九月中旬、笑理の最新作『忘れられない青春』は全国の書店や通販サイトで流通することになった。また同じ日、久子の最新作も日の目を見ることになった。
書籍発売の日ではあったが、梢にとってはいつもと変わらない一日だった。担当している作家の原稿を読んだり、デザイナーと装丁デザインに関する打ち合わせをしたり、日々の業務に追われていた。
久しぶりに定時で仕事を終えた梢は、無事に自分の担当している作家の最新作が出版されたことに安堵したのか、自身のマンションに着くと、ドッと疲れが出たようでベッドにそのまま横になった。するとインターホンが鳴り、気だるそうに体を起こしてモニターを見た。
「笑理……」
画面に映った笑理の姿を見て、梢は慌ててドアを開けた。
「どうして……」
梢が尋ねたが、笑理は黙ったまま梢を強く抱きしめた。
「ごめんね。長いこと、寂しかったよね。梢のおかげで、無事に作品が世に出た。ありがとう」
こんなに密着できるのは約三ヶ月半ぶりで、梢の顔にも笑みが浮かんでいる。
「ずっとお預けになってたもんね。でも、もう我慢することないよ」
「とにかく上がって」
梢は笑理の手を取って、そのまま居間に案内した。
やがて、ベッドに座っていた梢は、背後の笑理からバックハグをされ、幸せなひと時を過ごしていた。
「やっとこうやってできる」
笑理からささやかれ、梢の腕には鳥肌が立っていた。
「そうだね」
「梢、頑張ったね。西園寺久子の作品も無事に完成させてさ。さすが『ひかり書房』の編集者」
「いろいろ大変だったけど、形にできて良かった」
笑理に頭を優しく撫でられた梢は、キスの流れだと思い瞼を閉じた。が、何も起きなかったので、もう一度目を開くと、じっとこちらを見つめる笑理の顔があった。
「もう……」
照れた梢の耳は、真っ赤になっていた。
「どうした?」
「今の流れ、キスだと思うじゃん。だから待ってたのに」
「ごめんごめん。三ヶ月半頑張った、ごほうびのキスあげるね」
「うん」
梢は嬉しそうに大きく頷くと、もう一度目を閉じた。そして同じように目を瞑った笑理からのキスを受け入れた。
笑理からブラウスのボタンを外されることに気が付いた梢は慌てて、
「待って。今日、下着地味なんだけど……」
「そんなの気にしない。どうせ最後は全部脱ぐんだから」
笑理を受け入れた梢は、そのまま服を脱がされた。やがて二人は、三ヶ月半ぶりに一夜を共にし、爽やかな朝を迎えたのであった。