家に着いた時にはもう夜になっていた。
空の上だからか月が近い。……というか月や太陽はしっかりあるんだな。
「もうおなかぺこぺこだよね」
ララが腹をさすりながら言う。
お昼どころか朝ごはんも食べずに急いで家を出たわけだから、今日は一切なにも食べていないのだった。
「いやほんと悪かったな……朝も起きられず、昼も食わせてやれずで……」
再び謝るもララはケロリとした様子でそれを軽く流す。
「しかたないよね」
そこに関しては癇癪が待っていてもおかしくないと思ったが……待つことには慣れているような印象を感じる……。
「ごはんのしたく、しなきゃ」
「あ、俺も手伝うよ」
台所に向かうララについていく。
「できるの?」
くすりと笑われる。
「そ、そりゃあ……はは」
こちらも笑うしかない。ここの食材は全く知らないしそもそも料理の経験がただの自炊レベルだ。
「だが黙って待っている訳にもいかない!指示してくれ!」
「ララせんせーとおよびなさい」
ララは偉そうに腰に手を当てる。
「ララ先生!」
「ん」
えらそうだな……。
「それで?なにからすればいい?」
「じゃあなにたべたい?」
「ん〜どんなものがあるか知らんからな……」
「じゃああたしのおすすめで」
「たのむ」
ララは冷蔵庫から食材を出して机に並べ始めた。
ケチャップのような赤いソース……タマゴ……タマネギ……チーズ……?
あ、わかった!これチーズオムライスだ!
「チーズオムライス!」
「へ?」
俺が喜びの声を上げるとララは不思議そうな声を出す。
また名前が違うんですね……。
「ヴェルド・トッサルモ・チットロだよ」
なんかすごい豪華な名前ですね……。
「お米は炊けてるんですか?」
「うん!」
「よし、ララ先生。今回は俺に任せてくれないか?」
「できるのー?」
嘲笑するような目を向けているが、数分後のこいつの反応が楽しみだ。
「よし、完成だ」
チーズオムライスを作り上げた俺はそれをリビングで待つララの許へと運んだ。
「こ……これは……」
ララが目を見開く。
「ま、まぁ……たべてみるまではわかりませんから……」
ララからしたらはじめて名前を聞いた料理をいきなり作ったように見えたのだろう。
スプーンを黄金色に輝くベールに突き立てると、真紅に輝く大地が顔を見せ、溶けた雪のように枝垂れるチーズが輝く。
ほうと息を吹きかけつつそれを口に含む。
その瞬間声にならない声を上げながら頬を抑える。
「どうだ?」
「ふぐ……ごくゆ……」
咀嚼を終え口の中のものを飲み込むと、ララは黙って皿の上を見つめたまま固まった。
「……ど、どう?」
「うまぁぁああぁい!!」
突然天に向けて叫ぶ。
「お、おう」
「なんで!? なんでできるの!?」
ララは驚きと感動を隠せない様子で俺にすがりつく。
「はは、企業秘密っすよ」
「むむぅ〜」
ララは悔しそうに俺の身体を揺さぶる。
「めんきょかいでん!!」
「ありがとうございますっ!!」
ララ先生は大変満足したようだ。
お腹を満たしたので、きれい水を浴びて眠ることにした。
「いやぁ、まさかおにいちゃんがあんなに料理できたとはね!」
ベッドに入ると、感心したようにララが言う。
「お気に召しましたか?」
「うむ!」
茶番を繰り広げてふたりで笑う。
「でもさぁ、なんではじめてのおりょうりしってたの?」
ララは不思議そうにしている。
さっきは適当なことを言ってはぐらかしたから言いそびれたな。
「この世界の食材は俺の世界の食材とほとんど同じなんだよ。でも名前が違う。だから料理の方法や存在を知ってるってわけ」
「なるほろ……」
半分寝てる。聞く気あったのか?
「ま、もう寝ようや。あんまり難しい話しても仕方ないしな」
「う……ん」
そう言ったと思うとララはもう眠ってしまったようだ。
「ふぅ……今日もなんとかなった……」
朝イチからあんなことがあったわけで、やたらに疲れてしまった……。
いつになったら来るんだろうな。転生者ってのは。
ひとまずは俺も……明日に備えて眠るとしよう。