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それを初恋というには、遅過ぎた
それを初恋というには、遅過ぎた
仲邑
BL現代BL
2025年02月16日
公開日
7,175字
完結済
主人公の西村朗(32歳)と暮野傑(41歳)

朗は報われない恋ばかりしていた同性愛者で、つい最近も三年付き合った彼氏に振られたばかりだった。生きていても仕方ない、そう思った矢先に恋に堕ちたのが今までの好みとは異なる暮野だった。
暮野は長年連れ添っていた妻を癌で亡くした中年だったが、互いを知れば知るほど惹かれ合う。
だが、ノーマルの暮野に想いを打ち明けることもできずに歯痒い日々を過ごしていた。

失恋から始まる同性愛の恋の難しさ(BL描写は少なめ、どちらかというと同性愛で悩んでいる主人公のお話です)

第1話 こんがらごったホース

 西村にしむら あきら32歳。この日俺は、三年付き合っていた年下のに振られた。


 恋愛に興味がないと思っていた幼少期。

 自分の恋愛対象が男性だと気付いたのは、大学生になってからだった。


 それまでなんとも思っていなかった何気ない肩へのボディタッチに興奮を覚え、気付けば映画同好会のカースト上位の男性先輩に恋に堕ちていた。


 だが、その先輩は男女問わず無類のタラシだったらしく、俺は振り回されて弄ばれて呆気なく捨てられてたのだが、それも今となってはいい思い出である(幸か不幸か、身体の関係は未遂のままだったが……)


 それからと言うものの、同性愛のハードルの高さを思い知らされ、それ以降は神様に振り回されるように生きてきた気がする。


 そして今回もだ……。


 やっと出逢えた理想の男の子。

 天使のような愛らしい顔にツンとつれない子猫のような気まぐれ。細くて小さな身体と類い稀見る美形っぷりに、俺はすっかり虜になっていた。


 彼に貢いだお金は計り知れなかった。

 生活費も家賃も全て自分が負担したし、彼が欲しいと言ったものは全部買い与えてあげた。

 お金だけではない。彼のワガママは叶えられる限り全て叶えてあげた。それほど彼を手放したくなかったのだ。


 なのに——彼はいとも簡単に自分の前から消えてしまった。


 ポッカリ穴が空いてしまった心に、俺は立ち直ることができなかった。


 神様、あなたはどこまで俺を試すおつもりなのですか?


「生きている理由が見つからない……。鬱だ、死のう」


 ——と、口には出しても、行動に移す勇気はない。

 どんなに落ち込んでいても、結局休むことなく会社へと出社する。落ち込んだ素振りも見せずに愛想よく振る舞ってしまう。


 あぁ、自分という人間がとことん嫌いだ。

 こんな俺を愛してくれる人間なんて、そりゃ現れないはずだ……。


 繋がらない大量のダストホース。

 よく広告ゲームなどでありそうな、そんな光景が目の前に浮かんでくる。


「もしお前がこのホースを全て繋げることができたら、運命の人間に出会えるかもしれないぞ……っと」


 そんな都合のいい夢を見た翌朝……。

 俺は何かの暗示かもしれないと、久々に外出をしてみた。


 ————……★


「初めまして、401号室に引っ越してきた暮野くれのと申します。よろしくお願い致します」


 エントランスに降りると、引越しをしていた中年男性から挨拶をされた。

 細身の長身。その容姿はくたびれた白髪混じりの冴えない中年男性に見えたが、優しそうな笑顔の奥に何とも言えない色気を見出した。


 マンガ的な表現で言えば、ハートを矢で射抜かれた……そんな瞬間だった。


(嘘だろう? 今まで俺が好きになったタイプとは全く真逆なのに?)


 それに同性愛者なんて滅多にいない、稀な存在なのだ。ノンケに惚れたところで報われないのは痛いほど痛感している。

 だからこそ、前の彼が運命のように思えたのだ……。

 彼のことを思い出しただけで胸が痛くなる。

 会いたい。でも、もう会えない。


「——あの、西村さん。あなたは独身ですか? もし独り身ならば色々と教えていただきたいのですが」

「……え?」


 段ボール片手に運び出していた彼に呼び止められ、俺は柄にもなく胸をときめかせながら振り向いた。


「実は私も独り身になってしまいましてね。若くで結婚した妻を癌で亡くしてしまって、この歳で独身生活に逆戻りです。何かと分からない事ばかりなので、色々と教えて頂けると助かるのですが」


 ——期待した俺が馬鹿だった。


 そうか、この人は普通の人なんだ。俺のような同性愛者ではなかった。


 とはいえ、呼び止められたことが嬉しかった俺は、スマホを取り出して連絡先を交換し合った。


「よろしければ、この辺りのお店などを紹介しますよ。買い物に便利なスーパーやコンビニ、その他にも美味しい居酒屋やバーなど」

「それは嬉しい。せっかくだから美味しいお酒を飲みたいですね。よろしければ一緒に飲みに行きませんか? 色々と教えていただくお礼に奢りますよ?」


 屈託のない笑顔に、またしても胸を締め付けられる。

 好きな対象の人間に優しくされることに慣れていなかった。いつだって尽くす側だった。

 なのに……こんな俺に暮野さんは優しくて、勘違いしそうになってしまう。


 この想いだけは悟られてはいけない。俺は誤魔化すように暮野さんと接するようになった。そして気付けば俺達は、親密な友人という関係を築くこととなった。


————……★


「恋はいつだって神様の気まぐれ。頼むから、今度はもう弄ばないでくれ」



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