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おめざめかな?

ついに今日は初めての仕事をする日だ。

朝から気合十分、もう既にきっちり身を整えて転生管理局まで来ていた。

「よし……いくぞララ!」

「うん……!」

心臓が痛い。緊張のせいで自分の血の巡る音が聞こえてくる。

だがやらなければ前には進めない。逃げ出す訳にはいかない。

覚悟とともに俺は局長室の戸を叩いた。

「メリアさん、シエルです」

「入りなさい」

すぐに返事が帰ってきて、俺は扉を開いた。

「おはよう。昨日はよく眠れた?」

「おはようございます。……やっぱり緊張して何度か目覚めてしまいました」

「ふふ、それくらいがちょうどいいんじゃないかしらね」

「あたしも! きんちょーする……」

ララもそう言って胸の辺りを抑えている。

確かにいつもより顔色が白いし時折歯をかちかちと鳴らす様がその心境を物語っている。

「じゃあ準備しましょうか。あなたが目覚めたあの部屋、わかる?」

「あ、あの石造りの教会みたいな場所ですか」

「そうそれ。転生面談室っていうんだけど、そこに行って魔法陣の前の祭壇で待っていなさい。もう陣は敷いてあるから」

「は……はい」

「じゃ、頼むわよ」

メリアさんは俺の肩をぽんと押して見送った。

「頑張ります!」

「やるぞー!」

俺とララは気合いを入れて転生面談室へと向かった。



「あ、これか」

その部屋にはメリアさんの言った通り、俺の召喚された魔法陣と同じようなものが既に描かれていた。

「えーと、とりあえず待てばいいの?」

「そうみたいね」

そんなことを言っているうちに魔法陣が光を放ち始めた。

「あ、来たか……?」

眩いばかりにその光が強くなり、魔法陣の上はもう何も見えなくなっている。

次第にその光が弱まると、その中に人影が居ることに気づいた。

「……ん」

何者かが声を発する。

「んー……あれ……声が……出る……?」

ようやく光が無くなり一人の高校生が姿を現す。

情報通りというか、普通の男子高校生という他ないくらいに特徴のない格好をした子だ。

「おめざめかな……?」

ララが声をかける。

「な……誰だ!?」

「ふふ、そうあわてることはない」

「あ、あんたは一体……」

「おめでとう。きみはえらばれたんだ」

……なんでこいつこんな悪そうな喋り方すんだよ。

「選ばれたって、何にだよ! ……っていうか! 俺、死んだよな? だってトラックが!」

当然ながら男子高校生は錯乱したように周囲や自分の身体を見回しながら叫び出す。

「まちたまえ。しつもんはひとつずつ……」

「ここはどこだよ! なんでここにいる!?」

「だから……」

「俺は生きてるのか!? あれ?この魔法陣から先に動けない! なんだよこれ! どうなってんだ! おい! 説明しろよ!」

「うだああぁぁああぁあっ!!」

よくわからん冷静キャラを装っていたララは波のように押し寄せる質問に耐えきれず叫び声を上げる。

「せつめいするっていってんじゃん!あたしがせつめいするまえにおまえがそゆこというからわるいんじゃん!あわてないでっていってるんだからちょっとくらいはなしきいてよ!」

ララは我慢しきれずに言いたかったことを一気に吐き出してしまう。

「ララ……"おまえ"はやめような」

「あ……うん……」

怒涛の返しを受けた高校生は面食らったように黙ってしまっていたが、俺の姿を見つけて声をかけてくる。

「あ、あんたの方が話ができそうだ」

「なんで!!」

せっかく質問に答えようとしていたララだったが見た目から判断されたのかさっきの暴走で信頼を失ったのか、彼は俺に会話を持ちかけてくる。

それに激昂したララだったがそれさえ無視してその高校生は続ける。

「ここはどこだ?俺はなぜ生きてる?」

「……質問はひとつずつ。ララ様はそう言いましたよね」

ここは俺もララの行動を尊重してやるべきだ。

あえてララの従者を装ってこいつに揺さぶりを掛けてみる。

案の定俺の言葉を聞いて高校生は苦い顔を浮かべる。そしてそれを見たララは勝ち誇ったように目を輝かせた。

「そ……そーだそーだ!いったぞ!」

便乗するかのように高校生に指をさす。

「う……そうだった。わかった。じゃあまずは……俺はなぜ生きてる?」

彼は慎重に言葉を選ぶように質問をしてきた。

「なぜ……ですか。ララ様の言った通り、あなたが選ばれたからです」

「選ばれた……?俺にはそんなに特別なチカラが……?」

そう言って彼は自らの手を見つめる。

……まぁ今のところそんなものはないんですけどね。

「……そう。あなたには特別なチカラを得る……その権利があるのです。さ、ララ様」

お膳立てをしてやったところでララに出番を与える。

「あっ……んー!」

まごついてたところで俺に声をかけられたララは少し動揺した後に咳払いする。

「あー……そうだ。よろこびたまえ。きみはてんせいするけんりをえたのだ」

さっき完全に自我が出てたくせにまた変な口調に戻っている……。

「……な、なんでこの子どもはこんな偉そうなんすか?」

……それは、俺も知らん。

「と、とにかくですね。ララ様の意向であなたの命運は決まるのです。あまり子ども扱いなどしないように」

「は……はい」

注意を促すと彼は再び警戒するようにララを見つめる。

「さて、ではせつめいしていきましょうか」

「あ、お願い……します」

「ひとつ!あなたはてんせいしゃとなりたたかいにみをとうじるものとする!」

「うわっ……え?なに?」

ララがいきなりデカい声でルールを説明し始める。

……いきなりすぎてあんまり聞こえてなかったみたいだぞ。

「……あなたは今より転生してもとの世界と異なる世界で戦うことになるのです」

仕方ないので俺が要約して伝える。

「それはつまり……い、異世界転生!? まっじかぁ! ほんとにあるんだぁ……」

こっちはこっちで喜んでるような気もするな……。高校生くらいには憧れの対象になるものなのかもしれない。

「じゃあじゃあ! 俺勇者ってこと!?」

異世界転生のキーワードから色々と察したのか途端に飲み込みが早くなった。

「……ゆうしゃっていうのはね。えらばれたひとしかなれないの」

「え、でも俺選ばれたって……」

「えらばれたひとのなかでもえらばれたひとなの! だからぜんぶのひとがなれるわけじゃないんだよ!」

ララはまくし立てるように言う。

……さっきのこと気にしてるな。

「な、なんだよ。何怒ってんだよ……」

「おこってないし!」

「……んん!」

「はっ!」

俺が軽く咳払いをするとララは態度を改める。

「んーん。おこってないですよ?」

「そ、そうか」

この時点でかなり情緒が不安定だが果たして乗り切れるだろうか……。

「それで、俺はじゃあ何になれるんだ?」

「ルヴとかじゃないんですかね」

「ルヴ?……かっこいい響きだな」

……イヌなんですけどね。

「ララ様。そろそろお戯れもここまでです。よろしいですね?」

「は、はい……」

圧をかけてやるとララは深呼吸を始める。

「ふぅ……よし、はじめようか」

……ようやく気分を落ち着けたようだ。

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