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カレーライス

「そ、それよりさ、ハルキさん。めっちゃ良い匂いするんだけど……何の匂い?」


「あ、ああ……昼になるし、カレー弁当買ってきたんだ。――ってか、カレーの匂いくらい分かるだろ、ふざけやがって」


 ハルキはそう言ってカラカラと笑った。


 私たちはハルキが配ってくれたカレーとやらの容器を開ける。プラの容器から、フワッと香りが立ち上がってくる。――ああ、これはスパイスというものの仕業らしい。


 ゴクリ……


 初めて見る、カレーという食べ物。見た目は決して良いとは言えないが、スパイスとやらの香りが強烈に食欲をそそる。


 ところでこれは、茶色い部分と白い部分を一緒に食べるものなのだろうか。私が躊躇している間に、レクトがカレーにかぶりついた。


「うっ、うめーーーっ!! う、美味すぎるよハルキさん!!」


「そっ、そうか、喜んでくれて俺も嬉しいよ。そんな特別な店のカレーでもないから、逆に恐縮しちゃうけどな」


 ハルキの視線がレクトに向いているうちに、私もカレーを一口放り込んだ。


 お、美味しい……


 こんなのヴェルミラで食べたこと無い……


 ヤバい、美味しさで勝手に笑みがこぼれてしまう……


「やっぱ、レクトの反応見て笑っちゃうよなサリアちゃんも。まるで、初めてカレー食った奴みたいなリアクションだし。ハハハハ!」


 大笑いするハルキと対照に、レクトは「ゴホゴホ」と盛大にむせた。



***



「今回、下見のときに写真撮るの忘れてたんだけどさ、壁とかこんなに綺麗だったっけ……?」


 食事も終わり、あぐらをかいたハルキは部屋を見回している。


「あ、ああ……出来るだけ綺麗な方がいいかなって。ちょこちょこっと掃除しておいたんだけど……」


 しまった、またやりすぎてしまったか……?


「いやあ、こんなに綺麗にしてくれて感謝しか無いよ。――そうそう、忘れないうちに今日のバイト代支払っておくか。これが約束していた2人分の6万円、そしてこれは、手伝ってくれた友達の分」


 ハルキは6万円とは別に、友達の分として3万円も渡してきた。


「そ、それはいらないよハルキさん。6万円で十分だ。なあ、サリア」


「もちろん」と、私も相づちを打った。


「ダメだダメだ、友達にタダ働きはさせられないだろ。持っていってくれたゴミの処分にだって金はかかるんだし」


「ほっ、本当に大丈夫! 友達の分は俺たちの6万円から出しておくから。 ――それより、こんなこと聞いちゃいけないんだろうけど、ちゃんとハルキさんの取り分もあるんだよね……?」


「――いや、今回はいいんだ。明日には引き払わないといけない部屋だったってのもあって、絶対に飛ばせない仕事だったんだよ。ちゃんと終わらせただけでも、俺にとっちゃ儲けものなんだ。――仕事って信用が一番だからさ」


 そう言ってハルキは、この話は終わりと言わんばかりに立ち上がった。


「ま、待って! 今の私たちにはこの6万円で十分。これは受け取れない」


 私がグイとお金を突き出すと、ハルキは「仕方ないな」と困った笑顔で受け取った。


「じゃあ、こうしよう! 俺が大好きな焼肉屋に行かないか? お前たちの歓迎会も兼ねてさ! いつがいい!? 俺は今夜でもいいぞ!」


 私とレクトは二つ返事で「じゃあ、今夜!」と返した。

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