家を出てすぐのところでなにやら着メロみたいな音質で軽快なメロディが流れ出す。
「ん? なに?」
「エトンだよ! だして」
ララに促されるままにエトンを出す。
現れたエトンは淡い光を放ちながらそのメロディを奏でていた。
「でて!」
「で、でる?」
よくわかんないけどとりあえずエトンを開く。
空白だったページに文字が浮かび上がってきた。
"メリエ・アイデンシュテル"
「な、なんでここに先生が!?」
「はやく!」
どうすればいいかわからなかったがとりあえずその名前に手をかざしてみる。
「あ、シエルくん?おはよう」
「メリアさん!?おはようございます!」
エトンから聞こえてきたのはメリアさんの声だった。驚きついでに反射的に挨拶を返す。
「エトンについて詳しく話してなかったわね。これはね、こうして遠距離の相手と交信できるのよ」
「そんな電話みたいな……」
「デンワ?」
「あぁ、ご存知ないですよね」
「そういえばシエルくんの世界にはそんなものがあったわね」
知ってたみたいだ。
「この世界には色々な世界の人が来るから色々な情報や文化が集まるのよ」
「だから知ってるようなものが多いのか……」
納得したが、名前くらいは統一して欲しい。
「それで、何か要件があるんですか?」
「そうそう。依頼が決まったのよ」
「えっ!」
突然の告知に心臓が跳ねる。
「き、聞いたかララ!」
「んぇ?」
こいつは雑草を弄んでて聞いてない。上司との連絡の最中だぞ。
「仕事だ!」
「あー!」
ララはいきなり両手をばんざいの形に上げて吠える。……どういう感情?
「えっと、じゃあどうすれば?」
「転生管理局に来なさい。待ってるわ」
メリアさんが言い終わるとエトンから光が消えた。通話は終わったようだ。
「意外とはやかったな……」
「そ、そうだね」
2人して胸のあたりを抑えつつ深呼吸する。
「……よし! やるぞ!」
「うおーぅ!」
気合いを入れ直して事務局へと駆ける。
「メリアさん!依頼についてですが!」
署長室にノックをしながら呼びかける。
「あら、はやかったわね。入りなさい」
許可を得てから扉を開け中に入る。
「さて、それじゃあ依頼の話をしましょうか。そこにおかけなさいな」
設置された談話スペースのような場所を示される。
「失礼します」
「そんなに固くならないでいいわよ。ほら、もっと肩の力を抜いて」
メリアさんは俺の肩をぱんぱんとはたく。
「はは……そうさせてもらいます」
実際はそんなに早く慣れることもない。もう少しはこの人について知らなければ失礼なことを言えそうな気もしない。
「ま、いいわ。とりあえず座って」
ララと俺はソファにかける。それを見届けてから向かいのソファにメリアさんも座った。
「さて、まずは依頼自体の説明からね。転生者は送られて来たこと自体を知らないから依頼を出したのは転生者ではないの。この依頼はまた別の方から来ているわ」
「それは……誰ですか?」
「あら、気になる?」
「それはまぁ……」
「隠しても仕方ないことだし普通に言うけど大天使様よ」
「えっ!」
大天使ってのはあの……天界でも数える程しか存在しないっていう……?
「じゃあメリアさんはその大天使様の勅命を受けた特命階級ってことなんですか!?」
「あら、お勉強したのね。えらいわ」
メリアさんはにこりとこちらに微笑む。
「そうね。そして、それは別に私だけじゃないわよ?あなたたちもそう。この依頼をこなすのはあなたたちだしね」
「そ、そんなに重要な任務だったのか……」
いきなり任命されたから大した責任もない仕事かと思ったのに……天使の中でもかなり上位の使命じゃんか……。
「気負わなくていいわよ。大天使様の使命ですけれどあのお方もそこまで厳格なお方では無いの。失敗したところでペナルティもないわ。まぁ、その転生者の命運は賭かっているけれどね」
……それは失敗したくないな。
「それで、次は依頼の件ね。今回の依頼人はあなたと同じ世界からの人間よ」
「まじか!……あ、いや」
つい声を上げてしまったので慌てて口を抑える。
「珍しいこともないわよ。あなたのようにあまり私たちと容姿や文化が大きく変わらない人達の方が扱いやすいしね」
「それは確かにそうですね」
「明日がその人物と会う日ね。そんなわけで今日はそのブリーフィング。明後日が結果報告書の作成・提出その他色々な処理を行う日です。大まかにはこんな感じだけど、質問ある?」
「あの、俺はなにをやるんですか?」
質問しておかないと本当に何もわからない。
「あなたはララのサポートなので基本的にはララに任せなさい。現場の判断でもし流れが悪くなっていたらあなたが軌道修正するように動くといいわ」
「なるほど……」
「あまりわからないとは思うけれど一度経験してみたらいいと思うわ。何度か体験すれば次第にうまくいくようになるでしょう」
「で……でもその転生者にとっては……」
「大丈夫よ。もともと死んでしまった人だもの。記憶を持って転生できるだけでも彼らにとっては有利なことよ」
「それは確かに……」
「納得してもらえたなら大丈夫ね。じゃあ早速その対象の人物について説明していくわ」
「お願いします!」
「……」
「ララ?」
「ふぁっ!」
……また寝てたなこいつ……。
「ララがこの調子ではあまり良くないわね……この子がやる気を出してくれない限りうまくはいかないわよ」
「それはそうなんですが……」
眠そうに目を擦る少女にはそんな大役が勤まるのかと常々思ってしまう……。
「ララはね、ちょっと特別なのよ。だからあなたがしっかり支えてあげて。お願いよ」
そう言ってメリアさんは頭を下げる。
「や、やめてくださいよ!……でも俺も、こいつのことはなんかほっとけないです」
「かわいいものね」
「はは。それもありますね」
当人抜きに少し場が盛り上がったところでララが袖を引っ張る。
「ねぇねぇ、しごとは?」
「だからお前は聞いとけって……」
「ようやく聞く気になったようね。じゃあ始めるわよ」
メリアさんはエトンを開いた。