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大切な人達を全て奪われたけど、夢が叶ったので過去は振り返らず前に進もうと思います
大切な人達を全て奪われたけど、夢が叶ったので過去は振り返らず前に進もうと思います
アイスノ人
恋愛現代恋愛
2025年02月17日
公開日
15.2万字
連載中
 遠い過去の記憶、幼馴染達と交わした約束。
――賞を取ったら僕のお嫁さんになってください。

数年後、相沢 啓こと僕は、高校二年生となり、あの日の約束を果たそうと、放課後、静まり返る教室で幼馴染の雅を呼び止めた。

だが、想いを打ち明けようとしたとき、彼女から帰ってきた言葉は、余りにも衝撃で残酷な言葉だった。

「――先輩よ。彼と付き合うことにしたの」

「先輩のこと、好きなの……?」

最後の望みをかけて尋ねた。
雅は少しだけ間を置いて、静かに答える。

「……貴方よりは、ね」

これは、大好きな人のために小説家になろうとした、少年の恋と、成長の物語。

第1話 すべてを失った日

 沈みかける夕日が窓ガラスに反射し、教室を赤く染める。

空気は冷たいのに、僕の手のひらは汗ばんでいた。


みやび!」


覚悟を決めて、僕は彼女の名前を呼んだ。

鞄を肩にかけ、教室を出ようとしていた雅が、足を止めてゆっくりと振り返る。


「……何?」


その声音はどこまでも冷たく、まるで興味がないと言わんばかりだった。


彼女は真っ白なロングコートを羽織り、濡羽色の長い髪をかき上げながら、切れ長の目で僕を見据える。

それだけで、まるで息が詰まるような感覚を覚えた。


「大事な話があるんだ!」


震える声で絞り出す。

雅の眉がわずかに動いた。

興味を引いたのか、それともただ苛立たせたのかは分からない。


「大事? はじめが私に?」


淡々とした口調。

それでも僕は頷く。


「じゃあ、さっさとしてくれる? あまり時間がないの。彼に返事を返さなきゃいけないから」


「……え?」


彼?

誰のことだ?


雅に彼氏なんかいたことはない。

少なくとも、僕はそんな話を聞いたことがない。


「か、彼って……誰のこと?」


胸の奥がざわつく。

雅は深く息を吐き、ほんの一瞬だけ表情を曇らせた。

しかし、すぐに冷たく微笑む。


「三年の伍代ごだい先輩よ。彼と付き合うことにしたの」


伍代ごだい  雄二ゆうじ――女子の間でイケメンと噂され人気のある人だ。頭が良くスポーツもできる、まさに絵に描いたような人。


「付き、合う……?」


言葉が、うまく理解できなかった。

頭が真っ白になっていく。


「彼ね、入学した頃から私に告白してくれてたの。ずっと断ってたんだけど、今回、また彼が言ってくれたの」


雅はわずかに目を伏せる。


「私を物語の主人公にしてくれるって」


瞬間、頭が真っ白になった。


「……それって……」


「そう、昔、啓が約束してくれたよね? まさか他にも同じことを言ってくれる人が現れるなんて思わなかった」


「じゃあ、覚えててくれたんだね……! 僕は、その約束を果たすために……!」


「果たす?」


雅の目が鋭くなる。


「本当にそう思ってるの?」


「そ、そうだよ! だから、少しだけ待ってほしいんだ!」


「少し? 少しっていつ? 一年? 二年? 三年?」


雅の声が強くなる。


「何年待ったと思ってるの?」


胸が強く締めつけられた。


「私、ずっと待ってたんだよ……! でも、啓はいつもバツの悪そうな顔をして、コソコソ逃げてばっかりで、何もしないまま結果も出せてない……約束なんてこれっぽちも守ってくれなかったじゃない!」


「ち、違う……! 僕は……!」


「結局、言葉だけだったんだね。私はね、待ってるだけの存在じゃないの」


静かに告げられた言葉が、僕の心臓を深く抉る。


「彼、伍代先輩はね、本当に私を物語の主人公にしてくれたの。彼が書いた小説が、新人賞を取ったの」


「……え?」


「すごいよね。私のためにそこまでしてくれるなんて。チャラいって噂もあるけど、そんな人じゃないって分かったの」


雅は柔らかく微笑む。

僕が、どれほど欲しかったか分からない、そんな優しい微笑みで。


「伍代先輩のこと、好きなの?」


最後の望みをかけて尋ねた。

雅は少しだけ間を置いて――静かに答える。


「……貴方よりは、ね」


その瞬間、僕の中で何かが崩れた。

雅はそれ以上、何も言わず、振り返ることなく教室を出ていった。


残された僕は、床に膝をつき、決壊したダムのように涙をこぼしながら、肩を震わせその場に崩れ落ちるように蹲うずくまった


雅の言葉が何度も頭の中でリフレインする。


――貴方よりは……ね。


それが雅の答えだった。


伍代先輩のことを、本当に好きかどうかは分からない。

でも、僕よりは――いや、僕なんかよりは、ずっと好きなんだ。


「……なんだよ、それ」


嗚咽が止まらない。


小説を書いて、賞を取れば、雅との約束が果たせると思っていた。

そう信じていたのに、気づけば雅は別の誰かの“ヒロイン”になっていた。


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