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その三

梢が去っていった後、早速笑理は書斎兼作業部屋にこもり、連載小説の構想を考え始めた。新作の仕事が決まったことでエンジンがかかったこともそうだが、笑理にとって嬉しかったのは、梢が新作を書き終えたばかりの自分を気にかけてくれたことだった。

相変わらず、作品を生み出すことになると集中してしまう笑理は、そのまま夜遅くまで作品の構想を練るのに時間を要した。


数日後の夕方、笑理から連絡をもらった梢はマンションを訪れた。来訪早々、梢は笑理から何ページもの書類がホチキス止めされた作品企画書を渡されて驚愕している。

「これ、もしかして今度の連載の……?」

「そう。エンジンがかかっているうちに、とりあえず全体の構想は作っておこうと思って」

梢は早速、企画書に目を通し始めた。作品で伝えたい意図や、メインの登場人物紹介、そして全体のプロットが細かく記載されている。

「すごい……。これ、この数日で作っちゃったの?」

「週刊誌連載小説だし、何より梢と一緒に仕事ができるでしょ。つい時間忘れて作ってたら、こんな風になっちゃった」

ふと梢は、不安な胸中を目の前に相対する笑理に打ち明け始める。

「あのさ……笑理。これから仕事が忙しくなったら、二人でゆっくりできる時間作れるかな? 前みたいに、作品を書き上げるまでデートお預けとか、そういうことにならないかな」

とは言ったものの、自分は編集者として作家の意図を尊重しなければと思った梢は、自分の発言に後悔をした。笑理ではなく、三田村理絵先生である切り替えも、近頃の梢は忘れがちになっている。

「あ……三田村先生が作品を執筆するために、集中したいのであれば、私は何でも受け入れます」

ハッと我に返り、梢は慌てて訂正した。すると、笑理が突然笑い出して、

「デートはちゃんとするよ。でもさ、私はこうして梢と一緒にいれる時間は、例え仕事でも、気分はデートだと思ってるよ」

「笑理……」

梢の背後に移動した笑理から、突然抱きしめられた梢は、心拍が上がり始めた。

「こうやって、一緒にいられるだけで良いじゃん。梢が側にいてくれるから、私は書けるんだから。嬉しかったよ。梢が、私のことを考えて連載のこと慎重に考えてくれたこと」

ささやくような笑理の声が耳元で響き、梢の耳は真っ赤になる。梢のドキドキは笑理にも伝わったようで、

「何をそんなにドキドキしてるの?」

笑理に意地悪そうに尋ねられ、梢は思わず口をつぐんだ。

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