目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第13話 知りたくない噂と知りたい真実

 放課後の廊下には、生徒たちの話し声と足音が賑やかに響いていた。部活へ向かう者、帰り支度を済ませた者、友達とおしゃべりをしながら歩く者。どこにでもある日常の放課後の光景が広がっている。


私と葵は先輩たちと一緒に教室を出て、他愛もない話をしながら廊下を歩いていた。


すると、近くを歩くクラスメイトたちの会話がふと耳に入ってきた。


「いやー、マジで驚いたわ」


「なにが?」


「さっき校門の前に香坂真凛と篠宮神楽がいたの、見た?」


「見た見た! あれ、マジで本物だったんだな……びびったわ」


「なあ、それよりさ、その時一緒にいた相沢の話、聞いた?」


「相沢ってめっちゃ陰キャのやつだろ?相沢がなんかあったの?」


「お前見てなかったのかよ。相沢、あの二人とめっちゃ仲良さそうに話してたんだぜ?」


「……マジか?」


「うん、で、そのまま三人で喫茶店行くとか言ってたし」


「ええっ!? なんで? なんで相沢があんな二人と?」


「さあな……でも、どう見ても他人行儀な感じじゃなかったし、普通に親しい間柄っぽかったぜ」


「すごすぎるだろ……俺らのクラスにそんなヤツいたんか?」


「いや、マジで謎すぎる、ドリームマッチ過ぎんだろ」


私はその場に立ち尽くした。心臓が大きく跳ねる。


「……今の話、聞いた?」


葵が驚いたような声を出した。


「啓が……香坂真凛と篠宮神楽と一緒に?」


私は一瞬、自分の耳を疑った。


葵も同じことを考えたのか、私と視線を交わし、少し眉をひそめる。


香坂真凛と篠宮神楽。今や誰もが知る芸能界のスター。


一人は清楚系の美人女優で、一人は小悪魔的な魅力を持つ人気歌手。そんな二人が啓と一緒にいる?


「……まさか、ね」


葵が呆れたように言う。


「信じられないけど……でも、もし本当なら」


私は動揺を隠せないまま、口の中が乾いていくのを感じた。


啓は学校でもほとんど一人で、親しい間の友人付き合いすら見た事がない。


そんな彼が、どうして今芸能人と一緒に?


理由が分からなかった。だけど、分からないからこそ、知りたいと思った。


「確かめに……い、行ってみる?」


私は動揺する気持ちを抑え言った。


「いいけど……ま、まあ、確かめるのはタダだしね」


葵は苦笑しながら頷いた。


「じゃあ俺たちも付いて行こうかな」


急に伍代先輩が間に入るように言った。


「え?」


「いや、普通に興味あるじゃん? 啓の話って珍しいし」


鷹松先輩も面白がるようにそう言うと、「だな」と伍代先輩もそれに頷いて見せた。


私は何か違和感を覚えた。


先輩たちが啓のことを知っているような口ぶり。


二人は啓とは話したこともないと思っていたけど、どこかで知り合っていたのだろうか?


ちらりと隣を見ると、どうやら葵も同じように考えているのか、不思議そうな顔をして二人を見ている。


――何か、変だ。


でも今は、それを追及している暇はない。


私は小さな違和感を抱えながらも、その場では深く考えなかった。


今はただ、啓がどんな顔をしているのか、それだけが気になっていたからだ。


「でも三人が向かった喫茶店ってどこなのか二人は知ってるの?」


背後から伍代先輩が呼び止めるように声をかけてきた。


「啓が昔からよく行ってた店なら、一か所だけ心当たりがあるでしょ、雅」


葵の言葉に私は頷いた。


中学の頃から疎遠になって行った啓が、よく一人で入り浸っていた喫茶店。


私と葵が何度か彼の家を訪ねた時、啓のお母さんに居場所を聞いた時教えてもらった場所。


「……うん、行こう」


私たちは改めて、事実を確かめるため喫茶店に向かうことを決めた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?