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第8話 馬鹿の神隠し

 小屋を飛び出し、各々が大塚を探す中未だ有効な痕跡は見つからなかった。俺は商店街を探し、橋田は駅周辺を探し、シロネさんは大塚の行きつけの喫茶店にへと探しに行った。集合は5時ごろ、喫茶店に集合だそうだ。

 俺はと言うと長い長い商店街を隈なく探索したつもりだったが、全くと言って良いほど手掛かりが無かった。考えられるのは、面倒臭いから家に帰ったとか、そんな感じだろうな。もう帰っていいかな、俺。

 そんな事を考えているうちに電話がかかってきた。

 厨二病からだ。

「なんだ?」

「どうでしたか?そちらの手掛かりなどは?」

「コッチは特に無しだ。そっちはどうなんだ?」

「同じくです。駅周辺で三周ぐらいはしましたが、全然。」

 やはりそうか。まあ、そう簡単に人は見つからないか。毎年のように出る日本の失踪者は果たして何処に消えるのだろうか。

「なので私は大塚の家に直接行ってきます。なので、先にシロネと喫茶店で合流しておいてください。」

「ああ、わかった。検討を祈る。」

「センキュ!!」

 そう言い残し、橋田はガチャっと電話を切った。

 俺は事前に伝えられていた、集合場所である、喫茶店に向かう事になった。



【喫茶トリガー】

 扉をガラガラと鳴らしながら俺は目的地であった喫茶店へと着いた。なるほど、なかなかに趣のある店内だ。人も居すぎずに、居なさすぎずに、ちょうどいい。今度来るのもアリな場所であった。

 そして、俺は辺りをキョロキョロと見渡していると、白い手が見えた。よくみるとシロネさんが笑顔でコチラに手を振っていた。

「璃さん。こっちですよー。」


 俺は着席するや否やメロンソーダを頼んだ。ソフトクリームとさくらんぼが乗ってる定番のやつな。春だと言っても、半分夏みたいなものなので、暑いのが苦手な俺にとっては十分すぎるほどの猛暑日だ。そんな中成果はゼロ。やってられないわ。

 ふと、目を向けるとシロネさんはコチラを見つめていた。

「えっと、シロネさん。」

「えっ、ああ」

「メロンソーダ頼むんですけど......シロネさんも何か頼みますか?」

「あ、そうですね。頼みたい気持ちは山々なんですけど......」

 何やら深刻そうな顔でそう告げる。

「どうしました?」

 シロネさんは少し俯いたのちに、顔を少し赤くして、顔を手で隠す。

「......実は、頼みたいのですが、手持ちが無いんですよ。」

「ああ.....」

「普通に財布を見てみたら下ろし忘れてしまい、35円しかありませんでした。」

 なるほど、そういうことか。むしろ35円しか無い事に今気づいたのか。まあでも、確かに喫茶店で居座っていたら相当な金額になるだろう。何故ならこのメロンソーダは700円もするからだ。まあ、高い。高いが喫茶店などこんなものであろう。

「良かったら俺が出しますよ。暑いのでこういう冷たい物を食べた方がいいでしょう。」

「良いんですか?」

「はい。じゃあ、すみません。メロンソーダ二つで。」

「かしこまりました。」

 そして、注文して5分余り経った頃だろう。卓上には光り輝くメロンソーダが二つ運ばれてきた。

 シロネさんは歓喜し、メロンソーダーにありつく。

「んー!おいしぃ~」

 シロネさんはなんとも乙女らしいリアクションを繰り広げながらメロンソーダを飲む。

「あっ、いや。」

 ただ俺がジロジロ見ていたからか、シロネさんは顔を真っ赤にして、顔を手で覆う。

「恥ずかしいから、あんまり見ないでぇ」

「ああ、すみません。つい。」

 俺はつい見惚れていたので平謝りした。

「そ、それで大塚さんは見つかりましたか?」

「いーや、痕跡すらないですね。そもそも俺は出会って日が浅いから何処に行くのか、全く見当もつかないですから」

「やっぱり、そうですか。一応私もここで待ち伏せしていたんですが、姿を現すことはありませんでした。」

「なるほど」

「例えばなんですけど大塚はここ最近はどんな様子でした?」

「うーん、別に変わった事もなく。いつも通りだということだけ......」

「なるほど。そうですか......」

 こちらに出掛はない。そうなれば残っているのは自宅のみ。多分今となってはこの線が有力なのだが、一旦橋田を待たなければ動く事が出来ない。

 そんな時、小洒落た喫茶店には似つかわしく無い程の、けたたましい音でドアが開く。やはり、この予感。恐らくあの厨二病だろう。

 俺の予想は無事的中し、何故か上機嫌な厨二病が現れた。見つけたのか?

「待たせたな。皆の衆」

 元気よく俺たちのいる席へマントをひらひらさせながら迫っている。なんならジャラジャラ言っている。

「おう、おかえり。」

「おかえりなさいませ。」

 橋田は席に座り、ふーっと、息を抜く。

「それで、どうだったんだ?」

「ふっふぅふっ、そんなことよりも、今日は格別に暑いので、メロンソーダ頼んで良いですか?」

 俺の問いなど今は聞く暇もないらしい。明らかにメニューの方へ目が行っている。

「良いけど、なんでわざわざ聞く必要が?」

「今は生憎手持ち無沙汰なもんで。私もお金下ろすのを忘れていて、財布に1円すら入って無かったもので」

 悪びれもしない顔で橋田はメニューを見ている。

 嘘だろ。コイツも所持金ほぼゼロだなんて聞いてないぞ。ただ俺は既にシロネさんに奢る約束をしてしまっている。そうなれば、橋田だけ奢らないとなれば......。

「すみませーん。メロンソーダ追加で」

 俺は結局メロンソーダを三人分も出すことになってしまった。

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