マンションに帰宅した梢は、息を切らしながら勢いよくドアを開けた。笑理が玄関まで姿を現して迎えてくれた。
「おかえり」
「ごめん……笑理……」
呼吸を荒くして、梢はその場に崩れ落ちた。
「大丈夫。まだあと十分残ってる」
梢の目線に合わせるように、笑理は微笑んだ。
梢が腕時計を見ると、針は十一時五十分を指していた。
「十一時過ぎに、梢が退社したってお父さんから連絡来たの」
「そうだったんだ……」
「さ、おいで」
手を引っ張られ、笑理と共にリビングに来た梢はコートを脱ぎ、マフラーを外した。
テーブルには笑理が用意したクリスマス料理が並べられている。
「ごめん、ご飯冷めちゃったよね……」
「大丈夫、レンチンすれば食べれるから」
「あ……」
梢が窓に目をやると、カーテン越しに雪が降りだしているのが見えた。
「天気予報当たったわ、やっぱり降ってきたね」
梢と笑理はカーテンをめくって、外の景色を眺めた。粉雪はどんどん強く降っていく。
「外寒かったもん。多分降るだろうと思ったけど」
雪を見ていた梢は、笑理からバックハグをされた。
「笑理……」
「梢。私、今一番幸せだよ。大好きな人とクリスマスを過ごせるんだもん」
視線を感じて梢が振り向くと、笑理はじっとこっちを見ていた。お互いに微笑み合うと、そのまま優しく唇を重ね合わせた。
「そうだ、笑理。私と高梨部長から、クリスマスプレゼントがあるんだよ」
「プレゼント……?」
梢は高梨と相談した、『指切りげんまん』映画化の件を伝えた。
「え……本当なの?」
唖然とする笑理に、梢は大きく頷いた。
「うん。笑理、初デートの時に言ってたよね。自分の作品がメディアミックス化されることが夢だって。その夢が叶うんだよ」
「ありがとう、梢……。これからも、私のこと支えてね」
「もちろん」
「約束だよ」
笑理から小指を立てられて、梢も小指を出すと指切りをした。梢も笑理も、お互いに絡む小指と、指切りするたびに揺れ動くお揃いのブレスレットを見つめた。
「愛してるよ、梢」
「私も、笑理のこと愛してる」
梢は再び背後から笑理に強く抱きしめられると、微笑みながら頬や唇にキスをし合い、いつまでも窓の雪景色を眺め続けた。
笑理との再会から次の春で一年。この九ヶ月で様々な出来事があったが、これからも笑理との時間を大事にしていこうと梢は思っていた。
白い雪が積もっていくほど外は寒かったが、赤い糸で結ばれている梢と笑理の心は間違いなく暖かくなっていた。