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初仕事

「む、無理だ! 絶対に無理! 俺と手慣れたバイト2人がかりでも、日が落ちるまでに終わらせるのが目標だったんだ。悪いことは言わない、3人で一緒にやろう」


「じゃ、2時間。この条件じゃないと、私は仕事をしない」


 うーん、とハルキは両腕を組んでしまった。どうしたものかと思案しているようだ。


「――分かった。じゃ、2時間後に俺が合流するから、それまで頑張って進めておいてくれ」


 話が決まると、私とレクトはハルキが運転するトラックに乗り込み、早速現地へと向かった。



***



「これ俺のラインID。無理だと思ったら、すぐに連絡してくれたらいいから」


 トラックのベンチシートとやらに3人で横並びに掛けている。私とレクトはハルキのIDを登録しておいた。


「この辺りは結構建物だらけなんだな。ちょっと移動するだけで、景色が変わるもんなんだ」


 左側の座席に座ったレクトが、流れる景色を見ながらつぶやく。


「そういえば、レクトたちは何でこんな田舎に来たんだ? 遊ぶ場所も無いってのに」


「俺たちが、いとこ同士ってのはミツキさんから聞いた? 子どもの頃からさ、大人になったら一度は一緒に住もうって決めてたんだ。もちろん、ずっとではないよ。――なんと言ってもさ、この町ってゆったりしてるじゃん。居心地良さそうだなって」


 いずれくるであろう、この手の質問には回答の雛形をいくつか用意しておいた。「こんな設定で本当に大丈夫?」とリオは心配していたが、ハルキの反応はどうだろうか。


「へー、いとこ同士って、そんなに仲いいもんなんだな。それとも、お前たちが特別なのか? まあ、どっちにしても良い話だ。――だけど、この町にずっと住み続けるってわけでもないんだな。ミツキには、それとなく伝えておくか……」


「え? どうしてミツキさんに?」


「ああ……アイツ、レクトたちが来てくれたこと凄い喜んでるからさ。今のうちに言っておいた方が、ショック受けないかなって。――あ、こんなこと言っちゃうと気にしちゃうか。すまんすまん」


「――そうなんだ。あ、もしかしたら俺だけでもずっと住むかもだから、ミツキさんには、まだ黙ってて」


 レクトのよく分からない返事に、ハルキは「なんだそら」と笑った。



***



「ダメだと思ったらすぐ連絡くれよ! 諦めるのは恥ずかしいことじゃないからな!」


「――しつこいなハルキは。それより、ちゃんと離れた場所にいてよ。この辺りで待ってちゃダメだぞ」


 ハルキは「ハイハイ」と、笑みを浮かべてトラックを発進させた。



 ――さて、始めるか。


「何でレクトを連れてきたかわかる?」


「そりゃ、サリアが1人でやりきっちゃったら不自然だからだろ? 分かるよ、それくらい」


「ブブー。今朝のことが教訓になってないようだね、レクトくん。今日は使ってもらうよ、レクトの量術も」


「な、なんだよ、もったいぶらずに教えろよ!」


 私は拗ねるレクトを置き去りにして、仕事場であるハイツの302号室へと向かった。

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