薄いカーテンを突き抜けた陽射しが俺の目を覚ます。時刻は午前七時。余裕のある目覚めだ。
「あ、きょうはおきられたんだね」
ララはもう既にパジャマさえ着替え終わっていて、ベッドの近くにあるデスクで"てんせいのきまり"を読んでいた。
「お、おう。おはよう」
「おはようっ!」
元気あるなぁ……俺がガキの頃なんて限界まで寝てたもんだが……。
「あさごはん、たべる?」
ララは本をぱたりと閉じると椅子から立ち上がった。
「ララ、早起きなんだな」
「そう?」
当たり前かと言わんばかりに首を傾げる。
「はやくおきたら、たくさんじかんがつかえるよ!」
それはそうなのだが……眠気の誘惑には勝てんのだ。
「えらいな、ララは」
「えへへ〜」
足取りを弾ませながら寝室を出ていった。
「俺も早く着替えなくちゃな」
ララに負けては示しがつかないのですぐに着替えることにした。
「ララー、なんか手伝うかぁ?」
着替え終えてからキッチンにいるララに尋ねる。
「おさらとって」
「はいは〜い」
ララの指示通りに2つの丸皿を取りフライパンを掴んでいるララの近くに持っていく。
「きょうのたまごは……ふたごだったの……」
なにやらぶつぶつと言っているのでフライパンを覗き込むと、そこには3つの黄身がついた目玉焼きの塊があった。
「お、目玉焼きか……」
「め、めだま……?」
「ああ……なんかさ、たまごの黄身が目玉みたいに見えるからそう呼ぶんだよ」
「こわ……」
確かに物騒な名前だけどそこまで嫌悪することなくないですか?
「これはね、タマワッカだよ」
「タ……タマワッカ……?」
目玉焼きの別名気持ち悪すぎだろ……。
「な、なぁそれほんと?」
「わっかのかたちしてるからあたしがつけたの」
「はい却下! 目玉焼きこれ! お願い! 目玉焼きにして!!」
どうしても聞き慣れた名前の方がいいし正式名称じゃないらしいのでララに懇願する。
「ん〜せっかくあたしがかんがえたのに……」
「ララが発明した調理法ってことなのか?」
「ちがうよ」
「じゃあなおさら! な!」
「そんなにいうなら……」
渋々といった感じだがララは納得したようだ。
「で、目玉焼きはほんとはなんて名前なの?」
「リュンデサーク・ボイクド・トッサルテ」
また豪華な……。
「そりゃ呼びにくいよね」
「だからかんたんなよびかたにしてたの」
「これから目玉焼きね」
「めだまやき! あ、よびやすいね!」
発音したらちょうど良かったみたいね。
「あ、ララ!焦げる焦げる!」
「わわ!」
ララは急いで目玉焼きを皿に取り分けた。
「はい、どうぞ!」
そのまま目玉焼きがふたつ乗った皿を俺の方に渡す。
「こっち俺でいいの?」
「うん!」
ララは惜しそうな素振りもすることのない柔和なな笑顔で頷く。
「ありがとな!」
「おにいちゃんのほうがおとなだし、あたりまえだよ」
わがままな割にはこういうところがやけに遠慮がちなんだよなこいつ。
「謙遜すんなよこの〜」
ナマイキなので頭を撫で回しておく。
「きゃぁは〜!」
髪をぼさぼさにしながらも嬉しそうに笑って逃げ惑う。
「よしじゃあララ、これ食ったら今日もがんばろうぜ!」
「おーう!」
俺たちは目玉焼きをおいしくいただいてから家を出た。