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その四

笑理はフロントの奥にある事務所で仕事をしていた房代と朱理のもとを訪れていた。

「実はさ、ちょっと二人に相談があって」

「何?」

不思議そうに房代が見つめた。

「いつか、ここにお父さんを連れてきたいの」

「あんな男に、うちの敷居を跨がせるわけないだろ」

房代は眉間に皺を寄せて少し声を張るように言ったが、朱理がふと、

「私も、お父さんに会ってみようかな」

「朱理……」

朱理は諭すように房代に体を向けると、

「おばあちゃんにとっては憎い娘婿かもしれないし、私たちにとっても家庭を壊した嫌な父親ってことに変わりはない。でも、いつか分かり合える時が来るんじゃないかって。笑理が現に、梢さんと知り合ったのだって、お父さんが繋いでくれた縁だもんね」

「お姉ちゃん……」

「来るのは勝手だけど、ちゃんと雪乃に謝る姿を見せないと、敷居は跨がせない。そもそも、雪乃やあんたたちが許したって、私は許しませんから。あの人に伝えときなさい」

祖母が何とか折れたことに安堵し、笑理は姉と顔を合わせ笑顔で頷いた。


「やっぱりね」

笑理から事の次第を聞かれた梢は苦笑した。

「どうしても、おばあちゃんたちに伝えときたくてさ」

「高梨部長には、私から伝えとく。旅行で奥飛騨に行くって話したから、私が高梨部長と笑理が親子だっていう事実を知ることも察してると思う」

「そうだね……」

「高梨部長とは、またやり直せると思うよ。私が言うと何の説得力もないけど、家族の縁ってそう簡単に切れないと思うし。いくら相手が憎い人でもね」

笑理は改まったように正座をすると、梢に頭を下げた。

「ありがとう、梢。本当はね、三回忌でもこっちには帰ってこないつもりだったの。お母さんのこと考えると辛くてね。でも、梢が一緒だったから満足のできる良い旅行になった」

「お母さんは、笑理が帰ってきてくれて絶対喜んでると思う。それに、私も現実逃避できる良い旅行になった。ありがとう、笑理」

にっこりと、梢は微笑んだ。

「梢、今日抱いても良い?」

笑理の視線が自分の襟元に向けられていることに気づいた梢は、襟元の着崩れに気付くと慌てて直し、小さく首を縦に振った。

その後、布団の中で体を重ねた梢は、笑理にゆっくりと浴衣の帯を解かれた。白い肌が露わになり、くっきりと浮かぶ鎖骨を優しく撫でられる。思わず息が漏れながらも、その笑理の撫でる手を梢は強く握りしめ、お互いの指を絡ませながら何度も唇を重ねていった。

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