「――こりゃ、すげえな」
預かっていた鍵でドアを開けると、玄関にまでゴミが押し寄せていた。部屋に入っていくには、このゴミ山を乗り越えていくことになる。
「まずは私が入ってスペースを作る。ちょっと待ってて」
私はゴミ山に登ると、レクトにドアを閉めさせた。念の為、誰にもイレイズを見られないようにするためだ。
ゴミの量も凄いが、臭いも凄い。こんな場所でよく生活が出来ていたものだ。部屋の中のものは全て捨てていいということだったので、片っ端からゴミと家財道具を消去していった。
「入ってきていいぞ、レクト」
「――おお、流石。ほぼほぼスッカラカンだな。――で、俺は何をすればいい?」
「残しておいたテーブルの上に、ゴミを詰めた袋を積み上げて欲しい。やってみて」
「OK。――こんな感じか?」
レクトは右腕をテーブルに向け、イメイジョンを唱える。するとテーブルの上に、ゴミがパンパンに詰まったビニール袋が現れた。
「上出来だ。じゃ、その調子で私がOKを出すまで、袋を出し続けてちょうだい」
「了解。――って、何に使うんだ、こんなもん」
私が考えるゴミの量になったところで、レクトのイメイジョンを止めさせた。あとは最後の仕上げだ。
「じゃレクト、ゴミの前に立って」
レクトは納得がいかない様子ながらも、ゴミ山の前に立つ。私はスマートフォンを取り出し、ゴミ山の前に立つレクトを撮影した。
「これでゴミを片付けた証拠写真は撮れた。ハルキが来たらこれを見せよう。じゃ、もうゴミは消してくれていいよ」
レクトは「はーい」とぬるい返事をしながら、イメイジョンで作り出したゴミ袋を消去した。イメイジョンで作り出した物体は、レクト自身が消すか、他者が触れることにより消えてしまう。要するに、イメイジョンで作り出されたものには実体がない。リオに『ハッタリ量術』と言われた理由がこれだ。
「じゃ、あとは換気でもしてハルキを待とうか。――にしても、お腹へったね。今日は朝から何も食べてないし」
「マジでそれ。空腹我慢するのも辛いし、俺ちょっとの間寝るわ」
レクトはそう言うと、汚れた床の上で横になった。私からすると、ありえない行動なのだが。私は当然寝る気にはなれなかったので、部屋の汚れをイレイズで消して回った。
***
それから2時間が経った頃。ドアのノックと同時に、ハルキが部屋に入ってきた。
「おつか――」
ハルキは右手に持っていた袋を落とし、部屋中に「ガコン!」という音が響いた。
「――おいおい、これ2人だけでやったのか?」
ハルキは落とした荷物を拾おうともせず、片付いた部屋を見回した。
「そうそう、掃除はね。ただ、ゴミの山だけは友達が持っていってくれたの。家の不用品のときも手伝ってくれたんだけど。――ほらほら見て、ゴミを集めた証拠写真」
私はゴミ山の前でピースサインをするレクトの写真を見せた。
「そ、そうか。たった2時間で、ここまでやったのか……お前たち、化け物かよ……」
そのセリフにレクトはビクッと体を震わせた。