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第6話

 魔力式列車がゆっくりと駅に停車すると、扉が開かれ、外の空気が車内に流れ込んできた。駅のホームには、列車の到着を待っていた数人の乗客が降りるのと同時に、俺たちも降りる準備を整えた。


 「到着だな。」ナツメが軽く言いながら、荷物を肩に掛ける。


 俺たちは列車を降り、駅の構内を歩きながら周囲を見渡す。駅舎は、歴史を感じさせるデザインで、どこか格式のある佇まいだ。そこから外に出ると、目の前に広がるのは、京都の街並みだ。


 京都特有の古風な町並みが、現代の技術と調和しているのが印象的だった。古い町屋や瓦屋根の建物が並び、商店街が通りを囲んでいる一方で、魔力式の車両が静かに走り抜け、近代的な建物も点在している。少し先には大きな神社の鳥居が見え、伝統と現代が見事に融合している街の風景が広がっていた。


 「すごい雰囲気だな。」ナツメが感心したように言う。「伝統的な建物と現代的なものが上手く混ざってる。」


 「うん、こういう街並みは、やっぱり落ち着くな。」俺も同意し、歩きながら辺りを見回す。


 街の中心から少し外れた場所に、京都支部があるという。ここに来る前に、地図を確認しておいた。目指す場所は、少し坂道を上った先にある建物だ。


 「支部までは、あと少しだな。」俺は前を歩きながら言う。


 ナツメも頷き、歩調を合わせてついてくる。坂を上り、少し曲がったところに見えてきたのは、古びた門と、そこに続く敷地だ。門をくぐると、静かな空間が広がり、背後の街並みから隔てられたような感じを受ける。


 「ここが京都支部か。」ナツメが静かに呟く。


 「うん、ここで情報を集めるんだ。」俺は背筋を伸ばして言った。


 支部の建物は、外観こそ古風だが、内部はしっかりと現代的な設備が整っているはずだ。目的に向かって着実に歩を進める中で、少しの緊張感も感じつつ、支部に到着する。


 「支部長に会う前に、まずは情報を整理しておこう。」俺はナツメに話し掛ける。「こっちが持っている情報をしっかり伝えて、次に進むべき方向を決める必要がある。」


 「了解。」ナツメが軽く頷く。


 支部の扉を開けると、中は予想通り落ち着いた雰囲気で、スタッフがいくつかのデスクで忙しそうに作業している。ここがその拠点であることを実感しながら、俺たちは奥へと進んでいく。


 支部の中に足を踏み入れると、静かな空気が漂っていた。デスクに向かって働くスタッフたちは、皆真剣な表情で作業をしており、外の街の喧騒とは対照的な落ち着いた雰囲気を作り出していた。


 「ここで情報を整理するんだな。」ナツメが小声で言う。


 「そうだな。」俺は頷き、周囲を見渡す。支部内の広さはそれほど広くないが、必要な設備は整っている。壁際には書類棚が並び、奥の部屋には大きなテーブルが置かれ、いくつかの人がその周りで集まっている。


 「まずは支部長に報告だな。」俺がそう言うと、ナツメも了解した様子で頷いた。


 しばらく歩くと、奥の部屋の一つが目に入る。扉には「支部長室」と書かれており、その前で立っているのは、年齢が高そうな男性だった。彼は俺たちに気づき、にこやかに微笑んだ。


 「おお、待っていたぞ。」男性は優雅に手を挙げて迎え入れてくれる。「君たちが来たか。」


 「お世話になります。」俺たちは軽く頭を下げて挨拶をする。


 支部長の名前は和泉(イズミ)という。どうやら、京都支部の運営に関しては長年の経験がある人物らしく、その言葉にはどこか落ち着きがあった。彼は俺たちが持ち帰った情報を受け取ると、それを整理し始める。


 「これまでの情報の整理をお願いする。」俺はナツメを見て、彼女が持っている情報を話し始める。


 ナツメは、ダンジョンでの出来事や、最近発生した異変について、丁寧に報告を始めた。俺もその後に続き、街で見聞きしたこと、そして不審な動きがあった件について詳しく説明した。


 和泉支部長は時折うなずきながら、メモを取り、報告内容に耳を傾けていた。報告が終わると、少し間をおいてから口を開く。


 「なるほど、状況は思っていたよりも厳しいな。」支部長は静かに言った。「これからの進展を慎重に見極めなければならない。君たちの報告をもとに、次の手を考える必要がある。」


 「次の手ですか?」ナツメが少し疑問を抱いたように尋ねる。


 支部長は立ち上がり、部屋の隅に置かれた地図を指差した。「こちらを見てほしい。最近、異変が起きている場所がある。この地域で何かが動いている。まずは、そこを調査し、どんな関係があるのかを明らかにする必要があるだろう。」


 地図には、複数の赤い印がつけられており、それが異変が発生したと思われる地域を示していた。


 「その場所へ、今すぐにでも向かいたいところですが。」俺は少し悩んだ。「現状、情報が不十分で、行動を起こすには慎重になる必要があります。」


 支部長は頷き、「確かに、無闇に動くのは危険だ。だが、これ以上の遅れは許されない。君たちにはできるだけ早く動いてもらいたい。」と強調した。


 「分かりました。」俺は決意を込めて答える。「その場所に向かう準備をします。」


 ナツメも同様に頷き、「それなら、早速行動を開始しましょう。」と言った。


 支部長は少し考えてから、「君たちが戻る前に、もう一つの場所を調べるべきだろう。ここから東の山を越えた場所に、異常な動きが見られるという報告があった。両方の地点を調査し、情報を集めた後にまた報告してほしい。」と指示を出した。


 「了解です。」俺は再び頷き、その指示に従う覚悟を決めた。


 「じゃあ、すぐに準備を整えて出発だ。」ナツメがそう言って、扉を開けた。


 支部長からの指示を受け、すぐに行動に移すべく、俺たちは支部内の案内を頼んで、倉橋博士がどこにいるのかを尋ねることにした。倉橋博士は、魔力やダンジョンに関する知識が豊富で、時折予知的な情報を提供してくれる頼もしい存在だ。


 「すみません、倉橋博士の居場所を教えていただけますか?」俺がスタッフの一人に声をかけると、そのスタッフは一瞬考え込み、すぐに答えてくれた。


 「倉橋博士ですか。彼なら、支部の南側にある研究室にいますよ。そこには魔力に関する専門的な機材や文献が揃っているので、最近はよくそこで作業していると思います。」


 「ありがとうございます。」俺は軽くお礼を言って、ナツメとともにその方向に向かう。


 支部内の通路を歩きながら、倉橋博士の研究室の場所を確認していく。通路の両側には、研究資料や実験器具が整然と並べられており、支部全体がまるで知識の宝庫のような雰囲気を醸し出している。


 「倉橋博士がいるなら、きっと何か手がかりをくれるはずだ。」俺は歩きながら言う。


 ナツメが頷く。「魔力に関する研究者だから、ダンジョンや異変についても詳しいんじゃないかと思う。」


 少し進むと、壁に「倉橋研究室」の札が掛けられた扉が見えた。俺は軽くノックをしてから、中に声をかける。


 「失礼します、倉橋博士。」


 扉を開けると、室内には無数の魔力式機器や、古い書物が積み重なっている光景が広がっていた。倉橋博士は、机の前で資料を整理している最中で、こちらに気づくとすぐに顔を上げた。


 「おや、君たちか。」博士はにっこりと微笑みながら、椅子から立ち上がる。「どうした、何か調べることでも?」


 「はい。」俺は話し始める。「実は、最近のダンジョン内での異常や、周辺地域で発生している不穏な動きについて、博士の知識をお借りできればと思いまして。」


 博士は真剣な表情に変わり、すぐに書類の山を整理して机を空ける。「なるほど、君たちが聞きたいのは、ダンジョンやその周辺地域に関する魔力的な異常だな。確かに最近、いくつかの報告が入っている。君たちが言っている現象も、その一環かもしれない。」


 「そうですか。何か心当たりは?」ナツメが問いかける。


 倉橋博士は少し考え込み、そして自分の机の引き出しから古びた巻物を取り出して広げた。「これはかなり前に私が研究していた、ダンジョン内部の魔力異常についての記録だ。最近の動きに関連している可能性がある。」と、その巻物を指し示す。


 「この巻物には、ダンジョン内での魔力の変動に関する記録がまとめられている。ここに書かれている現象は、いわゆる「魔力の歪み」と呼ばれるもので、通常のダンジョンでは起こりにくい異常だ。」博士は続けて説明した。


 俺たちはその巻物を覗き込みながら、話を聞く。


 「魔力の歪み…それが、今回の異常と関係があるのでしょうか?」ナツメが興味津々で尋ねる。


 「その可能性が高い。」博士は巻物をしっかりと指で押さえながら答えた。「魔力の歪みは、通常のダンジョンの構造に干渉し、予期せぬ力が働くことになる。その影響で、モンスターや魔物が異常に強化されたり、逆に弱くなったりすることがある。」


 「その歪みが、ダンジョンの中の状況にどんな影響を与えるか分からない、ということですね。」俺は言葉を補う。


 博士は頷きながら、「そうだ。その歪みが広がれば、ダンジョン内外の環境がますます不安定になる可能性がある。だからこそ、君たちには調査を続けて、さらに情報を集める必要がある。」と言った。


 「了解しました。」俺はしっかりと受け止め、改めて指示を仰ぐ。「それで、歪みを修正する方法はあるのでしょうか?」


 博士は少し黙って考え、「それについては、まだ完全には解明されていない。」と答えた。「しかし、歪みを安定させるために、特定の魔力源を制御する必要があるかもしれない。それを調べるには、もう少し準備が必要だろう。」


 「準備…ですか。」ナツメがその言葉に反応し、博士の意図を聞き返す。


 「はい。」博士はにっこりと微笑みながら答えた。「君たちが探している歪みの源を突き止めるには、まずそれを調べるための道具と魔力を確保しなければならない。私が持っている資料を基に、君たちがそれに必要な道具を集めるべきだ。」



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