「じゃ、ここに入りなさい」
辿り着いた先は昨日訪れたメリアさんのアトリエだった。
「ここは特別な場所なんですか?」
「ええそうよ。魔力の触媒になるものを集めてあるから簡単に魔法が使えるの。それに何かを作る際にも素材を集めてあるから簡単なのよ」
「へぇ……」
「例えば今から作るエトンは本の形をしているけれど、質量を持たないの。でもそれを作るには一度質量を持たせた紙の束を使って作らなくてはいけなくて、それに対して魔力を注入、固定化して原型を作るの。この時その素体となる本は消滅するけれどそこには魔力を含ませて性能を強化させた新しい存在が生まれるってわけ。エトンは本としての性質を持ちながら魔力でその中身が常に変化するし質量もなく常に顕現させることや消滅させることのできる便利な存在なのよ」
……何を言ってるのかほとんど理解できないがとにかくすごいことらしい。
「つまり、元の素材を消費して新しいものを生み出すってことね」
なるほど……ソシャゲの合成進化みたいなことか。
「あれ?……でも俺の身体って……」
「あまり詮索はしないことね」
俺が口走るとメリアさんが割り入るように忠告してくる。
「は、はい……」
こわ。
「とにかく、アトリエには様々なことが可能になるメリットがあるの。もう説明は十分でしょう?エトンを作りましょう」
そう言うとメリアさんは俺の胸に手をかざした。
「う……」
痺れるような感覚があったがそれもすぐ治まり、俺の胸から光の球が取り出された。
「な、なんですかそれ?」
「あなたの魂よ」
唐突に言い放たれた言葉を聞いてぞくりと身震いする。
「ほんとですかっ!?」
「嘘よ」
すっ転びそうになるほどの肩透かしを食らったが、この人にツッコミを入れるのはあまり気乗りしないので黙っておこう……。
「さ、作るわよ」
そう言うとメリアさんはその球を部屋の中央に飛ばす。同時に紙の束やよくわからない道具が周囲の棚から飛んできて光に包まれる。
……そういえば結局光の球について聞きそびれたな……。
「まぶしいね」
「あ、うん」
ララが俺の足にがっしりしがみついてくる。
「あんまり直視しない方がいいわよ」
「あ、はい」
そう言われつつも俺はその光をちょっと見てしまっていた。
「う……」
まぶしい。
視界が真っ白に塗りつぶされる。
目が悪くなりそうだから早いとこ目を逸らした方が良いな……。
「…………空」
「え?」
俺の、もとの名前を呼ぶ声がした。
「空……あたし、だいじょうぶだから」
……そんなはずがない。
いるはずがない者の声が聞こえてくる。
「ぐ……ち、知香……」
驚いて目を開けると、真っ白だったはずの視界の奥に、輪郭のような線が見える。
それを直視し続けていると、段々とそれが鮮明になっていく。
そしてそれがまるで視界のように広がり包まれる。
意識がまるっきりその中に入ってしまったかのように。
「かわいそうにねぇ……」
「まだ若いのに……」
周囲から声が聞こえる。
そこは病院の一室だった。
俺は立っているはずなのだが人の膝程度の目線で、患者服に身を包みベッドに座る少女を見ていた。
「でも、でも知香は……」
俺が声を発している。
でもそれは今の俺じゃない。声も高く、声を出している意識もない。
おそらくこれは、俺の記憶。忘れもしない。あの大切な███の██████。
「ねぇ、空。あたしね。やくそくする。ぜったいにあなたを███████」
「でもお前は、もう██████んだ。今だってもう……」
「ううん。だいじょうぶ。ぜったいに。だってあたし、空を█████もん」
「俺にはなにもできないよ……」
「じゃあ、██████。きっと████くれるから」
「なんだよ……」
「空が、███████████くれますように」
「…………やくそくするよ」
███████████
██████████
█████████
████████
███████
██████
█████
████
███
██
█
……急速に思考がまとまらなくなってきた。
視界が唐突にぼやけ、真っ白に包まれていく。
数秒前まで考えていたことすらも朧気になる。
まぶしい……まぶしいな……。
「う……」
光が止み、部屋の中央に黄色の本が現れた。
「はい、完成」
メリアさんがその本を手に取り俺に渡す。
「……なにか、見えた?」
メリアさんが囁くようにそう言ってきた。
「え?いや、なにも……」
「そう」
質問の意図はわからなかったがメリアさんは少し笑った。
「じゃあそれ、使ってみてごらんなさい」
「どうすればいいんです?」
「念じるだけよ。現れること、消えること。それだけ」
メリアさんの言った通りに本が消えるイメージをするとエトンは消えた。
「お、消えた」
そして現れるイメージをするとエトンは再び現れた。
「おーっ!出た!」
「成功ね」
「すごいですねこれ!」
「あなたと大切なつながりのあるものですからね……」
「そ、そうなんすね」
あの球、なんだったんだろうか。
「じゃあそれを使って次の転生者が来るまで自主的に勉強に励むように」
「はい!」
メリアさんに別れを告げて管理局を出た。