魔力式列車は静かな発進音と共に動き出し、街並みが徐々に後ろに流れていく。車内は思った以上に広く、座席も快適だ。窓から外を見ると、近代的なビルが立ち並ぶ都市が広がっていたが、しばらくすると、街並みが徐々に田園風景に変わり、田畑や小さな村が見え始める。
「すごい……こんなスピードで走ってるのに、揺れが全然ない」
ナツメが窓際で外を眺めながら、感心したように言う。
「うん。魔力式列車の技術ってすごいな。ほとんど音も立てずに、これだけの速さで走れるなんて」
俺も窓の外に目を向ける。風景が流れるように過ぎ去り、まるで時間が一瞬にして飛んでいくようだ。
「でも、この列車も途中でトンネルに入るよ。魔力式だから、トンネルの中でも問題ないだろうけど、ちょっとした不安はあるかもな」
ナツメが冗談めかして言うと、俺は微笑んで答えた。
「その程度の不安なら、俺たちなら大丈夫だろ」
トンネルの入口が見え始めると、列車の車内は一瞬薄暗くなる。あっという間に列車はトンネルに突入し、外の景色は完全に消えた。静かな音だけが響く中、列車はそのままスムーズに進み続ける。
「なぁ、このトンネルってどれくらい長いんだろうな?」
ナツメが少し退屈そうに言う。
「大きなトンネルだから、十数分くらいはかかるんじゃないかな」
「そっか。まぁ、道中でもっと情報を集めるか」
俺たちはしばらく静かにしていたが、次第に列車の揺れと心地よさに包まれて、少し眠くなり始める。だが、すぐにナツメが言った。
「そういえば、京都支部に着いたら、まずは倉橋博士に会うんだよな。どんな人なんだろう?」
「研究者って聞いてるけど、詳しいことはわからないな。俺も初めて名前を聞いたし、どんな人物なのかは実際に会ってみないとわからない」
「じゃあ、あまり警戒しすぎない方がいいかもね。大事なのは、早く情報を集めることだし」
「そうだな。慎重に進めよう」
トンネルの中での静かな時間が続く中、俺たちはそれぞれの考えを巡らせながら、京都に向かって進んでいった。
トンネルの中での静けさが続く中、車内は意外に落ち着いていた。周りの乗客たちは、皆それぞれの思惑を胸に静かに過ごしている様子だった。たまに、車内のスピーカーから流れる車両の案内や、目的地への到着予想時刻が聞こえてくるだけだ。
ナツメがふと、顔を上げた。
「そういえば、他の支部の人たちも今回の任務に関わってるんだよな?」
俺は少し考えてから答える。
「うん、確か京都支部には、他の支部からも何人か派遣されているはずだ。みんな同じ目的で集まっていると思うけど、どういう協力関係になるかは、現地での状況次第だな。」
「なるほど……」ナツメは少し考え込むように言った。「他の支部の人たちって、どんな感じなんだろう?」
「俺はあまり他の支部の連中と接点がないから、よくわからないけど、きっとそれぞれ得意分野が違うんだろうな。」俺は少し肩をすくめて言う。「例えば、戦闘員がいれば、情報を取りに行くのが得意な者もいるだろうし。」
「それに、支部同士でのやり取りもあるだろうから、少し緊張感があるかもね。」ナツメは窓の外をじっと見つめながら、続けた。「でも、逆に言えば、協力してくれる人が増えるってことだから、心強いよ。」
「そうだな。」俺も頷く。「お互いの得意分野を活かし合えば、もっと効率的に情報を集められるだろうし。」
その時、前の席に座っていた二人の男性が、さりげなく会話をしているのが耳に入った。どうやら、他の支部から派遣されてきた人物のようだ。
「今回の任務、なかなか面倒そうだな。」片方の男性がぼそっと言う。
「だな、京都支部での調整も忙しいだろうし、もしかしたら、あまり協力的でない連中もいるかもしれん。」もう一人が答える。
「それに、報告によれば、どうやら地下遺跡の近くに異常反応があるらしい。俺たちの仕事も、それに絡むことになるかもしれないな。」
「異常反応か……」もう一人の男が声を低くして言った。「あまり無理をしない方がいいな、あんまり余計なトラブルを抱えたくない。」
二人の会話が少し気になったが、俺たちの会話を中断するほどではない。とはいえ、異常反応とは気になるところだ。
「異常反応って何だろうな?」ナツメが呟く。「何かの魔力の影響があるのか、それとも他に原因が?」
「どちらにしても、俺たちも覚悟を決めておいた方が良さそうだな。」俺は少し考えながら答える。「支部に到着したら、まずは情報収集をしっかりとやって、状況を確認しよう。」
その時、車両が少し揺れ、トンネルの出口が見え始めた。どことなく緊張感が高まる中、少しずつ明かりが差し込んできて、暗闇から解放される感覚が広がる。
「もうすぐだな。」ナツメが軽く言った。
「準備はいいか?」俺は彼女に尋ねる。
「もちろん。」ナツメはにっこり笑った。「新たな情報、しっかりと手に入れてくるよ。」
「俺も同じだ。」俺は自信を持って言った。
トンネルを抜けると、車内に一気に光が差し込んだ。視界が広がり、暗いトンネルの中で感じていた圧迫感が解放される。その瞬間、車窓の外に広がっていた風景が、まるで一変したように感じられた。
「おお、すごい……」ナツメが驚いた声をあげる。外の景色には、山々が広がっていた。どこまでも続く山間の風景が目に飛び込んできて、緑の濃さと岩肌のグラデーションが美しく、まるで絵画のようだ。
「まるで別の世界に来たみたいだな。」俺も息を呑んで窓から外を見る。だが、街並みが見え始めたわけではない。代わりに、山々が連なり、谷間に小さな村が点在しているのが見える。山の中を縫うように走る道路が、列車の進行方向に続いている。
「この辺りは、結構山が多いんだよな。京都支部は、そんな山間に位置しているんだ。」俺は軽く説明する。
「なるほど、自然の中にある支部ってことか。」ナツメが納得したように頷いた。
列車はしばらく山間を進み、やがて周囲の景色が少しずつ変化し始める。山々に囲まれていた風景から、次第に人工的な建物が見え始め、都市の輪郭が見えてきた。
「見えてきたな。」俺が窓から手をかざして、先の方を指さす。「あれが、京都支部の近くの街だ。」
「やっと到着か。」ナツメが少し肩を伸ばしながら言う。車窓の向こうに広がるのは、山間に建てられた小さな町だ。家々が並び、いくつかの商店が立ち並ぶ中心街のようだが、それでも全体的に自然と調和した感じがある。町全体が大きな山の影に包まれ、どこか神秘的な雰囲気を持っていた。
「それにしても、こんな場所に支部があるなんて、なんだか不思議な感じだな。」ナツメは窓からの風景をじっと見つめる。
「確かに。ここの支部は、外部との接触が少ないから、結構独自の方針を持ってるかもしれない。」俺は答える。「だからこそ、これからの情報収集が大切だ。」
列車はさらに山道を進み、町に近づくと、周囲の風景もどんどん町並みに溶け込んでいった。小さな家々が並ぶエリアに入ると、徐々にその町の中心部が近づいてくる。商店や人々の姿が見え始め、町の活気を感じることができた。
「まもなく、目的地だ。」俺は座席を立ち、荷物を整理し始める。
ナツメもそれに続いて、準備を整える。列車がゆっくりと減速を始め、目的の駅が近づいてきた。駅のホームには、いくつかの人影が見え、迎えの車両が待機しているようだ。
「ついに到着だな。」ナツメが窓の外を一度見てから、俺に微笑みかける。「新たな情報を手に入れて、任務を進めよう。」
「その通りだ。」俺は静かに頷いた。
列車が駅に停車し、扉が開かれると、山間の町の空気が流れ込んできた。新たな環境が待っていることを感じながら、俺たちは一歩踏み出す。