目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

初デートと初長編 ②

 ――昼食の後、純也さんは愛美をほんばしへ連れて来てくれた。


「愛美ちゃん、ここが日本橋。日本の出発地点だよ」


「学校の地理の授業で習ったよ。東海道とか中山道なかせんどうのスタート地点なんだよね。――で、これがあの有名な翼のあるりん像か……」


 愛美は橋の中ほどにある彫像を見上げた。

 麒麟とは動物園やアフリカ・サバンナにいる首の長い動物のキリンではなく、中国で四聖獣――げんざくせいりゅうびゃっとともに聖獣とあがめられている空想上の生き物で、ビールのパッケージなどのデザインにもなっている。

 本来の麒麟には翼がないのだけれど、この麒麟像に翼があるのは「ここから自由に羽ばたいていってほしい」という作者の想いが込められているのだそう。


「そういえば、この麒麟像が登場するひがしけいさんのミステリー小説があったよね。わたしもあのシリーズが好きでよく読んでるよ」


「ああ、あの刑事が主人公のシリーズだろ? 俺も好きだな。あれ、何作もドラマとか映画化もされてるよ。多分ネットで配信もされてるから、観てみるといい。特に『麒麟の翼』と『祈りの幕が下りる時』は泣けるよ」


 純也さんはやっぱり読書が好きらしく、自分の好きな作品の話をする時の表情はイキイキしている。彼と好きな本が共通していることが愛美は嬉しかった。


 ここでも純也さんがモデルのイメージショットを数枚撮り、付近の町並みをブラブラ歩いてから、二人は車に戻った。


「――さて、愛美ちゃん。次はいよいよお楽しみの場所、日比谷ひびやの帝国ホテルへ向かいます」


「えっ、ホテル? そこがお楽しみの場所なの?」


 愛美は予想外の行き先に目を丸くした。

 帝国ホテルは愛美も名前くらいは知っている、言わずと知れた格式高い高級ホテルだ。今日は日帰りの予定なので泊まるわけだはないようだけれど、そこで一体何をするつもりなんだろう?


「うん。愛美ちゃん、〝ヌン活〟って知らないかな?」


 まだ車はスタートさせていなかったので、純也さんはスマホで何かを検索して画面に表示させ、愛美に向けた。


「あ、聞いたことある。もしかして……アフタヌーンティー?」


「大正解♪ 帝国ホテルのアフタヌーンティーは、宿泊客じゃなくても利用できるってことで有名でね。ぜひとも愛美ちゃんを連れて行きたくて、今朝予約したんだ」


「ああ、今朝のあれは電話じゃなくてネット予約……。だから昼食も軽めに、って」


「そういうこと。じゃあ行こう」


「うん!」


 初めてのデートで、そんなオシャレで高級感溢れるところへ連れて行ってもらえるなんて……! 愛美の胸は喜びとワクワクでいっぱいになった。



   * * * *



 純也さんが予約してくれていたアフタヌーンティーは、一階のレストランのものだった。

 館内は高級感が漂いながらも上品で、落ち着いた感じがする。辺唐院家のキラキラ・ケバケバした感じとはかけ離れていて、愛美はこちらの方が寛げそうだと思った。


「――すみません、アフタヌーンティーを二名で予約している辺唐院ですが」


「はい。ただいまお席へ案内致します。上着とお荷物、お預かり致しますね」


「あ、はい」


 愛美と純也さんはスマホと財布のみを持って、レストランのスタッフの女性に案内されたテーブル席に着いた。


「――愛美ちゃん、スコーンって食べたことあるかい?」


「そういえば……ないかも。スコーンってどんなのだっけ?」


 横浜にはパン屋さんがたくさんあるので、パン屋さんの店先に売られているのをみかけたことはあるかもしれない。でも、実際に買って食べたことはなかった。


「えーっと、イギリス発祥で、パンとクッキーの中間みたいな感じでね。アフタヌーンティーには欠かせないお菓子なんだ。イチゴとかブルーベリーのジャムをつけて食べると美味しいんだよ。パン屋にはチョコチップを練り込んで焼かれたものも売られてるね」


「へぇー……、美味しそう」


 今日食べてみてハマったら、今度パン屋さんでも買って食べてみようと愛美は思った。


「――お待たせ致しました。アフタヌーンティーセット、二人前でございます。ゆっくりお楽しみ下さいませ」


 やがて、二人の前に三段重ねのシルバートレーのティーセットが運ばれてきた。そのトレーには一段目に美味しそうなサンドイッチ、二段目にスコーン、いちばん上の段に小ぶりなケーキなどのスイーツが盛り付けられている。

 そして、ティーポットからは紅茶のいい薫りがしてくる。まさに映画や小説などで見る、貴族のティータイムの光景。


(わぁ……、こんなにステキな光景が現実にあるなんて!)


 〝あしながおじさん〟に出会っていなければ、愛美はきっとこの場に来ることもなかっただろう。でも、セレブの御曹司である純也さんに――〝あしながおじさん〟に出会えたから、ここに来ることができた。


(……でも、この人はまだ知らないんだろうなぁ。わたしが今そう思ってること)


「美味しそうだね、愛美ちゃん。じゃ、頂こうか」


「うん。いただきま~す」


 スタッフの男性に紅茶を給仕してもらい、愛美は純也さんにマナーを教わりながら、まずは下段のサンドイッチから食べ始めた。

 一度紅茶を味わい、そして生まれて初めて味わうスコーンに手を伸ばす。イチゴジャムをたっぷりつけてかぶりついた。


「……美味しい! 甘さ控えめでやさしい味がする」


「だろ? これは絶対、愛美ちゃんに食べさせたかったんだ。気に入ってもらえてよかった」


 スコーンは確かに美味しかったけれど、美味しく食べている自分を優しく見守る純也さんの笑顔もまた、愛美にとっては贅沢ぜいたくなごちそうだった。


「……そういえば愛美ちゃん、ここでは写真撮らなくてよかったの?」


「あ、忘れてた!」


 純也さんに言われて気がついた。今日は行く先々で、取材として写真を撮っていたのに。ティータイムを楽しむのに夢中になって、すっかり頭の中からスッポリ抜け落ちていたのだ。


「でもいいの。このアフタヌーンティーは予定外の時間だったし、自分へのごほうびタイムだと思って取材は抜きってことにするから」


 もし、ここも「取材だ」と割り切っていたら、こんなに楽しめなかっただろうから。愛美もここは純粋に「デートだ」と思って、心から楽しむことにしたことにする。

 ……ただ、SNSにアップするためになら写真を撮っておいてもよかったかな、と思ったり。


「っていうか、純也さんってここでも目立ってるね。イケメンだし背が高いから」


「……ん? そうかな?」


 彼は気にしていないようだけれど、二人のテーブルの周りにいる女性客たちがみんなザワついているのだ。モデル並みの容姿を持つこのイケメンは一体何者かしら、と。


(そして、そのイケメンとふたりでお茶してるわたしは、彼の何だと思われてるんだろう……)


 少なくとも恋人だとは思われていないだろう。親戚とか、そんなふうにしか見えないかもしれない。


「でも俺は、君以外は眼中にないから。愛美ちゃんも周りからどう見られてるかなんて気にしなくていい。君が俺の恋人であることに間違いはないんだからね」


「あ……、うん。そうだよね」


 周りからどう見えるかが気になるのは、愛美自身が「純也さんとわたしは釣り合っていないんじゃないか」と気にしているからだ。


(愛美、純也さんの言う通りだよ。そんなの気にしちゃダメ! 彼が本気で好きになってくれたのはあなただけなんだから、もっと自信持たないと!)


「こんなに非日常が味わえる時間、周りの目なんか気にしてたら楽しめないよね。よし、ここにいるのはわたしと純也さんと、給仕の人だけ。他の人たちの存在は忘れちゃおう!」


「はははっ! 愛美ちゃん、それはいくら何でもオーバーじゃないか?」


「そうかなぁ?」


 純也さんは笑うけれど、そのおかげで場の空気が和み、愛美はこの非日常の空間での時間を心から楽しむことができた。



   * * * *



 ラグジュアリーな空間でのんびりお茶を楽しみ、愛美と純也さんはお腹も心も満たされた。

 二人はクロークでコートとバッグを受け取り、レストランを出た。


「な? 昼食軽めにしてよかったろ?」


「うん、ホントにね」


 支払いは純也さんが二人分もってくれた。

 ここのアフタヌーンティーの料金はかなり高額で、一人分でも六千円以上かかる。さすがにこの金額は、高校生がお小遣いで支払える額の範囲を超えている。


(純也さん、どっちで支払ったんだろう? ブラックカード? それとも現金で?)


「――お待たせ! 支払い済んだから出よう」


 首を傾げている愛美のところへ、ホテルのフロントから純也さんが戻ってきた。


「はーい。――ね、純也さん。支払いは現金とカード、どっちで?」


「ここはカードで。ブラックカードってね、ホントはあちこちでひけらかすようなものじゃないんだけどさ。ホテルのフロントではカード払いの方が楽っちゃ楽なんだよな」


「…………ほぇー」


 愛美はそう言われてもピンと来なくて、間の抜けた声を出すしかなかった。



   * * * *



 帝国ホテルを出ると、日が傾き始めていた。


 二人は車で、今日の最終目的地である東京スカイツリーへ行った。

 ここは全長六百三十四メートルという、世界一の高さを誇る電波塔である。

 タワーの下には〈東京ソラマチ〉という複合施設があって、そこにはショッピングモールや水族館も入っている。


「――わぁ……、キレイな夕日……」


 ここの入場チケットも純也さんが買ってくれて、二人はエレベーターで天望デッキへ上がった。

 ガラス張りの窓の外には東京の街並みが広がっていて、西の空にはちょうど日が沈みかけている。


「ちょうどいい時間に来られたな。もう少し暗くなってからだと、ここから見える東京の夜景がキレイなんだけど……。さすがにそんな遅い時間までは高校生を連れ歩けないから」


「う~ん、キレイな夜景を見られないのは残念だけど。この夕焼けが見られただけでも、今日は来た価値はあるかな。純也さん、連れてきてくれてありがとう」


 愛美は彼にお礼を言い、スマホで夕日の写真を撮った。


「俺のイメージショットは要らないの?」


「うん。ここは小説に登場させるかどうかまだ決めてないから。あの夕日だけでも記念に撮っておきたくて」


「……そっか」


「でも、今日一日あちこち見て回ったおかげで、ある程度は小説のイメージが固まったよ。これでやっと書き始められそう」


「そっか。役に立てたみたいでよかった」


 とりあえず、取材はこれで終了。あとは純粋にデートを楽しむだけだ。


「――ねえ、純也さん。わたしがどうして純也さんのことを好きになったか分かる?」


 手すりにもたれかかりながら、愛美は隣りに立つ彼に訊ねる。この恋が始まったキッカケを、彼に打ち明けたことは今までなかった。


「……いや、分からないな。教えてくれるかい?」


「純也さん、初めて学校を案内した時に、わたしの名前を褒めてくれたでしょ? あと、会ったこともないわたしの両親のことも。だからわたし、純也さんのこと好きになったんだよ」


 愛美自身も、あの頃はまだ亡くなった両親から愛されていたかどうか自信がなかったので、純也さんに言われた言葉で救われたのだ。今は自分が確かに両親から愛されていたんだと思えるし、両親の愛に報いるような生き方をしようとも思える。


「あれがキッカケで……? 俺はごく普通のことしか言ってなかったつもりだったんだけどな」


「ううん。わたし、あの時までは誰かからそんなふうに言われたこと、あんまりなかったから嬉しかったの。だからだと思う。純也さんのこと、すごく好きになったのは。……だから、ありがとう」


「そう……だったのか」


「うん。そうだったんだよ」


 そして彼は、色々な場面で愛美のことを気にかけてくれている。インフルエンザで入院生活を余儀なくされた時には、お見舞いにキレイなフラワーボックスを送ってくれた。心のこもった手書きのメッセージカードを添えて。あんなに失礼極まりない手紙を書き送ったにも関わらず。

 それはあくまで〝あしながおじさん〟としてしてくれたことで、愛美もその頃はまだ彼がしてくれたんだとは知らなかったけれど。


 でも、愛美はまだ純也さんに「あなたが〝あしながおじさん〟でしょう」と追及するつもりはない。なぜなら、愛美のことをあざむき続けていることにいちばん良心のしゃくをおぼえているのは誰でもない彼自身だと分かっているから、彼の方から本当のことを打ち明けてくれるまで待っていることに決めたのだ。


(気づかないフリをするのもまた、一つの勇気なんだよね……)


「――俺が愛美ちゃんを好きになった理由は、前にも話したよな。君は俺のことを家柄とかステータスでじゃなくて、一人の人間として、一人の男としてちゃんと見てくれてるから。それまで出会ってきたどんな女性とも違うと思った。それで珠莉と同い年の、十三歳も歳下の女の子だと頭では分かってても好きだっていう気持ちは止められなかったんだ」


「うん」


 だから彼は、ヌン活の時にあんなことを言ったのか。あれはきっと、愛美に言っているようで自分自身にも言い聞かせていたんだろう。


「純也さん、わたしとの年の差のことは気にしなくていいよ。わたし、四月で十八歳になるの。つまり、法律上は成人ってことだから、付き合ってても何の問題もなくなるんだよ」


「ああ……、そっか。う~ん、でも法律上は問題なくなっても、珠莉がどう思ってるかな……」


「珠莉ちゃんのことなら気にしないで。今はわたしと純也さんの仲を応援してくれてるから。好きな人できたから、純也さんのこと気にしてないと思うし」


「えっ、アイツに好きな男ができた!? どんなヤツか、愛美ちゃんは知ってるのか?」


 愛美の思いがけない発言に、純也さんは「初耳だ」とばかりに目を丸くした。


「知ってるよ。そして多分、純也さんも知ってる人」


「俺も知ってる……っていうと、もしかして、さやかちゃんのお兄さんとか? まさかなー」


「うん、そのまさか」


「ウソっ!? マぁジでー!?」


 純也さんのリアクションは、今どきの若者らしいものだった。けれど、三十歳にしては若すぎる気がしなくもない。


「まだお付き合いはしてないみたいだけど、連絡先は交換してやり取りはしてるみたいだよ」


「まだ付き合ってはいないのか。でも、珠莉にもそういう相手ができたんだな。ちょっと安心した」


「純也さん、叔父さんの顔になってる」


 久しぶりに彼のそういう表情を見て、愛美は笑った。


 ――話しているうちに、外の夕焼けが濃くなっていた。ラベンダー色に染まった二人は何だかロマンチックだ。

 その雰囲気に後押しされるように、二人は自然と唇を重ねていた。キスをしたのは夏以来だと思う。


「愛美ちゃん、今日は楽しかった?」


「うん、すごく楽しかったよ」


「よかった。じゃあ、そろそろ帰ろうか。――また二人でどこかに出かけようね」


「うん!」


 ――二人は手を繋ぎ、エレベーターに乗ってスカイツリーの外へ。愛美ももう、周りの目なんか気にしなかった。


「……あ、そういや今日はソラマチまで回れなかったな。次の機会にしようか」


「そうだね。わたしが東京にいる間にまた来よう」


 愛美の冬休みはまだ始まったばかり。あと十日以上もあるのだから、また来る機会はあるだろう。



   * * * *



 ――その日の夕食も、愛美は純也さんと珠莉と三人だけで、二階のセカンドダイニングで摂ることになった。


「ウチの他の連中は、食事のマナーとかにいちいちうるさいから。一緒のテーブルを囲むのは愛美ちゃんにとってストレスになると思うんだ」


 との純也さんの計らいで、毎食そうすることになったのだという。もちろん、愛美にも異存はなかったので、彼のその提案をありがたく受け入れることにした。


「――で、お二人とも。今日のデートはどうでしたの? 充分に楽しめまして?」


 この三人ならマナーを気にしなくていいので、食事中もお喋りが弾む。

 珠莉が親友と叔父のカップルに、初デートの感想を訊ねた。


「うん、楽しかったよ。純也さんに色んな面白いところに連れていってもらえて、写真もいっぱい撮ってきた。あと、初めてアフタヌーンティーも体験してきたの」


「あら、よかったわねえ」


「俺も、久しぶりに愛美ちゃんと一日ずっと一緒に過ごせて楽しかった。まだ連れて行けてないところがいくつもあるのが残念だけどな」


「わたしも、ソラマチは行きたかったなぁ。でも、これで小説の大体のイメージは掴めたから、いよいよ執筆に入れるよ」


「そう。頑張ってね。……私も頑張らなきゃ」


「……ん?」


「え? 珠莉ちゃん、『頑張らなきゃ』って何を?」


 珠莉が自分に言い聞かせるようにポツリと言った一言に、愛美も純也さんも首を傾げた。


「……純也叔父さま、私、この後お父さまとお母さまに自分の夢について打ち明けようと思いますの。お願いですからついてきて下さいません?」


「分かった。一緒に行ってやろう」


「ありがとうございます、叔父さま」


「そっか、いよいよだね。珠莉ちゃん、頑張って! わたしは一緒についていけないけど、応援してるからね!」


「ええ。ありがとう、愛美さん」


 珠莉は愛美にもお礼を言った。その決意を秘めた笑顔には、初めて会った頃のつっけんどんな彼女の面影はどこにも見当たらない。


(わたしが夢を叶えて、今度は珠莉ちゃんの番! ご両親の説得、純也さんと一緒に頑張ってほしいな……)


「……珠莉、変わったな。どうやら愛美ちゃんからいい影響を受けてるらしい」


「うん。もしホントにそうだったら、わたしも嬉しいな。――純也さん、珠莉ちゃんの援護射撃よろしくね」


「ああ、もちろん!」



   * * * *



 ――部屋に戻った愛美は、スマホで今日撮った写真をスクロールしてイメージを膨らませながら、初の長編小説のプロットを作り始めた。


「……よし、大まかなプロットはできた。あとは……、難しいのはこれをどれくらいのページに収めるかだなぁ」


 編集者の岡部さん曰く、長編を書くにあたっていちばん苦労するのはページ配分らしい。


「とりあえず、書き始めれば何とかなるかな。でも、その前に……おじさまに手紙書こう」


 手紙を受け取る相手が、今宛て先の住所にいないことは分かっている。だって、のだから。

 それでも、愛美はけじめとして手紙を出すことにしたのだ。



****


『拝啓、あしながおじさん。


昨日からの連投、失礼します。今日の純也さんとの初デートがあまりにも楽しかったので……。

 もちろん、ちゃんと取材もしてきましたよ。写真もいっぱい撮ってきました。

 まず最初に、彼はわたしを銀座に連れていってくれました。わたし、銀座って大人の楽しむ街だと思ってたんです。でも全然そんなことなくて、まだ高校生のわたしと、大人だけどまだ若い純也さんも充分楽しめました。

 銀座の街で最初に見たのは、有名な和光ビルの時計台。「この時計台は、有名な怪獣映画で壊されたことがあるんだよ」って純也さんが冗談半分で教えてくれました。もちろん、壊されたのは映画のセットなんですけど(笑) それくらい、わたしにだって分かります。

 そしてわたし、その怪獣映画観たことない……。

 それはともかく、わたしは純也さんを主人公のイメージモデルにして、色んなところで写真を撮りました。GINZA6、ブランドショップ街、オシャレなファッションビルにストリートピアノの前……。

 それでわたし、撮影しながら思ったの。やっぱり純也さんはこの街の景色が似合うなぁ、って。やっぱり彼はセレブなんだな、って。そしてやっぱり、この小説の主人公は純也さんで間違いないなって確信しました。

 その後は浅草に行って、浅草寺にお参りしました。仲見世通りもブラブラして、そこでもイメージショットを撮影しました。

 あと、合羽橋の道具屋筋も見て回って、早めにランチを摂りました。純也さんから「軽めにしよう」って言われたので、バーガーショップで彼はハンバーガーとポテトのセット、わたしはチーズバーガーとポテトのセットを食べました。

 純也さんは生まれながらのセレブだけど、ハンバーガーとかクレープみたいなジャンキーな食べ物も好きみたい。そういう気取りのないところがわたしは好きなんですけど。

 純也さんってば、食べてる最中に口の横にケチャップがついてるのに、わたしに拭いてほしかったからってわざと自分で拭かなかったの! まるで子供みたいに世話が焼けるんだから! でも、彼のそういうところ、なんか可愛いなって思っちゃいました(笑)

 ランチの後は日本橋に行って、翼のある麒麟像も見てきました。この麒麟像は、東野圭吾さんの『麒麟の翼』っていうミステリー小説にも登場します。これは日本橋署の刑事さんが主人公のシリーズの中の一作で、映画にもなってます。純也さんも好きみたいで、わたしは映画は観たことないけど原作は好きなので、映画版も観てみたいなって思いました。

 そしてその後、純也さんが「ランチは軽めにしよう」って言った理由が明らかになりました。なんと、わたしのために帝国ホテルのアフタヌーンティーを予約してくれてたの!

 優雅なホテルのレストランで味わうスイーツに、初めて食べたスコーン……。まさに非日常の時間がそこでは流れてました。だからわたし、そこでは写真を撮らなかったの。本当は忘れてただけなんですけど、これは純也さんからわたしへのごほうびなんだって思うことにしたんです。

 最後は東京スカイツリーの天望デッキに上がって、今日のデート兼取材は終わりました。

 わたしね、おじさまと純也さんにいくつも共通点があることに気づきました。

 純也さんもお金持ちだし、背が高いし、女性不信なんです。で、おじさまと同じNPO法人で支援活動をしてるでしょ? ここまで偶然って重なるものかな……。

 でも、多分本当に偶然なの。……って思うことにしました。

 最後に、今夜珠莉ちゃんが純也さんと一緒に、モデルを目指してることをご両親に打ち明けに行ってます。

 わたしも説得がうまく行くように、陰ながら応援してます。きっとうまく行くはず。だって、純也さんが援護射撃してくれてるはずだから!

 じゃあまた。おじさま、メリークリスマス! そしてよいお年を。

              かしこ


十二月二十五日      愛美    』


****

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?