ゼルクは勢いよく上昇し、レヴァナント攻撃空母に迫ってゆく。
「ま、間近で見ると、めちゃくちゃデカいな……サリア、コイツをどこに向かわせたらいい!?」
「艦橋に向かって! 上部の窓ガラスで覆われている部分! 敵はルクスを放ってくると思うから、気を付けて!」
ハルキは「分かった!」と言うと、艦橋へ向け速度を上げた。艦橋を消し去ってしまえば、レヴァナントの制御は出来なくなるはずだ。
目標の艦橋が迫りくる中、操縦席から身を乗り出し右手を向けた。想像通りルクスを放ってきたが、ハルキの勘がいいのか、ゼルクはルクスの間をすり抜けていく。
イレイズが届く距離までもう少し……あと十数メートル……
イレイズを放とうとした瞬間、乗組員たちの顔が目に入った。私を見る彼らの目が、怯えに変わっていく。そしてその表情が、私に一瞬のためらいを生ませてしまった。
「ど、どうした!? まだ遠かったか!?」
「い、いや……距離的には問題なかった……」
ゼルクはそのまま直進し、イレイズを放てないままレヴァナントから遠のいていく。周りにいた地球のヘリたちの間を抜けると、眼下には夜景の街並みが見えてきた。
「――イレイズを撃つってことは、沢山の人を殺すってことだもんな。そんな辛い役目をサリア1人に背負わせようとしてたのか……すまなかった、サリア……」
ハルキは私がイレイズを放てなかった理由に気づいたようだ。
「で、でも……私がやらないと、ハルキやミツキ、地球の人がみんな死んでしまう……」
「ハハハ……その時はサリアたちも一緒じゃないか。その時は運命だったと思って諦めるよ」
「ほ、本気なのか、ハルキ……?」
「だって、最初に降り立ったのがサリアたちじゃなかったら、俺たちは問答無用で殺されてたんだろ? サリアが責任を感じることなんてないよ。――でも、やりたかったことは沢山あるよ。サリアと行きたい場所も、一緒に食べたいものも、まだまだ沢山あった」
ハルキの言う、運命って何だ……
地球人がヴェルミラ人に滅ぼされるってこと……?
いや、違う……私たちがハルキとミツキに出会えたことだって運命だ。
それなら……
「ハルキ、戻って! 次はイレイズを撃つ!!」
「だ、大丈夫なのか?」
「本当の運命はどっちだったのか、私が答えを出す!!」
そう言うと、ハルキはゼルクを方向転換させた。ドンッと背中が貼り付くほどの加速をすると、一直線にレヴァナントへと近づいていく。
「サリア、左手を貸せ! 今から敵を倒すのは、俺とお前だ! 今からやることが罪なら、俺もお前と同じ罪を背負う!!」
私は再び操縦席から身を乗り出すと、右手をレヴァナントの艦橋へ向けた。左手はハルキが強く握ってくれている。
「落ちろっ!! イレイズっ!!!」
私は全身全霊の力を込めて、イレイズを放った。
艦橋を無くした空母は、船体の照明が徐々に消え落ち、真っ黒な塊と化した。その後、音もなく落下していくと地上で大爆発を起こした。