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その三

クリスマスイブも、梢にとってはいつも通りの朝であった。笑理との朝食を終え、出かける直前には、

「夕方会社出るとき、連絡するね」

と言って、出勤をした。笑理もそのタイミングを見計らって、クリスマスイブの食事の準備をするようであった。

笑理との同棲以降、数日に一度は笑理手作りの弁当持参だった梢は、自分のデスクで弁当箱のふたを開けた。毎回恒例とも言うべき卵焼きに、今日は豚肉の生姜焼きと昨晩の残りであるポテトサラダも入っている。

「いただきます」

弁当を作っている笑理の顔を思い浮かべながら箸を進めていると、真由美が走ってやってきた。

「ねえ、梢。ちょっと良い」

「どうしたの?」

真由美の話では、『ひかりセブン』編集部のメンバーが数名、流行風邪のために会社を休むことになってしまい、明日の十七時の印刷会社への入稿に間に合わないため、各制作部署から応援をお願いしたいということだった。

『ひかりセブン』といえば年明け号から笑理執筆の連載小説も始まる週刊誌でもあり、また高梨からもぜひ行くようにと背中を押されたことで、梢は弁当を早食いした後、『ひかりセブン』編集部へ駆け出して行った。


午後になってすぐ、笑理は近所のスーパーへ買い出しに来ていた。野菜の価格高騰に驚きながらもカートを引いていき、カゴに食材を入れていく。

『ごめん、もしかしたら遅くなるかも』

梢からのLINEが届いたのは、そんな時であった。

『了解。仕事ならしょうがないもんね』

笑理はすぐに返信すると、再び食材を手にしながら買い物を続けていった。


笑理にLINEを送った梢は、真由美の手伝いに追われている。

文庫本や単行本といった文章だけが続くものを何ヶ月かに一度制作するのとは違い、週刊誌は事件や事故やスキャンダルなどの記事、有名人のコラムやインタビュー、グラビア、スポンサー広告など様々なコンテンツがカラーページとモノクロページに分かれて二百ページ近くもあるものを毎週制作しなければいけない。

編集部は常に上へ下へのてんやわんやで、応援に来ている梢も複数のゲラを確認するのにもバタバタしていた。

「ごめんね、梢。急にこんなこと」

「『ひかりセブン』の編集部って、こんなにいつもバタバタしてるんだ」

「まあ、入稿前は毎度のことだよ。このお礼は、近いうちに必ず」

「大丈夫だよ」

梢は申し訳なさそうに言う真由美に笑顔で返すものの、内心は今日の退勤はいつになるだろうかを考えていた。

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