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第7話 釣れた釣れた

 二日後。


 ブライアンは貴族寮の自室で取り巻きたちを呼び、不貞腐れていた。


「顔の腫れは引いたから、また暇つぶしを見つけに行くか? 学園にいる下々の愚民なんて腐るほどいるし」


「そうだなー。あ~あ、授業と緊急時以外で魔術使うなとかそんな則いらねぇっての。感知するおかげで先公が飛んでくるし、結局は拳なんだよなぁ」


「俺は足だけどな!」


「速くスッキリしたいぜ~」


 一応友人としてあつかってる二人。その雑言を聞きながら、ブライアンは思考していた。いつもなら乗って来る会話に入ってこない。


「どうしたブライアン」


「マルフォイにやられた腹がまだ痛むのか?」


 マルフォイと言われ、ブライアンは取り巻きの一人を睨んだ。


 す、すまん。と、うわべだけの謝罪を受け、三人掛けのソファに腰かけ沈み込んだ。


「お前らバカか。気持ちはわかるが、そいつがもしマルフォイのものだったら同じ痛い目にあうぞ」


「そんなに警戒することかぁ? ここにどれだけの愚民がいると思う。たまたまスミスがそうだっただけだって」


「そうだよ。早く新しいおもちゃ探そうぜー」


 笑い合う二人に、警戒心が無いなと溜息をついて呆れるブライアン。


 見かねた二人が問う。


「マルフォイに逆らうのはそんなに怖いか?」


「当たり前だ! 中流貴族のお前らには分らんだろうが、幼少から交流のある俺、ゴーグ家はイングラム家に頭があがらない! そうなったのはすべて無能な祖父の所業だ腹が立つ! ジジイがへこへこしてるから父上と俺は煮え湯を飲まされている……!!」


「そ、そうか……。プライド高いの知ってるけど、よく我慢できたな」


「すべては偉大なるゴーグ家を立たせるためだ……」


 人一倍自尊心が高く、家名に誇りを持つ男。ブライアン=ゴーグ。


 上流貴族の一つで、最上級のイングラム家とは祖父の代から付き合いがあった。


 祖父によって行われた聞くに堪えないゴーグ家の悪逆。手に負えないと帝王が一家取り潰しを下すのに待ったをかけたのは他でもない、イングラム家だ。


 どういった弁明や情状酌量じょうじょうしゃくりょうがあったのかは表に出されていない。この異常な事態は、すべてイングラム家が絡んでいるからとされている。


 喉元に突き付けられたナイフを覆った形のイングラム家。こういった事情でゴーグ家は逆らえない。媚びへつらう祖父の事が、身の毛がよだつ程嫌いなブライアンだった。


「――クク」


 そんなブライアンだが、静かに頬を吊り上げる。


「ど、どうしたんだ、ブライアン……」


「気でも触れたか?」


 不敵な笑みを浮かべるブライアン。


「もし、近い将来、ゴーグ家がイングラム家を陥れるとしたら、どうする」


「それは――」


「――楽しそうだ!」


 不穏な空気。そしてブライアンが声を大にして笑うと、


「まったく、元気な奴らだ」


 性懲りもなく同じ過ちを犯そうとするのは単なるバカかへきだ。まぁ気持ちはわからんでもない。あいつらが好く快楽、バカ共に対して行った暴力きょういくは毛先ほどの快感はあった。俺は好かんが。


「話の途中ですまないなガブリエル。少々、が入った。ブタ餌にもならんくだらない内容だったがな」


「ちゃんとご飯たべれてるの? 執行権限を与えられてから、より忙しくなったみたいじゃないぃ」


「お前のおかげもあって、雑務は滞りなく進んでいる。喜べ、もっとボロ雑巾の様に使ってやる」


「あん♡ 相変わらずイジメてくれるんだからぁん♡」


 対面のソファから立ち上がり、自身の体に抱き着いてくねらせている。


「もっとイジメてぇえええ♡♡」


 見る人が見れば、その筋肉質な肢体から醸し出す"オス"フェロモンとやらにあてられるらしい。


「お前とは二年ほどの付き合いだが、ますます肉体が仕上がってるな」


「私のこのカラダはバニーちゃん達や狩人ちゃん達に魅せるだけじゃなぁいの。マルフォイ♡ あなたのために鍛えてるのよ♡」


「無論だ。お前たち一族は俺のものだ! せいぜい利用するさ! フー↑ッハッハッハッハッハ!!」


「あん♡ 高笑いに惚れ惚れしちゃう♡」


 ガブリエル=ホリ。


 俺が昔に手助けし、今では忠実なるザクだ。と言っても助けたのはガブリエルだけではなく、一族そのものだが。


 さて、ガブリエルも落ち着いて座ったし、高笑いも済ませた事だ、本題に戻そう。


「で? 人手が足りないと」


「そうなのよぉ。良い事なんだけどぉ、最近王国店のバニーちゃんが二人ほど里帰りしてね。その子たちのリピーターが足を運ばなくなったのよぉ! もう困っちゃう!」


 青い短髪に青い口紅。彼のイメージカラーが際立つ困り顔だ。


 ガブリエルはいわゆる大人の店、その系列の代表者だ。


 二年前は帝都の歓楽街にかまえる小さな店だったが、今では歓楽街を代表するまでに発展。隣の王国から魔族が住む魔族大陸に至るまで、店を広げた。


 まぁそう仕向けたのは俺だが。


 今回要請してきた内容は人材確保。ガブリエルが構える店の特性上普通に募集することができず、尚且つ厳密な基準がある。そう言った理由で、囲ってる俺に直談判しに来た。


「悩んでたらお肌が荒れちゃってねぇ――」


 このガブリエルと言う男。経営者としても掃除人クリーナーとしても、非常に有能な男だ。いや、この男だけではない、一族そのものが有能な集団……。溶け込んだ内なる俺が激しくそう推していた。


「優秀なお前の頼みだ。すぐには難しいが、頭に入れておこう」


「あらまぁ嬉し♡」


 そこからは他愛に談笑をし、使用人に用意させた紅茶で舌鼓した。


「ん?」


 ガブリエルが紅茶を飲み終えた頃、俺の耳に魔術陣が展開。お父様からの連絡がきた。


「はい。……はい。ええ、相変わらずの――」


 俺の通話態度と表情で、仕事の話と判断したガブリエル。小声で「もう帰るわね♡」と立ち上がる。ラックにかけてある自分のコートを手に取り、振り返って俺に手で会釈した。


 そこで俺が手を出し待ったをかけると、ガブリエルが不思議そうな顔をして近寄ってくる。


「――はい。こちらは任せて下さい。……ええ。健闘を祈ります。では」


 そう言い残し、魔術陣を消す。


 ニヒルな笑みを浮かべる俺を見たガブリエル。


 俺は何がとは言わず淡々と語る。


「歳は次の月で十七。髪は赤で筋肉質。プライドが高く、顔も悪くない」


「ふ~ん♡」


「極めつけはお前好みの尻をしている。どうだ」


「んふ♡ もう最っ高ぉ♡」


 これだから釣りはやめられない。

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