定時退社をした梢は、そのまま笑理のマンションへと向かった。
ドアが開き笑理が顔を出すと、梢は中に案内された。すると突然、部屋の灯りが消えた。
「え、何?」
「♪ハッピーバースデー、トゥーユー」
笑理が歌いながら、一本のロウソクを立てたショートケーキを運んできた。
「梢、お誕生日おめでとう」
「あ……そっか、今日私の誕生日だった」
「はい、ロウソク消して」
梢は息を吹きかけて、ロウソクを消した。
「ありがとう、笑理」
「お祝いしようか。夕方から、支度してたんだよ」
梢がテーブルを見ると、そこにはフライドチキンやサラダ、ワインなど、祝いの食事が用意されていた。
「いつも通り仕事だったから、私、自分の誕生日すっかり忘れてた」
梢が苦笑して答えると、笑理も同じく苦笑して、
「実はね、私も今日梢の誕生日だってこと思い出したの。だから、プレゼントもまだ用意できてなくてさ、ごめんね」
「大丈夫だよ。笑理だって、これから忙しくなるんだもん」
「あ、ただね、これは用意したんだよ」
「何?」
「手、出して」
笑理にそう言われ、梢が手のひらを見せる。すると、笑理から何の変哲もない鍵が渡された。
「鍵? え……まさか」
ハッとなって梢は笑理を見つめた。
「一緒に住もうよ」
「それってつまり……同棲?」
「好きな人と一緒に暮らすのに、理由なんてないと思うし」
笑理と一緒に暮らすことなど、夢のような出来事で、梢は思わず顔に笑みが零れた。
「一緒に暮らせるんだ、笑理と」
「うん」
「ありがとう」
微笑み合った二人は、どちらかともなく顔を近づけ、優しい口づけを交わした。笑理とキスをし、同棲するための合鍵をプレゼントされたことは、梢にとって最高の二十六歳の誕生日となった。
「それと、これ。慌てて書いたんだけどね」
笑理から受け取ったのは、花柄の便箋に達筆な字で書かれた手紙であった。
『大好きな梢へ お誕生日おめでとう。いつもからかってごめんね。大好きな梢を目の前にすると、大事にしなきゃって思うのに、正直になれないのか、ついちょっかいかけちゃうんだよね。思いがけない形で梢と再会できて、こうして付き合っていることは、今でも夢なのかなと思ってしまうほどだよ。これからも、デートしたり遊んだり、たくさんの思い出作ろうね。改めて言わせてほしい。梢、愛してるよ。笑理より』
手紙の内容に感動した梢は、笑理に強く抱き着き、手紙の通りもっと笑理との思い出を作りたいと心底思ったのだった。