数日後の日中、梢は笑理のマンションに向かっていた。その道中、今から会うのはあくまで三田村理絵先生であり笑理ではないと、自分自身に言い聞かせている。公私混同はしないようにと思っていたが、結局笑理の姿を見てしまうと、編集者ではなく笑理の恋人になってしまうことが恥ずかしいと、梢は思っていた。
週刊誌の連載となれば相当な期間を要することになることは梢にも分かっており、新作を書き終えたばかりの笑理の負担を考えると、梢にとっては決して前向きになれない企画であった。
だが笑理はあっさりと一言、
「その企画、乗った!」
と、随分と乗り気な姿勢である。
「本当に大丈夫なの? 新作書き終えたばっかりなんだよ」
「だからだよ。新聞小説も終わって、新作も無事に出版した。私たち作家にとっては、一つひとつの仕事で食べていくかどうかの瀬戸際なの。それに、週刊誌の連載となれば幅広い年代層にも読んでもらえるし、長期の仕事だから、また新しい何かに繋がるかもしれないでしょ。長編小説にもなるだろうから、力も入るしね」
やはり書くことが好きなんだと、熱弁する笑理の瞳を見て梢は思い知らされていた。
「ただ、週刊誌の連載をするにあたって、一つだけ条件があるの」
「何?」
「編集者として、梢も携わってほしい」
「笑理……いや、三田村先生」
梢は慌てて訂正した。やはり仕事モードにならなければと、心の中でひたすらに言い聞かせた。
「いちいち直さなくて良いよ。私はね、梢に助けてもらいながら作品を書きたいの。前に言ったでしょ。私は、作品のために梢に付き合ってるんじゃない。梢と付き合ってるから作品が書けるんだって。だから、私を支えてほしいの」
編集者として、作家の意思を尊重するのが第一だと思ってる梢は、恋人ではなく担当作家として笑理の考えを大事にしようと思った。
社に戻った梢は、高梨に報告をした後、『ひかりセブン』編集部でゲラチェックに追われている真由美の元を訪れ、笑理の了承を得たことを告げた。
「本当ッ……!? さすが梢、ありがとう。早速来週の編集会議で報告しとく。梢が編集者として間に入ってくれたら、こんなにも心強いことない。どんな話にするのか、三田村先生と進めておいてもらえるとありがたい」
真由美は、作業をしながらのこともあり、少々早口でそう答えた。
笑理が忙しくなることは良いことだと思ったが、内心二人の時間を作れるのかということも、梢は考えてしまっていた。