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その五

二日の静養を経て、梢は職場に復帰した。早々に梢は、高梨から個別で呼び出されたのだが、内心は穏やかではない。日曜日に笑理と出かけていたところを、もしかしたら気づかれたのではと思っていたからである。

「え、本当ですか?」

「ああ、先週配給会社のほうから連絡があって、上層部で正式なGOサインを出してから連絡しようと思ってね」

高梨から伝えられたのは、梢の担当でもある久子の小説を原作にした映画化企画の話であった。梢はふと、日曜日に高梨と久子が街で会っていたのは、この件のことだったのかと合点がいった。

「山辺君には西園寺先生の担当編集者として、配給会社との調整役をお願いしたい。今やメディア出演が著しくなった西園寺先生の作品が映画化になるんだ。これは、『ひかり書房』においても重要なプロジェクトだと思ってる」

「分かりました。ぜひ、やらせていただきます」

「ありがとう。俺も後方支援に回るから、何かあったらいつでも相談してくれ。元々癖の強い西園寺先生だ、映画化となれば、またどれだけ天狗になるか分からんからな」

高梨は苦笑して呟いた。確かに久子の動向は見当がつかず、梢もひやひやすることが多々あったため、今回もどんなことになるのか少し不安な気持ちであった。


その夜、梢が帰宅すると、エプロン姿の笑理が迎えてくれた。

「おかえり、梢」

「ただいま」

今や帰宅時のハグは、二人の恒例となっている。

「今日のご飯は何?」

「秋っぽくしようと思って、栗ご飯にした」

「すごい! 楽しみ」

料理上手な笑理の夕飯が、梢にとっては同棲が始めってからの楽しみとなっていた。笑理には執筆活動に専念してほしいと思いながらも、梢は時期によっては残業になることもあったため、家事の手伝いがあまりできないことを内心申し訳ないと感じていた。

だが笑理は気にしていない様子で、梢のおかげで自分は執筆活動ができているとむしろお礼を言われたほどだ。数日前に聞いた笑理の家族の話を聞いてからというもの、梢は自分が笑理の一番近い存在になりたいと思っていた。

深夜になり、ようやく色違いの同じパジャマを着た笑理と一緒に眠ることができた梢は、ベッドで体を密着させながら、思いの丈をぶつけた。

すると笑理は一言、

「もうなってるよ、梢は」

と、耳元でささやいた。ホッとした梢は、嬉しさのあまり自ら笑理に顔を近づけて唇を奪い、笑い合った。病気明け最初の夜は、最高に幸せなひと時であった。

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