「どっ、どうですか、ミツキさ……あれ? ミツキさんは?」
「今さっき帰ったよ。急に用事が入ったんだって。リオたちに謝っておいてって」
「そっか……じゃ、サリアさんでいいです。どうでしょう、この服似合いますか?」
私でいいです、って何だよ。まあ、それなりに似合っていたので、「いいんじゃない」と答えておいた。
レクトはまだ着替え中みたいなので、私も着替えようと2階へ向かった時だった。
ピンポーン
玄関のチャイムが鳴った。ミツキが忘れ物でもしたのだろうか。玄関の引き戸をガラガラと開けると、ガッシリとした体格の男が立っていた。
「あ……えーと、隣の家の鳥居ハルキです。は、はじめまして」
ハルキ……? ああ、ミツキの兄貴か。
「はじめまして、サリアです」
ん? どうした……? 初めてだから緊張しているのだろうか、ハルキは硬直したまま私を見つめている。
「――サリアさん、どちらさまですか?」
リオも来客は誰だろうと、私の背中から顔をのぞかせた。
「ミツキの兄貴だって。ハルキさん」
「ああ! はじめまして、リオといいます! ミツキさんにはお世話になっています!」
リオは深々と頭を下げた。2日目にして、もうすっかり日本人だ。
「ああ、君がリオくんか、はじめまして。――あ、それって俺が昔着てた……」
「そうなんです! さっきミツキさんが持ってきてくれて!」
「そうなのか。アイツ、そういうこと勝手にやっちゃうから知らなかった。でも、俺の服が役に立ってるようで何よりだ」
リオが現れた途端、不思議とシャンとした男になった。もしかして、男には偉そうにするタイプなのだろうか? まあ、女に偉そうにするよりはマシだけど。
「そうそう、もう一人男子がいるって聞いたけど、今いるかな?」
「――ん? 俺のこと?」
タイミングよく現れたレクトに、ハルキは「なにーっ!」と声を荒げた。
「そ……その服もミツキから渡されたのか……?」
「――この服? ああ、そうだけど。ハルキさんだよね? 俺はレクト、よろしくね」
「あ、ああ……よろしく……」
鳥居ハルキ。表情がコロコロとよく変わる忙しい男だ。
***
「ゴミ屋敷掃除の仕事? じゃ俺たちじゃなく、サリアが適任だ」
「そうですね。僕たちなんかより、ずっと役に立つと思います」
ハルキは『何でも屋』というものをやっているらしく、今日はゴミ屋敷の清掃が入っているそうだ。なんでも、予定していたバイトが急病で来れないらしく、レクトとリオに手伝ってくれないかと相談に来たらしい。
「い、いやいや、お前たち、ゴミ屋敷掃除の動画とか見たことあるか? 雑巾で床をキュッキュッとかの、お掃除レベルじゃないぞ。酷い場所だと腰のあたりまでゴミが積み上げられてんだから。正直、男手が無いと厳しいんだよ」
ムムム……これはもしかして、私たちが今一番欲しい『仕事』というものでは……
「――それって、お金は貰えるの?」
「もちろんだ、サリアちゃん。た、ただ、遠い親戚の依頼ってこともあって、2人で6万円しか出せないんだが……どうだろうか?」
ろ、6万円……!! 私たち3人は顔を合わせて、「よしっ!」と握りこぶしを作った。
「分かった。じゃあ、私とレクトで行こう。――ただし、一つだけ条件をつけさせてほしい」
「――条件? 条件ってなんだ?」
「仕事は1時間で終わらせる。その代わり、ハルキは離れた場所で待機していて欲しい」
ハルキは再び硬直してしまった。