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きれいきれい

ララの作ってくれたドンドンニを平らげた俺は満腹感と幸福感で満たされていた。

「ふぅ〜……いや、ドンドンニまじで美味かったな」

腹をさすりながら先程の味を反芻する。

「ララのすぺしゃるなブレンドなの」

ララはえへんと腰に手をあてる。

「多分お前は天才だよ」

「えへへ……」

俺の素直な賞賛を受けて照れくさそうにしている。

「さて、んじゃちょっと風呂入ってくるわ」

もういい時間だ。明日に備えて寝るためにも風呂に入っておかなければなるまい。

「おふろ?」

「あぁ。なにか問題でも?」

ララがなにか言いたそうだったので一応訊いてみることにした。

「ないよ?そんなの」

ぴしり、と空間にヒビが入る音がした。

え、問題が、ないじゃなくてお風呂が、ないの?

「な……そ、それじゃあどうやって汚れや疲れを落としたらいいんだ……?」

わなわなと打ち震えながら風呂ロスを嘆く。

「そこのへやはいって?」

ララが示したのは居間から出てすぐの廊下から繋がる脱衣所つきの小部屋だ。

その小部屋の扉は木造で、俺の知る浴室とは違い中がすっかり見えなくなっている。

だが脱衣所と仮定したその部屋は、服を収めるカゴやタオルが置いてあるため間違いなく脱衣所なのだろう。

つまり、この先の部屋は浴室に違いないのだ。

「お、なんだかんだ言ってカレーみたいに代わりになるなんかがあるってんだな。はは、風呂なかったらダメっすよ俺ァ」

ウキウキとしながら服を脱ぎ捨て小部屋の扉を開ける。

しかしそこには何も無かった。

トイレみたいな狭さで何も置かれていない。

床はいくらか風呂らしいタイル地に排水溝のついたものではあるが、シャワーすらない。

「え、なにこれ」

「じゃ、しめるね」

「あ、おい」

ばたりと扉が閉められる。

「きれいきれいしましょうね〜」

ララの声が外から聞こえてくる。

「なに?これ……」

と、いきなり頭上から大量の湯が降り注いできた。

「うぉわちゃあぁぁあぁぁあっ!!」

温度はおそらく42度……やや熱い程度の湯だが何の準備も無しに浴びせかけられた湯は実に熱いものに感じられる。

「お、おい!なんだよこれ!」

「……」

いまだに室内には湯が降り注ぎ続ける。

その流水音のせいでララには俺の声が聞こえていないのかもしれない。

「だ、出せぇ!出してくれぇ!」

扉には鍵がかかっているらしく開かない。

扉をどんどんと叩き懇願するもララには届かない。

「あれ?でもこれ……よく考えるとシャワーだよな?」

冷静になればこれは確かにシャワーに違いなかった。受け入れて髪や身体を擦ってみると、なんと泡がたった!

「あ〜!なるほどね!」

ひとりで納得した。不思議だがこれは石鹸の役割をもったシャワーらしい。

擦る度に泡は出てきて上からの流水ですぐに流れていく。

解けるように汚れも落ちていくのがわかる。

「すっげ! 魔法? 魔法なのこれ?」

テンションが上がり水流に流されない程の速さで全身を擦り泡で包み込む。

「うおおおぉおぉぉお!俺は羊だ!めぇぇぇええええぇぇええ!」

その時、シャワーが止まりばたりと扉が開かれる。

「な……なにいってるの……」

「あ……いや……」

しまった。外にいたの忘れてた。

ララは気味の悪いものを見るかのような目をして呆然と立ち尽くしている。

「なに?……ひ、つじ?」

「う、うるせェ!!」

恥ずかしくなった俺は誤魔化すように叫ぶ。

「おにいちゃんがねっ!!」

ララが至極真っ当な正論を返す。

それは、まぁ、確かに……。

「わ、悪い。……続けてくれ」

ララが無言で扉を閉めると再びシャワーが降り注ぐ。

俺は黙ってもこもこに泡立てた泡を大人しく落として部屋から出してもらった……。



「あったまった?」

ララがにこりと笑ってタオルを差し出しながら脱衣所で俺を迎える。

「お、ありがと。うん。あったまったよ」

色んな意味でな。

「じゃあつぎ、あたしね!」

「待ってちょっと。あのシャワーどういう仕組みなの?」

魔法なんて使えないから俺には再現できないぞ。

「あ、ここおせばいいんだよ」

浴室に入る扉の隣になにやらスイッチのようなものがある。

「押すとどうなる?」

「すきなときにきれいみずがだせるようになるよ」

きれい水……あのなんか泡立つ水のことかな。

「……ってことは俺が初めからスイッチ押して入ればよかったんじゃん」

「うん」

あっさり言うけどこいつも浴室の前で待たなきゃならないし損しかなかったぞ。

「で、扉が開かなかったのは?」

「あたしががんばった!」

ドヤ顔でふんぞり返る。

「ララ、お前だったのか。ずっと扉を押さえてたのは」

「うんっ!」

ララは嬉しそうに返事をする。

「せめて説明くらいしろっての!こっちはなぁ、きれい水の使い方も知らないから浴室に入れられたルヴのように為す術なかったんだっつの!」

文句を言いながらララの髪をわしゃわしゃとかき混ぜる。

「きゃはぁー!」

むしろそのイジりを待ってたように嬉しそうに抵抗してくる……。

「まぁいいや。じゃあひとりで入れるんだな?」

「はいれるよ!」

そう言ってララはすぽーんと着ていたローブを脱ぐ。

「……ばか、隠せっつの」

ローブの下にはまだ服を着ているから良いものの、恥じらいも無い幼児の脱衣でさえ危うい昨今だ。軽はずみな行動に出ないで欲しい。

「おにいちゃんがねっ!!」

ララが至極真っ当な正論を返す。

それは、まぁ、確かに……。

言われてみると俺は風呂に入ってたわけで、つまり全裸だった。

「いっけねぇ〜☆」

そう言いながら拳を頭に添えて軽く舌を出す。

古来より伝わる伝統的な華麗で隙のない誤魔化しにより有耶無耶にしようかと思ったが、ララはズルいと言わんばかりの視線を向けていた。

俺の完璧な誤魔化しが……通じないとは……。

「わ、悪い。……着替えるから」

ひとまずララが着替え始める前にすぐに服を着て脱衣所から退散した。

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