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その三

梢と笑理は近くの食事処で山菜うどんを昼食に摂った後、タクシーで平湯大滝へ赴いた。

落差六十四メートル、幅六メートルの平湯大滝は飛騨三大名瀑のひとつと言われている。水の落ちる轟音が周囲に鳴り響き、梢と笑理はじっと悟りを開いたように、水の落ちる様を眺めていた。

滝を背景に、梢は笑理の手にしたスマホで記念写真を自撮りした。母の墓参りという目的を果たした笑理には、清々しい笑顔が戻っていると梢は写真を見て思った。


夕方になって旅館に戻ると、ちょうどフロントで房代が仕事をしていた。

「お帰りなさいませ」

顔を出して房代が迎えてくれた。

「お母さんにも、ちゃんと報告してきたよ」

笑理がそう言うと、房代も安堵の笑みを浮かべ、

「笑理が来てくれて、雪乃も喜んどるわ。それに、梢さんも一緒にお参りしてくださって、ありがとうございます」

「いえ……。私、決めましたから。笑理とずっと一緒にいるって」

「梢……」

「明日お帰りになるんでしたら、最後の夜はゆっくりお風呂に浸かって、お食事も楽しんでいらしてください」

「はい」

梢は頷くと、笑理を笑顔で見つめた。


夕飯を終え、風呂から戻った梢と笑理は、交代しながらドライヤーで相手の濡れた髪を乾かしあった。

「旅行も、今日で最後だね。奥飛騨って初めて来たけど、良いところだね。都会とは全然違って静かで、空気も美味しくてさ。気に入っちゃった」

少し寂しそうに梢が呟くと、笑理は微笑んで、

「またいつでも来られるよ。まあ旅行っていうのは、たまに行くから良いと思うけど、何ならこれからはさ、一年に一回、私たちのイベントとしてこっちに来ようよ」

「良いね、それ。おばあちゃんやお姉さんにも会えるしね」

「うん」

「あのさ、笑理。私、今朝おばあちゃんに会ったの」

梢は、今朝の食事の際に交わした房代との会話のことを笑理に告げた。

「そう……おばあちゃんが、そんなこと言ってくれたんだ……」

「都会で一人で生きてる笑理のこと、ずっとおばあちゃん、気にしてたと思う。確かに私たちのことを何て言われるのかは気になったけど、笑理さえ幸せに生きてくれたら、それでおばあちゃんは十分なんじゃないかな」

すると笑理は思い立ったように、振り向いた。

「どうしたの?」

「ごめん、ちょっと出てくる」

髪はまだ完全に乾いていなかったが、笑理は慌てて客室を飛び出していった。

一瞬唖然としたものの、すぐに梢は笑理の向かった先に見当がついていた。

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