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笑顔

「アンタたちさ……簡単に地球人の世話になるんじゃないよ。情が移ると心配だとか言ってたとこでしょ?」


 ミツキが服を取りに行っている間、私は2人に本音をぶつけた。


「いや、考えてみてくださいサリアさん。僕たち、地球の人から見ると凄く変な格好をしている可能性があります。でも、地球の人が選んだ服を着たら、それこそ自然に溶け込めると思うんです。いかがでしょうか」


 レクトは「良いこと言うじゃないか」と、リオの頭をなでた。


「こ、子ども扱いしないでください! ――でも確かに、情が移らないように気をつけないといけないのは、サリアさんの言う通りです」


「――そっか。俺はもう、自然に過ごすと決めたよ。地球は奪っちゃいけない星だと思ったら、そのまま統律院の本部に伝えるつもりだ」


「いやレクト、それは無理な話だ。私たちの任務は、この地球で正常に生活できるかどうかを調査するだけだ。私たちに何かを決める権限はない」


「サリアさんの言うとおりです、レクトくん……確かに僕も浮かれていたのかもしれません。――僕はもう、ミツキさんの前で笑顔は見せません」


 リオは唇を強く結び、そう言った。



***



「お待たせー、服持ってきたよ! えーと、こっちの袋がリオくん。兄が学生の頃に着ていた服だね。で、こっちがレクトくん。兄があまり着ていないのを勝手に持ってきちゃった。そして、これがサリアちゃん。私と背格好同じくらいだから、きっとフィットすると思うんだよね。私には似合わないのもあったけど、サリアちゃんならきっと似合うと思うんだ」


 ミツキは満面の笑みを浮かべてそう言った。ミツキのことは好きじゃないけど、この笑顔には胸がキュっと締め付けられる。


「あっ、ありがとうございます、ミツキさん! 僕、早速着替えてきます!」


 リオはミツキに負けないくらいの笑顔を浮かべて、ドタドタと2階の部屋へと消えていった。


 この嘘つき小僧が。


「っていうか、めっちゃ早かったじゃんミツキさん。まるで用意してたのかってくらいに」


「アハハ、そうなの。実はね、そんな気がしてたから昨日から用意しちゃってたんだ。友達にはね、おせっかいすぎるとか干渉しすぎるとか、よく怒られちゃうんだけど」


 そう言ってミツキは、「えへへ」と頭を掻いた。


「そっか……そうなんだ、ありがとう。俺も着替えてくるよ」


 レクトはそう言って、奥の部屋へ入って襖を閉めた。少し涙ぐんで見えたのは、気のせいだろうか。


 というか、ミツキと二人きりになってしまった。猛烈に気まずい。


「サリアちゃんたちって、皆んな20歳なんだよね。――あ、ごめんね、入居申請書に年齢の欄もあるから見てしまって。でね、私も同じ20歳なの。若い人があまりいない町なのに、一気に3人も同年代の人が増えちゃって。実はすっごい嬉しいの、私」


 まただ。また、さっきの笑顔でミツキは言った。


「そうなんだ。色々と教えてよ、服とか……その、化粧とか」


 私は地球に来て、初めて知った化粧に興味を持っていた。


「もちろん!」と、ミツキは私の手を握って言った。

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