「はい、じゃあまずはじめにこれを見て」
メリアさんがエトンに触れるとまた妙な音が鳴る。
それはメリアさんのエトンから発されるものではなかった。
「あ、俺のか」
エトンを発現させるとまた淡く光っている。
ページをめくってみると依頼の詳細が表示されている。
「こういうのもあるのか」
「便利でしょう」
ララと2人で一緒に見る。
「まずは今回の転生者の基本情報から。年齢が17歳の男の子ね。一般的な男子高校生だわ」
「テンプレとしては一番強くなる素養がありそうだな……」
「転生者はこのくらいの年齢の子が選ばれることが多いわ。魂の年齢は若いし、若くして死んでしまってはかわいそうだしね」
「その、選ばれるってことはやっぱりどんな人でも生き返らせる力があるんですか?」
少し気になったので質問を挟む。
「大天使様なら可能でしょうけど、使う魔力も多いはずよ。この仕事がそんなに頻度が多いわけではないのはそれも理由のひとつだわね」
「なるほど……」
生き返らせたい人がいたなら、それは魅力的な話だったのかもしれないな。
「話が逸れたわね。それでこの子には冒険者になってもらってガレフの探索に挑んでもらうの」
「ガレフ……って下界にあるダンジョンみたいなものですよね」
この間の本のどれかで読んだ。ジュダストロには大きな穴があって、その中には前人未到の迷宮が広がっているのだとか……。
「そう。流石ね、シエルくん」
メリアさんがウインクする。少し照れくさいな。
「あたしは?」
「お前はまだ何もしてない」
「ララもしっかり聞いてなさい。あなたが転生者を導くんだから」
「はぁい」
「それでね、冒険者にはいくつかの適正があるの。武力に長けているもの、魔法に長けているもの、探索に長けているもの、その他にも色々ね」
「適正……ですか」
「それを会話を通して見極めながらどんな冒険者にするのかを決めていきなさい。前にも言ったけれど、その人物の魂の限界を超えるものは無理だけど、若いほどその上限が高いの。それが若い子が選ばれる理由のひとつでもあるわね」
「きいてると結構面白そうですね」
「ふふ、そうね。楽しみながらやったらいいと思うわ。別に私はあまりいきすぎてなければ止めないから。あなたがバリバリーになってたとしても私は止めてなかったわよ」
「はは、冗談きついっすよ……」
メリアさんはそれを肯定もせずににこりと笑っている。
冗談……だよな?
「あたしはほんきだよ?」
「それじゃ困るんだよ……」
「まぁ次からはあなたがいるから大丈夫そうね。最初のお客様があなたで本当に良かった」
「そう言って貰えると嬉しいです」
期待を裏切らないようにしないとな……。
「あ、そうそう。本人は死んで間もないからほとんど状況を理解していないはずよ。そのことについてはしっかりフォローしてあげてね」
「はい……そういえば俺ってなんで死んだんですか」
「あ、それは……知りたい?」
何故かあっさり答える気もなさそうだ。
「なんかあるんですか?」
「いえね、あなたは自分で憶えていないんでしょう?それならその方が良いんじゃないかって」
「いやそりゃ……知りたいですよ。今だって俺死んだなんて思ってないですからね」
「……それは申し訳ないわ。じゃあ伝えておこうかしら」
緊張が走る。まぁ未練なんてなかったから別になんだっていいんだが……自分の死んだ理由くらいちゃんと知っておきたい。
「寝てる最中に殺されたのよ」
「こ……!?」
息が止まりそうになった。
どうせしょうもない理由だと思ってた。
寝てる最中に家具や服に埋もれて死んだとかごみにつまづいて死んだとか、そんな適当な理由だと。
俺は在宅で細々と働きながら暮らしていたから家からほとんど出ていないし、人から恨まれる筋合いはない。
それに両親はもう、いない。いたとして俺を殺すはずもない。
「だ、誰が!? いつ!?」
「それには答えられない。しかももう関係ない話でしょ」
冷静にそう言うが、俺はそう冷静ではいられない。
「そうだよ、復活したら! そうしたらまた殺されるかもしれない! だから関係ある!」
「それは……大丈夫よ。別の人間として生まれ変わらせてあげるから。地位も財産も保証してあげられるわ」
「ぐ……それならば確かに関係はないけど……」
「終わったことをいちいち気にしてはいけないわ。転生者たちももう死んでしまっているの。死因を憶えている人はそれに対して悩んでいるかもしれないけれど、それに対してしっかりケアしてあげるのもあなたの務めよ」
「わ、わかりました……」
なんかそれでいいのかな……。
「現世への復帰を望むならそうすることもできるわ。恋人や家族を残して死んでしまった転生者ならそういう人も多いでしょうね。でもあなたは……」
ちらりと俺の方を見る。
「……メリアさんは、俺のこと多分よくわかってますよね」
転生した時、メリアさんは俺の記憶を読み取っているはずだ。だから俺の家族のことや現状も知っていてその後の提案をしてくれている。
俺はこの人を信じるべきなのだろう。
「わかりました!俺も気にしないことにします!」
「納得してくれたみたいでよかったわ」
安堵したようにメリアさんが息を吐く。
「それで、その転生者の子の死因なんだけどね」
「あ、そうだ。それが重要だったんだ」
「その子はトラックに跳ねられたの」
超絶テンプレ────
「あ、あの……」
「どうかした?」
「多分その子にはすごい才能が……」
「あら、ただの男子高校生よ?どうしてそう思うの?」
「なんというか、そういう展開が多いんですよ」
「憶測で決めつけてはいけないわ。まずはその子に会ってみなくちゃ」
「は、はい……」
まぁそれは確かに……よくある展開すぎるもんな。
「ララ、いけそうか?」
「う……ん」
話は聞いていたようだが難しそうな顔をしている。
「とりあえずはシエルくんと一緒にやったらどうかしら」
「うん!そうする!」
「まったくこいつは……」
「まぁ明日が頑張りどころね!応援してるわ」
メリアさんはグッと拳を握る。
「ありがとうございます!」
「それじゃあ今日はこのくらいにして。明日に備えなさい」
「はい!」
今日はひとまずは解散となった。
「ララ……いよいよだな」
その日の夜、寝る前にララと話をする。
「こわいの?」
くすくす笑いながらララが茶化す。
「いや怖かねぇよ!……でもやっぱ最初の仕事だし緊張するっていうか」
「……だいじょうぶだよ」
そう言ってララは俺の手を握る。
「ララ……」
「あたしも寝坊したし」
そう言ってにへらと笑う。
「そういやそうだったな……はは」
なんか気負ってるのも馬鹿らしくなってきた!
「よぉし! 明日だ! 寝坊は勘弁だがもう緊張なんてしてやらねぇぜ!」
「おっし!」
ポーズを決めるララとともに気合いを入れる。
「よろしくな、ララ」
「おにいちゃんもね!」
互いに拳を合わせて誓い合う。
「んじゃ寝坊もやだし寝ますか!」
「おやすみね!」
俺とララは明日に備えて目を閉じる。
うまくいけばいいが……。