どんなことが待っているのだろうか。