記念パーティーは、すっかり会も中間に入っていた。梢も真由美も食事に舌鼓を打ちながら、場の雰囲気を楽しんでいた。
「飲んでるかしら?」
と、久子がシャンパンの入ったグラスを二つ持ってやってきた。
「私、ちょっとトイレ行ってくるわ」
真由美は逃げるようにそそくさと去っていき、梢は久子と一緒にシャンパンを飲むことになった。
「乾杯」
久子に言われ、梢はグラスを打ち合うと飲み始めた。
「この後の発表が楽しみね」
「ええ」
何度かシャンパンを口にした後、梢は少しずつ頭がボーっとしていく感覚に襲われた。
「どうしたの?」
久子が不安そうに尋ねた。
「ちょっと、めまいというか、立ちくらみが……」
そんな梢や久子の様子に気が付いて、高梨も駆けつけた。
「山辺君、どうした?」
「立ちくらみがするんだって。私、今日ここに泊まるつもりで部屋取ったから、そこで休んでもらうわ」
「ああ、よろしく頼むよ」
久子に抱えられながら、梢はパーティー会場を去っていった。
ニ十分ほど経ってからのこと。ホテルのロビーには地模様の入ったオープンショルダーの黒ドレスに身を包んだ笑理が、スマホを持ちながらソファーに腰掛けて待っていた。
すると、高梨と真由美が話をしながら通りかかっているのが見えた。笑理は慌てて立ち塞がるように高梨たちの前にやってきて一礼した。
「三田村先生」
真由美は驚いた様子で、
「え……この方が、三田村理絵先生」
「紹介します。『ひかりセブン』を担当している、倉沢真由美君です」
「山辺さんから話は伺ってます。連載小説の件、引き続きよろしくお願いします」
高梨から真由美を紹介され、笑理は深々と頭を下げた。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
真由美も恐縮するように頭を下げた。
「それにしても、パーティーには来ないって言ってた人が一体どうして?」
「気が変わったんです。それに、せっかく山辺さんが誘ってくれましたし。ただ、彼女に連絡してるんですけど、返信がなくて」
「山辺君なら体調不良になって、今西園寺先生の部屋で休んでます」
高梨から聞かれた話は、笑理にとっては胸騒ぎのすることであった。
「え、西園寺先生?」
「今日、宿泊するからって部屋を予約してみたいです」
「多分今頃、西園寺先生が付き添ってるかと」
笑理は自分の直感を信じ、フロントへ駆け出して行った。
「倉沢君、先に会場に戻っててくれ」
真由美にそう指示をすると、何かを悟った高梨も慌てて笑理の元へ合流した。