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第4話

 ギルドでの報告と換金を終えた俺たちは、キャプテン・ガルシアの指示通り、ダンジョンに関する情報を持つ学者のもとへ向かうことにした。


 「その学者って、どんな人なんだろう?」


 ナツメが隣でスマホを操作しながらつぶやく。ギルドの資料には最低限の情報しかなく、学者の名前と居場所が書かれているだけだった。


 「名前は……『ヴィクトル・ハインツ』か。街の東にある古書店にいるらしい」


 「古書店? 意外とロマンチックな場所だね」


 「学者ってより、本屋の親父って感じかもな」


 軽く冗談を交わしながら、俺たちは目的地へと歩く。


 ◇


 街の東側、石畳の道を抜けた先に、その古書店はあった。


 『ハインツ書房』と書かれた木製の看板が掲げられた、小ぢんまりとした店構え。扉の前には魔法陣が彫られたプレートがあり、かすかに魔力が感じられる。


 「普通の本屋ってわけでもなさそうだな……」


 俺が扉を押し開けると、中にはびっしりと本が並んでいた。棚の隙間からは微かにインクの香りが漂い、アンティークな雰囲気が漂っている。


 奥のカウンターに座っていたのは、白髪混じりの細身の男だった。


 「君たちがギルドの紹介で来た冒険者かね?」


 落ち着いた口調で話すその人物が、ヴィクトル・ハインツだった。


 「そうだ。俺はカイ、こっちはナツメ。ダンジョンの情報を聞きに来た」


 「ふむ、なるほど。どのダンジョンのことか聞かせてもらおうか」


 俺たちは、先ほど探索したダンジョンと、その奥にいた番人らしきゴーレムのことを説明した。ヴィクトルは静かに頷きながら、手元の書物をめくる。


 「ほう……それは、おそらく『封印の守護者』だな」


 「封印の守護者?」


 「古代の遺跡やダンジョンには、時折『人の手を加えるべきでないもの』が眠っている。そうしたものを封じるために、強力な魔術師たちが造り出した番人のことを、我々は『封印の守護者』と呼んでいる」


 ヴィクトルはさらに本をめくり、一冊の分厚い書物を取り出した。


 「このダンジョンに関する記述は少ないが……どうやら、お前たちが見たものは『選定の守護者』らしいな」


 「選定?」


 「そうだ。そのゴーレムは、おそらく侵入者をただ撃退するための存在ではない。むしろ、『適格者』を選ぶための試練を与える存在だろう」


 「つまり、俺たちが試されていたってことか……?」


 「その可能性は高い。ただし、封印の守護者は本来、試練を与えるだけでなく、"鍵" を持たぬ者を排除する役目も持つ。今回、戦闘にならなかったのは、お前たちがまだその条件に達していなかったからかもしれない」


 俺たちは顔を見合わせる。


 「じゃあ、どうすれば守護者を突破できる?」


 ヴィクトルは少し考え込み、棚の奥から古びた紙片を取り出した。


 「これは古代の碑文の一部だ。このダンジョンの奥に眠るものに関する手がかりになるかもしれん」


 俺は慎重に紙片を受け取る。そこには古代文字が並んでいたが、一部は俺たちが先ほど見た石碑と似た文字だった。


 「俺たちが目にした文字と同じだな……」


 「これを解析し、ダンジョンの秘密を解くことで、次の段階に進めるはずだ」


 ヴィクトルは静かに微笑む。


 「お前たちの挑戦が無駄にならぬことを願っているよ」


 俺たちは紙片を慎重にしまい、礼を言って古書店を後にした。


 「……さて、次はどうする?」


 ナツメが問いかける。


 「一度ギルドに戻って、作戦を練ろう。下手に突っ込んで守護者に排除されるのは御免だしな」


 「了解!」


 俺たちは次なる挑戦に備え、足早にギルドへと戻るのだった。


 ギルドに戻ると、すでに夜も更けていた。室内は暖かな光に包まれ、遅くまで活動している冒険者たちの姿がちらほらと見える。カウンターの奥ではエリスが帳簿を整理しており、俺たちが戻るとすぐに顔を上げた。


 「おかえり。ヴィクトルさんのところはどうだった?」


 「有益な情報が手に入ったよ。ダンジョンの守護者はただの敵じゃなく、試練を課す存在らしい」


 「試練……? つまり、何かしらの条件を満たせば突破できるってこと?」


 「そういうことみたいだ」


 俺はヴィクトルから受け取った古代の碑文の紙片を取り出し、エリスに見せる。エリスは興味深そうにそれを眺め、軽く頷いた。


 「ふむ……ギルドの資料と照らし合わせてみるわね」


 彼女は奥の棚から古びた本を取り出し、いくつかのページをめくり始める。その間、俺とナツメは換金した報酬を確認し、次の準備に取りかかることにした。


 「装備のメンテナンス、回復アイテムの補充、それと……情報収集か」


 ナツメがスマホを操作しながら、必要なものをリストアップしていく。俺は武器屋で買い足すべきものを考えつつ、エリスの作業を待った。


 数分後、エリスが顔を上げる。


 「見つけたわ。この碑文、どうやら『資格者の誓約』って呼ばれる儀式に関係しているみたい」


 「資格者の誓約?」


 「簡単に言えば、そのダンジョンの試練を受ける資格を持つ者が、正式に認められるための儀式ね。これをクリアすれば、守護者に認められて奥へ進める可能性が高いわ」


 「なるほど……具体的に何をすればいい?」


 エリスはページをめくり、指である一文を示した。


 「"誓約の刻印を捧げ、魂の在り処を示せ"……って書いてあるわね」


 「誓約の刻印……?」


 「古代の儀式に関係するものだと思うけど、詳細は不明ね。もしかすると、ダンジョン内のどこかに手がかりがあるかもしれないわ」


 俺たちは考え込んだ。単純に敵を倒すだけの攻略ではなく、何らかの試練をクリアしなければならない。


 「……もう一度、ダンジョンを探索する必要がありそうだな」


 ナツメが腕を組みながら言う。


 「次は儀式に関係しそうな場所を重点的に調べよう」


 俺たちは頷き合い、準備を整えるためにそれぞれ動き始めた。



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