チャイムが鳴った。ようやく今日の授業の終わりを告げる合図に俺は歓喜した。眠気の中、帰りのホームルームを済ませて、俺は約束通り橋田の席にへと向かった。
「ふっふっふっ。待ってましたよ。ふん、やはり来ましたか......」
橋田は俺を見るや否や座りながら手で目を押さえ、お得意の決めポーズを決めながら喋る。やめてくれ、こっちまで恥ずかしくなってしまうではないか。
「いや、まあ。席結構近いしな。」
俺がそう言うとそうか、と納得した様子の橋田。単純なやつだ。
「では、無駄話もほどほどにして、そろそろいきましょうか」
橋田は立ち上がり鞄を持つ。
「何処へ?」
「基地ですよ、基地。我の拠点としている場所です」
「さぞ、当たり前のように言うが、一体それはなんなんだ?」
「そんなの見て見れば分かりますよ。ほら!!ぼやっーとしてないで早く行きますよ。」
俺は橋田に手を引かれて俺は学校を出る。女の子に手を引かれて早々に学校を出る俺たちは周りから見ても異様な光景であっただろう。
「ちょっと、ぶつかる!ぶつかる!」
「大丈夫、勢いさえあれば闇の力で皆が道を譲ってくれるのですよ。」
「勘弁してくれよ」
橋田は楽しそうに俺の手を引き駆け回る。そして、人々を押し退けるような形で、俺たちは校門を出た。マントをし、チェーンや、眼帯をしている少女がまあまあのスピードで押し寄せてきたら、反射的に避けるのも納得だろう。俺たちが通る時だけ、半径2m以内の人が消え失せたのだ。ついでに、俺にまで変な奴のレッテルが貼られる事になるだろう。ただ、元から影響力が特別あったわけでも無いのでこの考えはただの杞憂で終わる事になるであろう。
そして、そのまま、道を早歩きで歩き、街へと出た。どうやら商店街を通るらしい。ちなみによりにもよってこの商店街は通称世界で一番長い商店街だそうだ。端から端までの距離はおおよそ3kmあり、抜けるのですら一苦労だ。恐らく、此処を抜けるとなるとかなりの時間を費やす事になるであろう。
そして、半分まで歩いた頃、橋田は某タピオカ屋の前に止まった。
その場で立ち尽くし目をパチパチさせながら、店を凝視して動かなくなった。
「どうした?」
「この魔力の詰まってそうな飲み物は何ですか!?すごくファンタスティックな感じがするんです。」
橋田はかなりのテンションでそう騒ぎ立てる。そう言えば先日オープンしてたのか。ブームはとうにすぎたというのに。
「お前、もしかしてタピオカ飲んだ事ないのか?」
「ええ、まあ。」
橋田はチラチラと俺とタピオカを観ながら喋っている。なんとも忙しいやつだ。
「飲みたいのか?」
「べべべべ、別に、我がそんな甘ったるい物を飲みたいわけが、なかろうに!!そう、断じて。」
「本当は、飲みたいんだろ。」
「ぷいぷいぷいぷい......」
「.......」
結局、俺はタピオカを二つ買う事になった。一つ当たり500円。まあ、妥当と言えば妥当であろう。
まあ、流行は過ぎてるが、折角だから記念にタピオカの写真ぐらいは撮っておこうか。
俺はスマホのカメラを起動して、タピオカの写真を撮ろうと構えた。
「写真を撮るのですか?」
「ああ、折角だしな。一応記念にへと。」
「そ、そうですか。えっとあの、わ、我と、しゃ、写真....とりましょ。」
橋田がその言葉を発した瞬間、俺は固まった。
俺は童貞すぎるので、てっきり聞き間違いかとも思った。
「え、写真ってタピオカのか?」
「いえ、」
そう言って橋田は俺の手を取り、持っていたスマホごと持ち上げる。そして、タピオカを持ちお互いに構える。
ツーショット。
ちょっとまて、俺は女の子と写真なんて修学旅行先の集合写真で撮られた事ぐらいしない。やばい、急に緊張してきた。いや、意識するな。常にクールであり続けるのがおれであろう。しかし、その事実は変わらず俺の心臓を針のようなモノで刺激する。
これはまるで......
そして、橋田はタイミングを見計らってシャッターを押した。
一応、半目で撮られてたら恐ろしいので撮った写真を確認する。そして、写真に映った俺の顔は無様にも慣れてない、不器用な表情をしていて、橋田は如何にも厨二病らしいポージングをとっていたが、頬はまるで林檎のように赤くなっていた。お互いぎこちない写真だった。
「.....時間も、あまり無いので飲みながら行きますよ」
「お、おう」
そして、自分のスマホを取り出して橋田はひそひそ声でこう言う。
「後で、LINE教えるので送ってくださいね。ちゃんと友達追加してくださいよ。」
「あ、ああ。わ、わかった。」
俺は柄にも無く顔を赤くして、タピオカと厨二病と共に商店街を歩いてゆく。そして、俺は初めて女の子とLINEを交換し、また初めて厨二病ともLINEを交換する事になった。