房代と朱理が去った後、笑理は安堵の様子だったが、梢は笑理と高梨の関係性のことが頭からは離れず難しい顔のままである。
「いつ言おうか、ずっと迷ってた……」
梢の中で、一つ合点がいくことがあった。それは、件のパーティーの後、二日の休みを経て復帰した際、高梨から何も言われなかったことだ。
「もしかして、笑理が何か言ったの?」
「まあね」
パーティーの翌日、笑理は買い物に出かけると外出をしていた。その時、笑理が高梨と会って梢との関係性を説明したことを、梢は聞かされた。
「あの人に、私の恋愛をとやかく言う資格なんてないもん。自分だって好き放題やってきて、家族を壊したんだから」
「これまで他人のふりをしてたのは、周囲の人たちに家族だってことを知らされないようにするため?」
「うん……。だから、梢にもなかなか言い出せなくて。それに、西園寺久子のことも……」
「西園寺先生?」
「離婚する頃、あの人の不倫相手だったのが西園寺久子」
笑理が久子を毛嫌いしていた本当の理由が、梢にはようやく分かった気がした。
「生理的に嫌いって言ってたけど、本当は家族崩壊の原因になった人だったからなんだね」
「そういうこと……。私の親を離婚に追い込んで、梢にもあんなことして、私は一生あの女を許さない」
梢は雰囲気を変えるように優しく微笑んで、
「今日はもうゆっくり休もうよ」
「そうだね」
笑理も小さく頷いた。
それぞれの敷布団の中で眠っている梢と笑理だったが、笑理はどうも寝付くことができず、何度も寝返りを打っている。
「寝れないの?」
笑理の様子に気づいた梢が振り向いた。
「まあね……」
「一緒に寝ようよ」
梢が掛布団をめくった。笑理が枕を持って、梢の隣に密着するように入る。
「ねえ、笑理」
「……?」
「私、まだ全然笑理のこと知らなかった。今日、それを痛感した気がする。笑理は、ずっと苦労してきたんだね……。でも、もうそんな思いさせない。私がいるから」
これまで何度も頭を撫でられてきた梢は、今日初めて笑理の頭を撫でる側となった。
「ありがとう。私、梢を担当者にしてくれた高梨部長には感謝してる」
「高梨部長は、私が後輩だってこと知ってたんじゃないかな。学生時代に接点があることを分かったうえで、私を担当にしたのかもしれない」
「どうでも良いよ。梢と出会えただけで十分なんだから」
「笑理……」
梢は笑理の額にキスをした後、ゆっくりと唇を近づけて口づけをしあった。